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大阪高等裁判所 平成9年(ラ)724号 決定 1997年12月15日

抗告人

さくら抵当証券株式会社

代表者代表取締役

代理人弁護士

永原憲章

藤原正廣

主文

原決定を取り消す。

本件を大阪地方裁判所に差し戻す。

理由

第1本件執行抗告の趣旨及び理由

別紙執行抗告状、抗告理由書、平成九年一〇月二一日付上申書(各写し)≪省略≫記載のとおり

第2当裁判所の判断

1  一件記録によると、次の事実が認められる。

(1)  抗告人は、平成二年一一月九日、債務者兼所有者である株式会社マツヤマに対し八億三〇〇〇万円を貸与し、大阪市<以下省略>宅地一一八・五七平方メートル(以下「従前地」という。)につき別紙担保権・被担保債権・請求債権目録≪省略≫記載の抵当権設定契約を締結し、同日その旨の登記を経由した。マツヤマは、平成三年七月二〇日、利息の支払を怠り期限の利益を失った。

(2)  平成三年四月三日、従前地について滞納処分による差押がなされたが、同年三月二八日、B(以下「B」という。)が代物弁済により従前地の所有権を取得し、同年七月二五日その旨の移転登記を経由した。

(3)  平成八年一一月二〇日、従前地について換地処分の公告がなされ、同年同月二一日土地区画整理法(以下「法」という。)一〇四条八項、九項によりBが換地として別紙物件目録記載の土地を取得し、同時に減歩による清算金(二二五万二〇六三円)が確定した。

(4)  平成九年二月一〇日、換地について国税庁による公売処分が行われ、本件抵当権登記は抹消された。公売手続における抗告人の配当額は〇円であった。

(5)  同年四月一〇日、施行者(大阪市長)は従前地には抗告人の抵当権が設定されており、抗告人から供託しなくてもよい旨の申し出がないとして、法一一二条により清算金を供託した。

(6)  抗告人は、同年七月一七日、抵当権に基く物上代位権の行使として供託された清算金債権(別紙差押債権目録≪省略≫記載の債権)につき差押命令の申立をしたが、原審は、同年同月三一日、抗告人の抵当権はすでに公売によりその目的を達して消滅したとして、本件差押命令の申立を却下した。

2  しかし、原決定の判断は以下のとおり相当ではない。

民法三七二条が準用する同法三〇四条の解釈からも、目的物の経済的価値が残存する限り、目的物の滅失による抵当権の消滅後も物上代位権の行使は可能であり、物上代位権行使の要件としては、必ずしも抵当権の存続を必要とするものではない。

また土地区画整理法は、換地処分の公告があった場合には、公告の翌日から換地を従前の土地とみなし、換地計画において定められた清算金は公告の翌日において確定するとし(法一〇四条一項、八項)、施行者は公告のあった場合には、確定した清算金を徴収し、または交付しなければならないと定めており(法一一〇条一項)、これらの規定によると、従前地の抵当権者は、換地処分の公告の翌日において、清算金に物上代位権を行使できる実体的地位を取得し、目的不動産が公売され目的不動産上の抵当権が消滅したというだけでは、清算金について取得した実体的な優先権を失うものでないと解するのが相当である(換地を目的とする売買と清算金の移転につき、最高裁二小・昭和四八年一二月二一日判決・民集二七巻一一号一六四九頁参照)。

もっとも、民法三七二条が準用する同法三〇四条によると、担保権者は代位物の払渡又は引渡前に差押をなす必要があるものとされてはいるが、土地区画整理法上の清算金については、法一一二条は、施行者に清算金の供託を命じ、担保権者が供託金上に権利を行使し得ることを定めているものの、担保権者において特に差押を必要とする旨の規定はなく、実体的には、担保権者は差押を行うことなく、供託金について権利を行使することができるものと解される(最高裁一小・昭和五八年一二月八日判決・民集三七巻一〇号一五一七頁参照)。

以上によると、抗告人は、公売処分により抵当権が消滅した後も、供託された清算金に対し物上代位権を行使し、差押することができるものというべきである。

なお、本件抵当権が消滅したのは、被担保債務の弁済によるものではなく、公売処分が行われたという偶然的事情にすぎず、Bは、滞納処分による差押が行われたこと及び抗告人の抵当権設定がなされていることを認識しながら従前地の所有権を取得したものであり、当初より換地処分による清算金を取得することを期待し得る地位にはなく、清算金に対する抗告人の物上代位権の行使を受認していたものというべきであるから、抗告人がBに優先して清算金の供託金を取得することになっても、なんら不当な点は存在しない。

3  以上のとおり、目的不動産の公売による抵当権の消滅を理由に、抗告人の本件債権差押命令の申立を却下した原決定は相当ではないから、これを取り消し、本件を原審に差し戻すこととして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 中田耕三 裁判官 高橋文仲 德永幸藏)

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