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大阪高等裁判所 平成9年(ネ)717号 判決 1997年12月05日

控訴人(原告)

土屋巧

被控訴人

日本タクシー株式会社

ほか一名

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

二  被控訴人らは、各自、控訴人に対し、金六七万三二〇〇円、及びこれに対する平成五年四月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  控訴人のその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は、第一、二審を通じて、これを一〇分し、その九を控訴人の、その余を被控訴人らの各負担とする。

五  この判決は、第二項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一控訴の趣旨

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人らは控訴人に対し、各自、金一二七四万六三八八円、及びこれに対する平成五年四月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  本件事案の概要は、二以下に付加するほか、原判決事案の概要のとおりであるから、ここに引用する。但し、原判決二枚目裏二、三行目「対面する信号機の赤色表示及びこれに従って」を「交差点を右折するため、一時」と改める。

二  控訴人の補充主張

1  控訴人の受けた傷害及び後遺障害について

控訴人には、本件事故を契機として頸椎捻挫、腰部の圧痛という傷害が発生し、事故直後から、両手掌及び尖部の非常に多い発汗が生じ、これが頑固に残って現在に至っている。また、本件事故直後、通院をあまりしなかったのは、起きあがれず病院にも行けない状態であったが、仕事を優先したためである。

2  損害について

(一) 治療費 五二万四一三〇円

平成五年四月三〇日から平成六年六月六日まで分

(二) 通院交通費 三万二四〇〇円

(三) 休業損害 八万円

(四) 後遺障害による逸失利益 六四一万七五二六円

(五) 慰謝料

入通院慰謝料一三〇万円、後遺症慰謝料二二〇万円の合計三五〇万円。

(六) 弁護士費用 九七万三〇〇〇円

(七) 総計 一〇七〇万二九二六円

但し、損害の填補である見舞金三〇万円及び治療費支払五二万四一三〇円合計八二万四一三〇円を除いたもの。

三  被控訴人らの補充主張

1  控訴人の傷害、後遺障害及び損害についての主張はすべて否認する。

控訴人には何らの傷害も発生していない。

2  損害の填補

本件事故について、控訴人は次のとおり損害の填補を受けている。

(一) 治療費 五二万四一三〇円

(二) その他の見舞金 三〇万円

理由

一  本件事故による控訴人の受傷、治療経過

1  甲二、三の1、2、四の1ないし3、五の2、一一、一二の1、2、乙一、二、控訴人本人(原審及び当審)によると、次の事実が認められる。

(一)  控訴人(昭和三四年六月一六日生)は、本件事故当時、運送業を営み、自ら自動車を運転して荷物の配達、積み降ろし、見積書等の書類作成といった仕事に従事していた。本件事故の際も、普通貨物自動車(奈四五そ七六七九、以下「控訴人車両」という。)を運転して荷物の配達をする途中であった。本件事故は、停車中の控訴人車両の後部左側に、被控訴人村上運転の普通乗用自動車(なにわ五五う六一九〇、以下「被控訴人車両」という。)が、その前部右側で衝突したものである。事故の衝撃により、控訴人車両は、前方に約一・八メートル押し出され、後部荷台に衝突痕、後ナンバー曲損、擦過等の軽度の損傷を負った。被控訴人車両は、ボンネット曲損、擦過、前バンパー擦過等の顕著な損傷を負った。衝突の際、控訴人は運転席に座り、ハンドルに手をかけていたが、強い衝撃を受けて、座席から腰が前に突き出される一方、首が後ろにのけぞるようになった。控訴人は事故直後、自力で車から出て、近くの電話で配達を依頼された会社に連絡したが、足腰の力が抜けたような感じが強くあり、地面に崩れ落ちるように座った。その後、控訴人は救急車で大阪市都島区の聖和病院へ搬送された。

(二)  控訴人は本件事故直後から、頸部と腰部の痛みを強く感じており、事故当日聖和病院で受診した際には、嘔気と頭痛もあり、首と腰に湿布を貼ってもらい、首にネックカラーを装着され、頸椎捻挫、腰椎捻挫により、約三週間の加療を要する見込みである旨診断された。但し、その際のレントゲン検査では異常所見は認められなかった。控訴人は同病院から、被控訴人村上に控訴人車両を運転してもらって自宅まで送ってもらった。

控訴人は、当日帰宅後すぐに寝た。翌日は早朝に起きて仕事に行こうとしたが、自ら運転するのは危険と感じ、荷物を持つことはできなかったため、その日とその翌日、臨時に運転手を雇って運転及び荷物の積み降ろしをさせ、自分は助手席に座って、配達業務に従事し、右臨時雇いの運転手に配達先と道順を教えた。この間、控訴人は首と腰に痛みを感じていたので、ゆっくり眠っていたいと思ったが、得意先に迷惑をかけないため仕事を優先したものである。控訴人は、それ以後も、通じて約一週間、右臨時雇いの運転手に運転等をさせて配達等の仕事をし、その後は自ら運転して配達等の運送自営業務を続け、稼働していた。

(三)  控訴人は、平成五年四月三〇日、体が痛かったため、奈良県磯城郡田原本町にある森田整形外科医院で受診した。その時、控訴人の左頸部から肩、上腕にかけてしびれと痛みが少々あり、腰部に圧痛があった。イートン、スパーリング、ジャクソンの各テストに異常なく、反射、知覚、下肢進展挙上にも異常なかった。同病院では、投薬を処方され、頸部・腰部捻挫と診断され、頸部腰部共にコルセット着用及び安静を指示された。

控訴人は、次に、同年五月七日同医院で受診した。その時、頸部のしこりと腰痛があったが、いずれも神経根症状とは認められず、知覚、徒手筋力テストに異常はなかった。

控訴人は、その次には、同月一四日に同医院で受診し、その時背屈時に疼痛があり、腰痛はほとんど軽快しており、上腕二頭筋、上腕三頭筋、橈骨の各反射は正常であり、知覚障害もなかった。その後も控訴人は、同病院に継続して受診し、投薬や牽引等の理学療法を継続して受けていた。控訴人は、本件事故直後から、両手掌部の発汗が非常に多いのに気づいていたところ、同月二四日の右医院受診時にはこれを医師に訴えた。右症状はその後も持続した。他方、腰痛、頸部痛(左頸部から肩にかけて、及び後頭部痛)は一進一退の状態で継続していた。この間同年六月中旬ころにはカラーを除去された。

腰痛は平成五年一〇月ころにはかなり改善し、ほとんど軽快した。頸部痛も同年六月以降改善傾向にあり、平成六年三月ころには軽くなったが、残存した。両手掌部の発汗は、平成五年一一月ころ、頸部の左星状神経節にレーザー照射がなされてやや減少したものの、なお異常に多いままに残った。平成六年四月以降は、その前と右各症状はあまり変わっていない。

控訴人は、平成六年六月六日、森田整形外科医院医師に、自賠責保険後遺障害診断を受けた。その内容は、傷病名頸部・腰部捻挫で、両手掌及び両手尖部の発汗多量、両側頸部痛、特に頸椎運動時に痛み増強、左肩関節挙上にて左頸部から左肩にかけての痛み出現というものであった。

控訴人の森田整形外科医院への通院は、平成五年四月一回、五月一三回、六月一四回、七月一七回、八月一七回、九月一六回、一〇月一三回、一一月一六回、一二月八回、平成六年一月六回、二月三回、三月六回、四月一回、六月一回、八月一回、一〇月一回、一一月一回、平成七年一月一回、二月二回である。

(四)  控訴人は、平成七年一月、それまでの症状に加え、左手のしびれと冷感があったことなどから、同年二月二五日平井病院で、頸椎のMRI検査を受けた。その結果は、第2/3、第3/4、第4/5、第5/6頸椎椎間板に信号の低下が見られるが、脊髄の異常信号域は認めず、椎間板変性病変があるというものであり、森田整形外科医院の医師は、この結果について、椎間板全体的にはやや変性があるが、交通事故にてすべて変化するとは考えにくく、外傷性の変化とは断定できないと評価している。

(五)  控訴人は、現在も、両手掌の発汗が多いほか、肩こり、首の痛み、手に力が入りづらいという症状があまり変わらず存続しており、腰痛も感じている。

(六)  控訴人は、本件事故の前、平成四年六月一五日に交通事故で膝などに受傷して通院したことがあるが、本件事故当時には治癒していた。控訴人には、本件事故当時、前述した事故後の各症状はなかった。

2  右認定事実によると、控訴人は、本件事故により少なからぬ衝撃を受けて、頸部捻挫、腰部捻挫の受傷をし、頸部(頸部から肩にかけて、後頭部)痛、腰部痛が発現し、以後これらが持続し、両手掌に異常に発汗が多く出る症状も発現持続した。これら症状は、その発現時期や継続状況からすると、頸部については本件事故以後平成六年三月にかけて軽減して行くまでの間、腰部については平成五年一〇月ころにかなり改善しほとんど軽快するまでの間の各症状は本件事故によるものであり、異常発汗については、本件事故以後現在までの存続が本件事故によるものと認められる。

本件事故直後の控訴人の通院回数は平成五年五月一四日までは四回と多くないが、これには控訴人の仕事上の都合があったようであり、臨時に運転手を雇って無理をした状況が認められるから、この間の通院回数をもって、控訴人の事故による受傷が極あて軽微等とは言えず、本件事故による症状の存続期間が前述したよりも短期間であったと言うこともできない。

しかし、平成六年四月以降の頸部の症状は、あまり変化がないこと、MRI検査の結果認められた頸椎部の変性病変との関係が考えられるところ、医師の評価を見ても、本件事故によるものと断定できないことに照らすと、本件事故によるものと認めることはできない。また、腰部の症状も、平成六年六月六日の後遺障害診断では症状について触れられておらず、現在まで持続していたかどうかなど症状経過がはっきりしないので、前述した期間後のものは本件事故によるものとは認められない。なお、甲四の2、乙二によると、平成五年八月三日、森田整形外科で行われたレントゲン検査の結果、第四腰椎横突起骨折を疑わせる陰影があったことが認められるものの、右は確定的な診断ではないから、これにより腰部の症状が延引したと認めることはできない。

3  他方、被控訴人らは、本件事故による衝撃が極めて軽微であったなどとして、控訴人の受傷を否定するが、前記認定の事故状況及び各車両の損傷状況等に照らし、衝撃が極めて軽微であったとする根拠はない。被控訴人車両の衝突時の速度が時速五キロメートル前後等の低速度であったことを認めるべき証拠もない。

このほか、右控訴人の受傷、及びこれと本件事故との因果関係認定を左右するに足りる証拠もない。

二  控訴人の損害について

1  通院交通費

前記認定及び甲四の2、弁論の全趣旨によると、控訴人は、本件事故による傷害治療のため、本件事故日から平成六年三月まで一三一回通院を余儀なくされたところ、控訴人は、うち平成五年四月三〇日から平成六年三月三〇日までの一三〇回の通院について、一回当たり片道一二〇円で往復二四〇円、合計三万一二〇〇円の通院交通費を要し、右相当損害を被ったものと認められる。

右期間経過後の通院は、症状固定後或いは本件事故と因果関係を認められない症状にかかる通院であって、その通院交通費相当損害を認めることはできない。

2  休業損害

前記認定及び控訴人本人(原審)によると、本件事故直後の約一週間、控訴人がその傷害による身体の不自由を補って自営業を維持するため、自動車運転、荷物の積み降ろし等の作業に従事する者を雇って仕事をさせ、同人にその給料八万円を支払ったこと、これは控訴人の休業損害であることが認められる。

3  逸失利益

前述のとおり、控訴人は本件事故により頸部・腰部捻挫の傷害を負ったのであるが、本件事故による通院期間と認められる平成六年三月までを超えて、頸部(首から肩にかけて、後頭部)、腰部に本件事故に起因する後遺症が残ったとは認められない。

控訴人には、本件事故により、両手掌に異常発汗の症状が発現したところ、これは、現在に至っても存続しているから、本件事故による後遺症と認められる。

しかし、前記認定のとおり、控訴人は本件事故後、約一週間臨時に人を雇って運転などの仕事をさせたほかは、自ら運転するなどして運送自営業務に当たり稼働していたところ、甲七ないし一〇の各1、2、控訴人本人(原審及び当審)によると、控訴人は、本件事故前の平成四年四月ころから、運送業を自営し、平成八年一〇月までこれを続けた後、会社員として勤務していること、右自営業の間の営業収入年収は、平成四年(甲七の1記載の同年の年収を自営業開始以降九か月分の収入であると見ても)から平成六年まで、本件事故を間に挟んでいるにも関わらず、毎年順調に増加しており、平成七年においても、平成六年とそれほど変わらず、平成四、五年より多いことが認められ、平成八年一〇月以降会社員となってからの収入は証拠上明らかではない。そうすると、本件事故後の異常発汗等の症状にかかわらず、前記臨時雇人に払った給料分以外には、本件事故による控訴人の労働能力の低下や逸失利益があったことを認めることはできない。

4  慰謝料

前記認定のとおり、控訴人は、本件事故による頸部・腰部捻挫等の傷害のため、本件事故日である平成五年四月二七日から平成六年三月三〇日まで一三一回に及ぶ通院を余儀なくされたうえ、前記認定及び控訴人本人(原審及び当審)によると、右事故による症状、右通院期間中及びその後を通じて現在まで両手掌の異常発汗という症状に悩まされ、自営業の維持に苦労し、右症状のため日常生活でも不便があったことが認められる。これらの事情、本件事故の態様、本件事故後の控訴人の症状経過、控訴人には本件事故による明確な他覚所見に乏しいこと、その他本件に現れた一切の事情を勘案すると、控訴人に対する慰謝料としては、うち通院慰謝料として五〇万円、後遺症慰謝料として三〇万円を相当と認める。

5  以上の損害合計は、九一万一二〇〇円である。

これに対し、控訴人が三〇万円の損害の填補を受けたことは争いがない。

なお、控訴人の治療費につき五二万四一三〇円の支払がなされていることは争いがなく、これによる控訴人の右治療費相当の損害があったと推認されるが、これは全額填補されたこととなる。他方、右支払は、1ないし4に認定した損害以外の費用に当てられたものであるから、仮に治療費相当損害がこれより少なかったとしても、当然には右認定損害から差し引くことはできない。かえって、甲三の2、四の1によると、右治療費の支払は、被控訴人側から直接医療機関に対して支払われたものであって、支払者の意思としても、治療費以外の費用や損害に充当しない意思であったと認められる。

また、乙五及び弁論の全趣旨によると、控訴人は本件事故による車両損害を受け、これについて一九万二五〇〇円の支払を受けたことが認められ、これによると控訴人に同額の損害があったと推認されるが、これも前記1ないし4認定外の損害にかかるものであるから、同認定損害から差し引くことはできない。

そうすると、前記認定損害の残額は、六一万一二〇〇円である。

6  弁護士費用相当損害

弁論の全趣旨によると、控訴人は、被控訴人らに対し、本件事故による損害賠償請求をするについて、その訴訟代理人弁護士らに委任して本件訴訟を提起追行することを余儀なくされたところ、認容されるべき損害額である前記1ないし4認定損害の残額及び本件訴訟の経過等により、右弁護士費用相当損害として、六万二〇〇〇円を相当と認める。

三  よって、控訴人の本件請求は、被控訴人ら各自に対し、本件事故による損害賠償として、二5、6の合計損害金六七万三二〇〇円及びこれに対する本件事故日である平成五年四月二七日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却するべきである。

よって、これと異なる原判決を右のとおり変更することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行宣言につき同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 井関正裕 河田貢 高田泰治)

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