大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 平成9年(ネ)667号 判決 1998年2月27日

主文

一  原判決主文一項を取り消す。

二  一審被告は、一審原告に対し、金三五一万六一一八円及びこれに対する平成三年一月二八日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

三  原判決主文二、三項を次のとおり変更する。

1  一審原告は、一審被告に対し、金一二〇〇万円及びこれに対する平成九年六月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  一審被告のその余の反訴請求を棄却する。

四  訴訟費用は、一、二審を通じてこれを五分し、その三を一審原告の、その余を一審被告の負担とする。

五  この判決は、二項及び三項1に限り、仮に執行することができる。

理由

一  原判決の引用

原判決理由説示関係部分記載を引用する。

ただし、次のとおり補正する。

1  原判決七枚目裏四行目文頭から同八枚目裏四行目文末までを次のとおり改める。

「(一) 無差別電話勧誘の検討

(1) 平成八年改正前の昭和六三年当時施行中の商品取引員の受託業務に関する取引所指示事項の同禁止条項1に次の定めがある。

「1(無差別電話勧誘)

新規委託者の開拓を目的として、面識のない不特定多数者に対して無差別に電話による勧誘を行うこと。」

これは、相手方の都合を考えず、執ように、かつ、無差別に電話をかけることにより、社会通念上相手方に迷惑となる電話(刻限、時間、頻度)を禁止する主旨である。

(2) 《証拠略》によると次のとおり認められる。

イ 一審被告は昭和六三年版NTT職業別電話帳「タウンページ」に前示「株式会社乙山ホームサービス」の広告を出していた。

ロ 一審原告の営業担当者高村は、この広告を見て電話で最初の先物取引の勧誘をした。

ハ 当時、一審被告の営む建築請負業は一般に比較的好況な業種であった。

ニ 一審原告はかねてから高額所得者名簿や帝国データバンク等の資料により顧客を選定し先物取引を勧めていた。

ホ 前示電話はごく短時間のものであった。

(3) この認定の事実に照らすと、一審原告の右電話は相手方(一審被告)の都合を考えず、執ように、かつ、無差別に電話をかけたもので、相手方に刻限、時間、頻度から見て迷惑となる電話に当たるとはいえない。それ故、これが右禁止事項1にいう無差別電話勧誘に当たらず、他にこれを認めるに足る的確な証拠がない。」

2  同一〇枚目裏二、三行目の「買建玉した場合」を「買建玉を建てた場合」と改める。

3  同一一枚目裏六行目の「投機」を「投入」と改める。

4  同七行目の「にわかに」の前に「断定的判断の提供があったとまでは認められず、」を加える。

5  同一三枚目表五行目の「一致するため、」の次に「手数料の負担をも考慮すると、」を加える。

6  同裏一〇行目の「指導すべき義務」を「指導するなどして、顧客の利益のため忠実にその義務を遂行すべき義務」と改める。

7  同裏一二行目の「その程度が」を「顧客の利益を犠牲にして無意味な反復売買や両建等を繰り返していわゆる手数料稼ぎを行うなどその義務違反の程度が」と改める。

8  同一四枚目表七行目の「四三パーセント」を「四一パーセント」と改める。

9  同一四枚目裏二行目の「顧客ごとに」から五行目文末までを次のとおり変更する。

「特定売買の比率及び損金に対する手数料の比率をチェックしようとしていることが認められる。そして、当時の業界紙は、その運用基準は特定売買の比率二〇パーセント、手数料率一〇パーセント程度と報じている。」

10  同一五枚目表三、四行目の「通達の示す数値基準を大幅に超えていて」を「右業界紙の報ずる数値基準を大幅に超えており」と改める。

11  同一二行目の文末に改行して次のとおり加える。

「なお、一審原告は、忠実義務の発生根拠が明らかでないと主張するが、前示のとおり、忠実義務は、先物取引受託契約により生じる商品取引所員の顧客に対する契約上の信義誠実義務から生ずるものである。」

12  同末行目の「個々の特定売買」を「前示争いのない個々の特定売買」と改める。

13  同一七枚目裏末行目の「68」を「68」と改める。

14  同一八枚目表一一行目の「利益は全く」を「利益を全く顧みずこれを」と改める。

15  同一九枚目裏一一行目の「受託契約が有効かどうか、」を削除する。

16  同二〇枚目表一〇、一一行目の「強度の」を削除する。

17  同二〇枚目表一〇行目の「全体として」を「本件先物取引全体として」と改める。

18  同一二行目の「本件受託契約は」から同一三行目の「かつ、」までを削除する。

19  同二〇枚目裏一行目の文末で改行し、次のとおり加える。

「一審被告は、このような先物取引受託契約は、それ自体公序良俗に反するので無効であると主張する。しかし、本件受託行為は右のように全体としては不法行為を構成するとしても、個々の受託契約についてみれば、直ちに公序良俗に反して無効となるほどの強度の違法性があるとまではいえない。すなわち、前示のとおり、本件においては、適合性原則の違反や断定的判断の提供、あるいは新規委託者保護規定の違反などは認められない。前示の違法性は主として、忠実義務に反し、委託料稼ぎをして一審被告の利益を犠牲にした点にある。それ故、そのことから直ちに、個々の受託契約自体が公序良俗に反して無効になるとはいえないのである。他に、右のような強度の違法事由を認めるに足る的確な証拠はない。したがって、本件受託契約が公序良俗に違反して無効であるとの一審被告の主張は採用できない。

また、一審被告は、仮りに本件受託行為が無効でないとしても、売買差損金残金の請求は信義則に反すると主張する。しかし、本件受託行為が全体として不法行為に当たるとしても、契約としては効力を有する以上、これに基づく請求が直ちに信義則に反し許されないと解することはできない。右不法行為に基づく契約の履行による損害の賠償請求と、契約履行の義務とは併存し得るものというべきである。」

20  同末行目から二一枚目表一行目にかけての「約九〇〇万円の」とあるのを「九〇〇万円を上回る」と改める。

21  同二一枚目表一一行目の「二割」を「三割弱にあたる一二〇〇万円」と改める。

二  当審附加主張に対する判断

一審原告及び一審被告の当審附加主張は、前示原判決を補正した限度で理由があるが、その余の部分は、右補正後の原判決の引用によって説示したとおり、その理由がないことが明らかであって、いずれも採用できない。

ちなみに、一審原告は、前示の特定売買比率や手数料率が取引の実態の判断基準として無意味であることを強調する。しかし、前示のチェックシステムに掲げる各種の特定売買は、一般に、委託者に手数料の負担を生ぜさせるばかりでその利益につながらない取引の類型に属する。個々の取引の際の個別の事情を捨象しても、一定期間の取引を全体的に観察し、右のような特定取引の比率が異常に高いときには、特段の事情がない限り、商品取引員において、顧客の利益を犠牲にして全体として手数料稼ぎを目的として取引を行ったことを推認するのが相当である。また、手数料の損金比率は、取引途中においては必ずしも合理的な取引の指標とはなり得ないが、取引終了後に、顧客に取引全体から生じた損失の要因を観察、評価する上では、有効な指標になると解される。したがって、これらの点に関する一審原告の主張は採用できない。

なお、一審原告は、右特段の事情にあたる事実として、平成二年八月二日のゴムの途転は実質的には限月の変更であることなど、一部の特定取引についてそれなりに理由があると主張する。しかし、本件全証拠に基づいてこれを検討してみても、これらが前示の顧客の利益の犠牲における手数料稼ぎがなされたとの推認を左右するに足るものとはいえず、他に右認定事実を覆す特段の事情を認めるに足る的確な証拠がない。

よって、一審原告の右の点の主張も採用できない。

三  結論

以上のとおり、一審原告の請求は理由があるから、これを棄却した原判決は相当ではない。よって、一審原告の甲事件の控訴に基づき、原判決主文一項を本判決二項のとおり変更する。また、一審被告の反訴請求は、一二〇〇万円とその付帯金の支払を求める限度において理由があり、その余は理由がない。よって、一審被告の乙事件の控訴に基づきこれと異なる原判決を変更し、主文三項のとおり判決する。

(裁判長裁判官 吉川義春 裁判官 小田耕治 裁判官 細見利明)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例