大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 平成9年(行コ)35号 判決 1999年4月16日

控訴人

堀内雅代(X1)

尾形弥生(X2)

北尾亜由子(X3)

竹内眞理子(X4)

山本健治(X5)

右五名訴訟代理人弁護士

辻公雄

岡本栄市

佐田元眞己

戸越照吉

工藤展久

被控訴人

(高槻市議会議員) 高須賀嘉章(Y1)

藤川和夫(Y2)

尾崎勉(Y3)

須磨章(Y4)

久保隆夫(Y5)

右五名訴訟代理八弁護士

芝野義明

被控訴人

川上忠男(Y6)

右訴訟代理人弁護士

崎岡良一

被控訴人

久保杏慈(Y7)

右訴訟代理人弁護士

竹下義樹

右訴訟復代理人弁護士

北村純子

被控訴人

(高槻市長) 江村利雄(Y8)

被控訴人江村利雄参加人

高槻市長

江村利雄

右両名訴訟代理人弁護士

寺内則雄

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

二  高槻市に対し、

1  被控訴人藤川和夫は、一三万三二七〇円及びこれに対する平成五年七月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を、

2  被控訴人尾崎勉は、四万二五〇〇円及びこれに対する平成五年七月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を、

3  被控訴人須磨章は、六万三三一〇円及びこれに対する平成五年六月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を、

4  被控訴人久保隆夫は、一万五〇〇〇円及びこれに対する平成五年六月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を、

5  被控訴人川上忠男は、五万六四四〇円及びこれに対する平成五年六月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を、

それぞれ支払え。

三  控訴人らの被控訴人高須賀嘉章、同久保杏慈、同江村利雄に対する請求及び被控訴人久保隆夫に対するその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、控訴人らと被控訴人藤川和夫、同尾崎勉、同須磨章、同川上忠男との間に生じた分は第一、二審とも右被控訴人らの負担とし、控訴人らと被控訴人久保杏慈、同江村利雄、同江村利雄参加人高槻市長江村利雄との間に生じた分(参加によって生じた費用も含む。)は第一、二審とも控訴人らの負担とし、控訴人らと被控訴人久保隆夫との間に生じた分は第一、二審を通じてこれを五分し、その一を被控訴人久保隆夫の、その余を控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人ら

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人らは、高槻市に対し、別紙請求債権目録記載の請求金額及びこれに対する同目録記載の各訴状送達日の翌日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

二  被控訴人ら

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人らの負担とする。

第二  事案の概要

一  原判決七頁七行目の「被告ら七名(被告江村を除く。)」、同八頁六行目の「その余の被告ら七名」及び同頁七行目の「右七名の被告」をいずれも「被控訴人高須賀外六名」と改め、同一三頁四行目の「七の」の次に「1、」を加えるほか、原判決の「第二 事案の概要」記載のとおりであるから、これを引用する。

二  当審における主張の補充

1  議会閉会中における視察の要否に関する議長の権限及びその行使について

(一) 控訴人ら

(1) 議会閉会中において、議長には、議員の視察の要否に関する判断権(裁量権)はない。すなわち、最高裁判所昭和六三年三月一〇日判決・裁判集民事一五三号四九一頁(以下「六三年最判」という。右事件の一審判決は大阪地方裁判所昭和五七年一一月一〇日判決・行政裁判例集三三巻一一号二二六九頁〔以下「五七年大阪地判」という。〕、控訴審判決は大阪高等裁判所昭和五八年九月三〇日判決・行政裁判例集三四巻九号一七一八頁〔以下「五八年大阪高判」という。〕である。)は議長の裁量権を明確に否定した、すなわち、五七年大阪地判が、議会閉会中には、議長が議員の派遣について決定する権限を有するとして「議長の裁量権」を明確に認定したのに対し、五八年大阪高判は、五七年大阪地判の右部分の判断の大半を削除し、議員の海外旅行について、会議体としての議会の意思決定があることを適法判断のための根拠としたもので、六三年最判は、五八年大阪高判の右判断をそのまま是認していることからして、議長の裁量権を明確に否定した。したがって、本件において、議長には、被控訴人議員らの視察の要否についての裁量権はない。

(2) 議長は、公金の支出について財務会計上の支出負担行為をする権限を有せず、議長が「出張命令書」や「支出命令書」に押印する行為は、地自法一〇四条の「議会の事務の統理権」に基づく行為であるが、それは実質的な財務会計上の行為を行う権限を導き出すものでない(六三年最判)。つまり、議長の権限に属する地自法一〇四条の「議会の事務の統理権」とは、会議体である議会をして、その議決(意思決定)を民主的にかつ支障なく行わせるための権限、すなわち、スムーズな議事運営を行う上で必要な権限を議長に認めたにすぎないのであって、同条の「議会の事務の統理権」から、議長に何らかの実質的な権限を肯定する根拠とはなしえない。

(3) 高槻市においては、議長が行政視察に対し、その適否を審査してきた事実はなく、予算の枠内であれば、議員は何らの制約を受けることなく、無制限に「視察」と題する私的旅行に公金を費消し、視察制度を濫用してきたのであって、裁量権の著しい逸脱、濫用が行われてきた。

(二) 被控訴人ら

(1) 五八年大阪高判は、合議体としての議決を議長の裁量権の行使の適否の判断の一事情として判示しているのであって、議長の裁量権そのものを否定しているのではない。そのように解さなければ、議会の閉会中も議会を開催して逐一議決を経なければならず、硬直的な議会運営を強いることになり、議会権能を適切に果たすことができなくなる。

なお、高槻市では、本件で問題となっている議員の会派視察については、当初予算において議会の議決を経ているから(この意味で、五八年大阪高判の判示する議会の意思に基づいて決定されているとも言える。)、本件で問題となっているような個々具体的な視察の出張申請が議会の閉会中になされた場合、議長において裁量権を行使したことは、議会の意思決定に基づくものであるとの側面を有している。

(2) 六三年最判は、議長が予算執行及び会計事務を行う権限を有しないという自明の理を明らかにしたにすぎないのであって、会派視察の要否について裁量権を行使できないと判示しているわけではないから、控訴人らの主張は、議会の事務の統理権と議長が予算執行及び会計事務を行う権限を有しないことを混同したものである。

(3) 会派視察の出張については、全て書類が提出され、審査も行われているから、議長の裁量権の行使について、著しい逸脱や濫用の事実はない。

2  本件条例四条の「公務性」について

(一) 控訴人ら

(1) 本件訴訟において、問題とされている議員の行政視察に関して、本件条例四条の「公務性」(以下「公務性」という。)とは、以下の要件を充たすものでなければならない。

<1> 議員のなす「公務」であるから、議員としての職務を遂行する活動でなければならない。

この意味において、単なる観光旅行は「公務」とはいえない。そして、単なる観光旅行かどうかは、客観的外形的に判断されなければならない。すなわち、単に観光地を訪れ、パンフレットを入手するなどの行為は外形的に一般人がなす観光旅行となんら異なるところがないので、それが行政視察としての「公務」と認められるためには、当該地方公共団体の行政実態を把握する観点から、行政関係者(視察対象の行政を担当する当該地方公共団体の担当部課に所属する職員等)から実態を事情聴取するなどの行為がなければならない(基準A)。

したがって、当該旅行の目的が真に海外の議会や関係行政の実情を視察することにあるのであれば、まずは議会ないし議員自らがどの国の議会や施設その他の場所をどのような方法で見学するのかを具体的に検討し、必要に応じ関係機関とも連絡、調整を取りながら周到に準備するべきである(最高裁判所平成九年九月三〇日判決・裁判集民事一八五号三四七頁〔以下「平成九年最判」という。〕で維持された高松高等裁判所平成五年一月二八日判決・判例タイムズ八二三号一七九頁〔以下「高松高判」という。〕)。

また、議員としての立場ではなく、他の団体の構成員としての活動も「公務」とはいえない。この意味において、自己が所属する政党に関係する活動、自己が主催ないし所属する市民団体の活動に参加することは「公務」とはいえない(基準B)。

この場合、議員としての活動か、あるいは市民団体ないし政党の構成員としての活動かの判断も、当人の主観ではなく、当該行動を客観的外形的に判断してなされるべきである。

<2> どのような場所をどのような方法で見学するかを具体的に検討し、必要に応じて関係機関とも連絡、調整を取りながら周到に準備をする必要がある(基準C)。

議員の行う旅行が、「私的な旅行」と明確に区別される公務としての行政視察たりうるためには、関係機関との事前調整を中心とした事前の準備が不可欠であり、かような準備なくして単に現地を見にいったというだけでは、私的旅行と区別できない。

したがって、計画、実行された旅行の行程、内容が、一般の観光旅行と同一であってはならず、視察目的に即した行動計画が立案されていることが必要である(高松高判)。

<3> 「行政」に関する「視察」であるから、具体的に存在する行政の実態を「視察」すなわち「実情や現況を把握するため、現地に赴き、つぶさに見てまわり、関係者から説明を聞くなどしてあるく」(〔証拠略〕・最新改定版地方議会用語辞典三三二頁)ものでなければ、行政視察としての出張としては「公務」とはいえない(基準D)。

この意味において、国会議員に対するいわゆる「陳情」は、「視察」するという要素が全く存在しないものであるから、行政視察としての「公務」とはいえない。

<4> 視察そのものが、客観的に判断して、具体的に存在する行政課題を検討し立法機関たる議会の構成員としての議員として地方公共団体における立法活動(条例制定活動等)に資する性格のものでなければならない(基準E)。

すなわち、行われた「視察」が具体的行政課題に対応するという「目的」に裏付けられ、その視察の結果、実際の立法活動に役立ち得るという「効果」をもつものでなければならないのである。

この意味において、友好都市訪問などは、具体的に存在する行政課題とは全く無関係なものであり、「目的」「効果」において、およそ客観的外形的にみて行政視察とはいえず、「公務」とはいえない。

「行政視察」を実施するのは、他の自治体がなしている「行政」を「視察」し、現実の審査・審議に役立てるためである。したがって、現実の行政視察が右の趣旨に見合った効果を獲得するためには、その自治体がいかなる内容の行政運営をなしているのかを具体的に調査することが不可欠であり、それには、その自治体の担当部課を訪れて、担当部課から資料提供と説明を受けたうえで施設見学などを行う必要がある。その意味において、たとえ公共施設を見学していたとしても、担当部課から説明を聞いていない場合は、「行政」の「視察」を行ったものとはいえずも「公務」とはいえない。

(2) 被控訴人議員らの各出張は、いずれも、右(1)の各要件を満たさないものであり、議長の裁量権の行使は、裁量権の著しい逸脱、濫用に当たる違法なものである。

(二) 被控訴人高須賀、同藤川、同尾崎、同須磨、同久保隆夫

(1) 控訴人らの主張する公務性の基準等は、現下の社会情勢上、地方公共団体に求められている行政需要とこれに対応すべき地方議会の各議員が果たすべき役割やそのための見識、経験、資料等を得るためにすべき調査、研究、視察等の必要性を理解しないものである。

個別の行政出張に関するその必要性、相当性の有無、対象、範囲、方法については、議会の自治に任され、原則的にその議会(議長)の広範な裁量に委ねられていると解すべきである。

したがって、本件のような具体的な議員の行政視察等が司法審査の対象となり、かつ、これを違法であるというには、それが、その目的、動機、態様等に照らして、議会(議長)の裁量の範囲を著しく逸脱し、もしくは裁量権の濫用に当たる場合に限定されるべきである。

付言すれば、このような個別の行政視察出張が相当であったか否かの点については、議員の選挙等による住民の審判を通じて政治的に判断されるべき事項であり、司法審査の対象にはなじまない。

(2) 被控訴人高須賀、同藤川、同尾崎、同須磨、同久保隆夫がなした各視察出張は、いずれも、その具体的な内容において高槻市議会議員としての地位、職務に関連しており(客観的関連性)もその議員としての職務の遂行に必要ないし有益であると判断し、その目的のもとに実行したのであり(主観的目的)、議長においても、これらをいずれも議員の行政視察出張として相当であると判断して、その申請を決裁してその報告を承認している(手続的正当性)から、右被控訴人らのなした各行政視察出張は、いずれもその適法性、公務性に疑義は存せず、これを承認した議長の判断には、何ら裁量権の著しい逸脱ないし濫用はない。

(三) 被控訴人川上

陳情のための出張であっても、その陳情が当該普通地方公共団体ないし議員の所属する議会会派が実現に向けて検討している事項に関するものであれば、公務性を有するというべきところ、被控訴人川上が国会議員井上一成になした陳情は、右事項に関するものであり、かつその成果もあったのであるから、被控訴人川上のなした会派視察は公務性を有するものである。

(四) 被控訴人久保杏慈

高槻市と常州市とは友好関係にある自治体であり、被控訴人久保杏慈は、議員あるいは常任委員としての職務を遂行する活動の一環として、常州市役所及び常州市立小中学校を訪問し、それぞれの施設で関係者と懇談するとともに、運河等の施設を見学し、現地で説明を受けているのであって、常州市への訪問は極めて公務性の高い視察旅行である。

3  定額主義について

(一) 控訴人ら

(1) 国家公務員等の旅費に関する法律(以下「旅費法」という。)は、「国が国家公務員(以下「職員」という。)及び職員以外の者に対し支給する旅費に関しては、他の法律に特別の定めがある場合を除く外、この法律の定めるところによる。」と規定(同法一条二項)していることから明らかなとおり、国家公務員ないしその他の者に対し「国が」旅費を支給する場合の規定であって、これが、地方議会の議員に当然に適用されるものではない。地方議会においても、法治主義が支配することは自明の理であって、何らの法的な根拠なく、旅費法の適用があるものとすることはできない。

(2) 仮に、旅費法の規定が本件の場合に適用されるとしても、左のとおり、被控訴人藤川に対する支払いは違法なものである。

<1> 旅費法は、四六条一項において、「……当該旅行における特別の事情に因り又は当該旅行の性質上……その実費をこえることとなる部分の旅費又はその必要としない部分の旅費を支給しないことができる。」と規定していることから、旅費の建前が実費であることが示されている。

<2> 旅費法は「旅費の調整」の規定を設けており、四六条一項において、「各庁の長は、旅行者が公用の交通機関・宿泊施設等を利用して旅行した場合……には不当に旅行の実費をこえた旅費又は通常必要としない旅費を支給したこととなる場合においては、その実費をこえることになる部分の旅費又はその必要としない部分の旅費を支給しないことができる。」と規定している。そして、「公用の交通機関、宿泊施設等を利用して旅行した場合」とは、「たとえば、官用の自動車又は船舶等を利用したため交通費が無料で済むとか、官用宿舎等に宿泊したため宿泊費が施設維持費等で済んだような場合のこと」であり(乙三五の1 二三七頁)、この場合に旅費の調整を必要とする趣旨は、「これらの場合には、正規に旅費を支給したのでは、不当に旅行の実費を超えて旅費を支給することとなるので調整する必要がある」ところにある(右同)。

さらに、旅費法「運用方針第四十六条関係第一項2」においては、「旅行者が公用の交通機関、宿泊施設、食堂施設等を無料で利用して旅行したため正規の鉄道賃、船賃、航空賃、車賃、宿泊料又は食卓料を支給することが適当でない場合には、正規の鉄道賃、船賃、航空賃、車賃、宿泊料又は食卓料の全額を支給しないものとする。」とされている(右同二三八頁)。

本件の場合、事後申請であり、申請の時点で宿泊料、交通費が無料であって費用を要していないことが明らかであり、宿泊料、鉄道賃を支払うことが不適切な場合に相当するのであるから、旅費法の建前においても支給することが認められない場合に相当するのであって、その部分に関する支払いは違法、無効なものである。換言すれば「定額主義」は実際に必要としなかった費用が事後的に請求されるような場合には適用がないものというべきである。

(二) 被控訴人高須賀、同藤川、同尾崎、同須磨、同久保隆夫

国家公務員に関する規定である旅費法の規定、運用は、具体的な反対の根拠、理由がないから、事実として地方公務員にも適用、準用されてきており、それが公的にも、これまで問題もなく支持されてきた。

また、定額主義、すなわち、公務員の出張に関する運賃及び宿泊料について、その「実費」に対する過不足の清算がなされないことは、いわば公知の事実ないしこれに準ずる常識ともいうべきものである。

控訴人らが指摘し、主張する旅費法の規定、運用等は、具体的には公費による出費の削減、免除等があった場合には、公費による二重払の弊だけは避けようとの消極的な指針、運用基準を意味しているに過ぎない。

事後申請であっても、実際の出費の有無の区別は困難であるし、実費弁償主義からすれば、知人・親戚方に宿泊するに際して、手土産等を購入、持参した場合、その費用を、金額如何にかかわらず、宿泊の対価として公費で負担、弁償することになるのであって、妥当性を欠くことにもなる。

旅費法の定める実費弁償の原則とその運用は、右のような実態と予算、その他の国の事務等の都合、便宜を総合した上でとられたものであって、この点に関する控訴人らの主張は、失当である。

4  被控訴人江村の責任について

(一) 控訴人ら

(1) 住民訴訟制度が地自法二四二条一項所定の違法な財務会計上の行為または怠る事実を予防しまたは是正し、もって地方財務行政の適正な運営を確保することを目的とするものと解されることからすると、同法二四二条の二第一項四号に規定する「当該職員」とは、当該訴訟においてその適否が問題とされている財務会計上の行為を行う権限を法令上本来的に有するとされている者及びこれらの者から権限の委任を受けるなどして、右権限を有するに至った者を広く意味するものと解するのが相当であり、地方公共団体の長は、その権限に属する財務会計上の行為を予め特定の補助職員に委任または専決させている場合であっても、右委任または専決により処理された財務会計上の行為の適否が問題とされている代位請求住民訴訟において、右「当該職員」に該当するというべきであり、右のように、市長の権限に属する財務会計上の行為を補助職員が委任または専決により処理していた場合は、市長は、右補助職員が財務会計上の違法行為をすることを阻止すべき指揮監督上の義務に違反し、故意または過失により右補助職員が財務会計上の行為をすることを阻止しなかったときに限り、自らも財務会計上の違法行為を行ったものとして、市が被った損害につき賠償責任を負うものと解すべきである(最高裁判所昭和六二年四月一〇日判決・民集四一巻三号二三九頁、同裁判所平成三年一二月二〇日判決・民集四五巻九号一四五五頁、同裁判所平成五年二月一六日判決、民集四七巻三号一六八七頁)。

(2) 高槻市における会派視察なるものは何ら議会の議決(意思決定)なく行われてきたものであり、それらが何らの法的根拠を有しないものであることは、被控訴人江村も知っていたのであり、仮に知らなかったとしても十分に知り得たのである。それにもかかわらず、被控訴人江村は、その是正措置を何らとることなく、漫然と会派視察に対する費用弁償を行ってきたのであり、被控訴人江村には、少なくとも過失があったといわなければならない。

(3) 被控訴人議員らのなした出張に対する費用の支出は、すべて違法であり、市長たる被控訴人江村は、少なくとも補助職員たる課長が違法な財務会計上の行為をすることを阻止し得たにもかかわらず、これをしなかった点において過失があり、損害賠償責任を負う。

(二) 被控訴人江村

被控訴人江村は、普通地方公共団体の長として、議長が認めた出張に対し、これに伴う費用の支出についての費用の裏付けがある以上、議長の承認、許可の不存在、あるいは重大かつ明白な瑕疵が認められるような特段の事情が存しない限り、出張に要する費用を支出しなければならない立場にあるのであるから、右のような特段の事情のない本件会派視察に対する支出行為について違法とされる理由はない。

第三  当裁判所の判断

一  会派視察による出張は費用弁償の対象となるか(争点1)

原判決三二頁八行目から同三九頁四行目まで記載のとおりであるから、これを引用する。ただし、原判決三九頁四行目の次に行を改め、次のとおり加える。「6 控訴人らは、第二の二(当審における主張の補充)1(一)(1)のとおり主張する。

しかしながら、議会閉会中において、議員派遣の要否の判断権(裁量権)を議長に行使させることの合理性及び権限の根拠等については、前記4説示のとおりである。控訴人ら引用にかかる五八年大阪高判は、五七年大阪地判で判示された「地方議会が議員を派遣する手続としては、国会の場合と異にしなければならない合理的理由が見当たらないから、原則として議会の議決を必要とするが、議会の閉会中は議長が決定することができることになる。」との部分を削除し、議会閉会中に、議長が、全国市議会議長主催の昭和五五年度海外行政視察や市独自で主催した海外行政視察への議員の派遣等につき、議院運営委員会に諮り、あるいは議員総会を開催して提案して、その要否や人選等を正副議長に一任されたことから、議長と副議長が相談の上、人選等を決定し、その結果、議会閉会中に実施された旅行について、地方議会が議員を派遣するについては、必ずしも常に本会議の議決を必要とするものではなく、議会の意思に基づくことが確認できればそれで足りるものとし、右各旅行については、それぞれ議会運営委員会の議決及び議員総会の議決を経由しており、いずれにしても、市議会の意思に基づいて決定されているから、その決定手続に違法がないと判断したものであるところ、右判示及び五七年大阪地判の各判示に加えて、前記4説示をも考え合わせれば、五八年大阪高判は、議長の右裁量権を、一切否定したものではなく、これを前提とした上で、前記各旅行について、議会の閉会中になされた議員の派遣ではあるが、議会の意思に基づいて決定されたもので、その手続に違法はないとしたものと解する余地があるといえる上、仮に議会の意思に基づくことの確認が求められるとしても、高槻市では、議員の会派視察については、当初予算において議会の議決を経ているところ(〔証拠略〕)、個々具体的な視察の出張申請が議会の閉会中になされた場合、議長において裁量権を行使したことは、議会の意思決定に基づくものであると解することもできるから、いずれにしても、控訴人らの右主張は採用できない。

7 控訴人らは、第二の二(当審における主張の補充)1(一)(2)のとおり主張するが、控訴人らがその論拠とする六三年最判は、普通地方公共団体の議会の議長は、予算の執行に関する事務及び現金の出納保管等の会計事務を行う権限を有しない旨判示したものであって、議会閉会中における会派視察の要否についての裁量権を行使できないとしたものではないから、控訴人らの右主張は、その前提を異にするものであって、採用することができない。

8 控訴人らは、第二の二(当審における主張の補充)1(一)(3)のとおり主張する。

しかしながら、会派視察出張については、前記第二の一4のとおりの手続を経てなされており、議長において、提出された行政視察出張申請書について、視察先、日程、費用について審査し、出張終了後に提出された出張報告書により、視察内容を検討しており、通常は、議長において、右出張申請書記載の目的や報告書記載の視察内容については、議員を信頼して、明らかに公務と関連しないと認められるようなものでない限り、その内容について個別的に個々の議員に問い合わせるようなことをしなかったものの、議長としても右出張が公務と関連しなかったり、視察内容が出張報告書の記載と異なることを知った場合には、出張を承認せず、あるいは旅費の返還を求める姿勢でいたのであるから(〔証拠略〕)、控訴人らの前記主張は採用できない。

9 控訴人らは、第二の二(当審における主張の補充)2(一)(1)のとおり主張する。

しかしながら、前記3説示のとおりの普通地方公共団体の議会の有する権能、右権能を適切に果たすため、構成員たる議員を視察等へ派遣することの必要性や程度等、視察等が議員としての職務を全うするために果たす意義等に鑑みれば、同5説示のとおり、視察等への議員の派遣については、その必要性、相当性の有無、対象、範囲、方法等の判断は、議会の自治に任され、原則的にその議会(議会閉会中にあっては、議長)の裁量に委ねられていると解すべきであって、その目的、動機、態様等に照らして、視察(行政出張)として著しく妥当性を欠く場合に限り公務性が否定され、議会(議長)において右視察を承認したことが、その裁量の範囲を著しく逸脱し、もしくは裁量権を濫用した違法なものとなると解するのが相当である。

したがって、控訴人らの主張する公務性の判断基準をもって、被控訴人議員らの各出張を直ちに違法なものであったとすることはできない。」

二  被控訴人議員らの出張が費用弁償の対象となるか(争点2)

1  被控訴人高須賀について

(一) 沖縄県名護市及び平良市への出張について

(1) 原判決三九頁八行目から同四二頁八行目まで記載のとおりであるから、これを引用する。

(2) 控訴人らは、被控訴人高須賀の右出張は、控訴人らの主張する公務性の基準A、C、Eを満たさないものであって、高松高判の示す基準からしても、公務性はない旨縷々主張する。しかしながら、右認定のとおり事被控訴人高須賀の右出張は、事前に高槻市議会事務局を通じて相手方議会事務局に連絡をとった上でなされたものであり、かつ、博物館等を見学することが直ちに一般の観光旅行と同一であると断定し難い上、平良市では、同市職員の案内で市内の設備等についての見学をしたものであり、前記認定説示のとおりの視察の目的、見学した施設や場所、その方法等が視察目的に沿ったものであるといえることをも考慮すれば、その目的、動機、態様等に照らして、行政出張として、著しく妥当性を欠くものということはできないから、右出張は公務性がないとの控訴人らの主張は採用できない。

控訴人らは、被控訴人高須賀の右出張について、同被控訴人が議長として、その出張を認めたことは、手続上重大な瑕疵があり、出張の内容を判断するまでもなく、議長の裁量権行使は、裁量権の著しい逸脱、濫用に当たる違法なものである旨主張するが、被控訴人高須賀の右出張は公務性がないとはいえない上、議長の裁量権の行使に関する前記4、5説示に照らせば、被控訴人高須賀が議長として、同被控訴人の右出張を認めたことが直ちに手続上重大な瑕疵があるということはできず、控訴人らの右主張は、その前提において採用できない。

(二) 東京都(江東区、千代田区)への出張について

(1) 原判決四二頁一〇行目から同四四頁一一行目まで記載のとおりであるから、これを引用する。ただし、次のとおり付加訂正する。

<1> 原判決四三頁七行目の「同被告は、東京都に」から同八行目の「しなかった。」までを「同被控訴人は、当初、東京都江東区の清掃工場を中心に視察をする予定で、高槻市議会事務局を通じて、事前に問い合わせをしてもらったところも東京都としては対応できないので、個人として対応してほしいとの返答を聞き、個人的に見てくれとの意向であると理解した。また、被控訴人高須賀は、高槻市議会事務局を通じて資料を貰った。」と改める。

<2> 同四四頁二行目の「知った」の次に「なお、被控訴人高須賀は、自分なりに視察することも勉強になると思い、東京都の職員の対応なしに、事前に入手した資料をもとに、一人で、右施設等を見て回った。」を加える。

<3> 同四四頁六行目の「いたが、」の次に「もともと、江東区の清掃工場を中心に視察を予定していたことから、千代田区役所には事前に連絡をとることをしていなかったので、同会館に行って見て、」を加える。

(2) 控訴人らは、被控訴人高須賀の右出張については、視察に当たって相手方部局の説明も受けず、事前の準備が不十分なものであり、控訴人らの主張する判断基準(高松高判の示す基準)に照らしても、公務とはいえないものである旨主張する。しかしながら、被控訴人高須賀の右出張について、控訴人ら主張にかかる点があったことは否定し得ないものの、前記認定にかかる視察の目的、江東区の清掃工場を中心にした視察については事前に相手方に問い合わせをし、資料を入手していること、視察の内容も、意図していた目的に沿ったものであるといえることを考え合わせれば、被控訴人高須賀の右出張が、その目的、動機、態様等に照らして、行政出張として、著しく妥当性を欠くものということはできないから、右出張は公務性がないとの控訴人らの主張は採用できない。

2  被控訴人藤川について

(一) 岡山市及び建部町への出張について

(1) 原判決四五頁八行目から同四八頁三行目まで記載のとおりであるから、これを引用する。ただし、次のとおり付加訂正する。

<1> 原判決四五頁八行目の「五〇」の次に「六九、検甲六の1ないし11、」を同頁一一行目から同四六頁一行目にかけての「シンポジウム」の次に「(以下「本件シンポジウム」という。)をそれぞれ加える。

<2> 同四六頁一〇行目の「羽場頼三郎」の次に「(被控訴人藤川は、同議員と同じ政党である社会民主連合〔以下「社民連」という。〕に所属し、同議員がごみ問題で高槻市に行政視察に来た時に、同議員と知り合ったもので、本件シンポジウムも、その実行委員となっていた同議員の要請で参加することとしたものであった。)」を加える。

<3> 同四七頁一行目の「二三日には」の次に「本件シンポジウムの開始時が午後三時三〇分と予定されていたことから、江田三郎関連の実行委員会によって、当日午前中に、」を、同頁二行目の「同被告は、」の次に「前日、岡山市に来てから、右墓前祭が行われることを知り、」をそれぞれ加え、同頁四行目の「豪雨のため」を「途中、豪雨があり、建部町に到着したころには、小降りとなっていたが、傘を持っていなかったし、むしろ、近辺をみておこうとして、」と、同頁五行目の「公民館、福祉機器販売店を見学した」を「公民館が開いていたので、役場に入って、そこに置いてあったパンフレットを何枚か取り(役場には人がいたが、被控訴人藤川は名刺を出したりするようなことはしなかった。)、役場や公民館あたりを歩いて回り、その斜め前に福祉機器販売店があったので、中に入って福祉機器を見た(なお、平成九年一二月、控訴人ら代理人が現地に行って確認したところ、右店は、いわゆる「よろず屋」の経営者の配偶者が始めたものであって、よろず屋が営業の中心であり、福祉機器販売店〔レンタルショップ〕のコーナーとされている部屋には、福祉機器は殆ど置いておらず、よろず屋の商品が積み上げてあり、よろず屋の倉庫兼用として使用されていた。)」と、同頁七行目の「前記」及び「右の」をいずれも「本件」とそれぞれ改める。

<4> 同四七頁六行目の「羽場」の次に「頼三郎」を、同七行目の「シンポジウムは、」の次に「連合岡山が中心になり、社民連所属の議員や関係者、江田五月(社民連所属議員で江田三郎の子)の秘書、事務所員、婦人、会員ら一六名が実行委員会を構成して、開催されたもので、司会は毎日新聞の岩見が担当し、社会党から田辺委員長、民社党から中野寛成、連合本部事務局長山田、江田五月ほか一名がパネラーとなり、傘下の労働組合員、連合岡山の支持する政党である社民連、社会党、民社党所属議員や関係者、一般市民らの参加により、」を、同九行目「テーマで、」の次に「当時議論されていた政界再編成、地方分権、地方と中央政治との関係等につき議論され、パネリストから、江田三郎の政治理念についての意見が出されたりして、」を、同行の「行われた。」の次に「被控訴人藤川は、本件シンポジウム終了後、すぐに岡山駅から新幹線で帰阪した。」をそれぞれ加える。

(2)<1> 右認定事実に照らせば、被控訴人藤川が、当時議論されていた政界再編成、地方分権、地方と中央政治との関係等についてのシンポジウムに参加することは、地方議会の議員として政治的活動に関わるものであり、議員活動を行う上で資するものがあることを否定し得ないものの、本件シンポジウムは、連合岡山及び社民連という特定の労働組合や政党が主催して行われたもので、被控訴人藤川は、社民連に所属し、同じ社民連所属の議員で、本件シンポジウムの実行委員会を構成した羽場頼三郎議員の要請により、これに参加することとして、右出張をなしたものであって、本件シンポジウムの内容をも合わせ考えれば、被控訴人藤川の本件シンポジウムへの参加は、同被控訴人が所属する社民連の活動としてなされた色彩が強く、前記一2、3認定説示にかかる会派視察が実施されてきた経緯や会派視察の趣旨、目的を勘案すれば、被控訴人藤川の右出張は、その目的、動機及び態様等からしても公務性に乏しく、行政出張として著しく妥当性を欠くものというべきである。

<2> なお、前記認定のとおり、被控訴人藤川は、岡山市に行ってから、翌日、江田三郎の墓前祭が行われるのを知り、これに参加するために建部町に赴いたのであるが、右墓前祭の性質等に鑑みれば、同被控訴人が所属する政党に関係する議員であった江田三郎の墓前祭への参加について、会派視察の出張として公務性を認めることができないというべきである。

もっとも、被控訴人藤川は、右墓前祭には参加せず、建部町内の町役場や公民館も福祉機器販売店を見学したところ、同認定にかかる見学の態様や福祉機器販売店の実情等に加えて、右<1>のとおり、もともと被控訴人藤川の右出張については、会派視察の出張として公務性に乏しいものであって、行政出張として著しく妥当性を欠くものであったことに照らせば、建部町内でした町役場や公民館、福祉機器販売店の見学の事実を考慮しても、被控訴人藤川の右出張が、行政出張として著しく妥当性を欠くものであったとの前記説示を左右するものではない。

<3> 右<1>、<2>のとおり、被控訴人藤川の岡山市及び建部町への出張については、公務性に乏しく、会派視察の出張として著しく妥当性を欠くものであるから、議長において、右出張を承認したことは、その裁量の範囲を逸脱した違法なものであるというべきである。

<4> 以上によれば、被控訴人藤川は、右出張が会派視察の出張として違法であるにもかかわらず、高槻市から右旅費相当額である三万八六〇〇円を支出させて、これを受領し、高槻市に対し右支出額相当の損害を与えたのであるから、高槻市に対し、これを賠償すべき責任がある。

(二) 仙台市及び塩竃市への出張について

(1) 原判決五一頁二行目から同五二頁七行目まで記載のとおりであるから、これを引用する。ただし、次のとおり付加訂正する。

<1> 原判決五一頁二行目「1ないし5、」の次に「七〇の1ないし3、」を、同行の「(3)、」の次に「六、」をそれぞれ加える。

<2> 同五一頁六行目の「同市観光協会」を「社団法人高槻市観光協会(同協会は、昭和四二年三月、観光及び文化事業を通して、町の活性化、地域文化の向上を目的に発足したもので、高槻市から補助金を受け、高槻市の観光マップ〔証拠略〕を発行したりしている。以下「観光協会」という。)」と改める。

<3> 同五二頁三行目の次に行を改め、次のとおり加える。

「被控訴人藤川は、同被控訴人が代表者を務める、高齢者問題を考える市民団体である「北摂ふれあいデータバンク」(以下「データバンク」という。)及び同被控訴人個人宛に、右シンポジウムの案内が来たことから、これに参加することとし、データバンクのメンバー五名にも声をかけ、同行してもらうこととした。

被控訴人藤川は、観光協会の役員としての立場から、仙台まで来たついでに、その隣の松島(被控訴人藤川は、日本三景の一つである松島をそれまで見ていなかったので、観光協会の役員として恥ずべきことと思っていた。)に行って、観光名所を見て、観光協会の活性化や高槻市の観光施策の発展のためにヒントとなるものを得たいと考え、右シンポジウム終了後、データバンクのメンバー五名とともに松島に行くこととした。」

<4> 同五二頁四行目から同七行目までを、次のとおり改める。

「ウ 被控訴人藤川は、データバンクのメンバー五名とともに、平成四年九月五日午前六時過ぎに京都駅から新幹線で東京駅に向かい、東京駅を経由して、同日正午前ころに仙台市に到着し、午後〇時二〇分ころシンポジウム会場に入り、午後六時ころまでシンポジウムに参加し、閉会後、仙台市内のホテルに宿泊した。被控訴人藤川は、右メンバー五名とともに、翌六日も終日右シンポジウムに参加し、閉会後、前日と同じホテルに宿泊した。

被控訴人藤川は、データバンクのメンバー五名とともに、同月七日午前八時過ぎ仙台駅発の列車で松島に向かい、徒歩で、松島湾周辺の観光地を回り、観光案内所に寄って、同所に置いてあったパンフレットを入手するなどしたが、塩竃市の観光課や観光脇会を訪問することはなかった。被控訴人藤川は、データバンクのメンバー五名とともに、午後の列車で仙台市に戻り、午後四時ころの飛行機で帰阪した。

なお、右「北摂ふれあいデータバンク」のメンバー五名は、それぞれ自己負担金と一部右データバンクからの補助金でもって、右旅行の費用をまかなった。

エ 被控訴人藤川は、観光協会の役員としての立場から、右出張に行ったつもりであり、当時観光協会で話のあったパンフレットを作る関係から、松島の観光パンフレットを取れば用が足りたと思っていた。

被控訴人藤川は、観光協会は、高槻市とは別の団体であるが、高槻市が補助金を出していて、むしろ、行政としてやるべきことを、高槻市が観光協会に委嘱していて、両者は表裏一体と思っていた。」

(2)<1> 右(1)認定によれば、被控訴人藤川の仙台市への出張は、高齢者問題等の老人福祉を考えることを目的として市民団体が主催したシンポジウムに、同被控訴人が代表者を務めていたデータバンクの代表者として、そのメンバー五名とともに参加することを目的としたものであり、塩竃市への出張は、同被控訴人が役員をしていた観光協会の役員としての立場から松島の観光を目的としたものであって、同事実に加えて、前記一2、3認定説示のとおりの会派視察が実施されてきた経緯や会派視察の趣旨、目的等を勘案すれば、被控訴人藤川の従前の議員としての活動歴や当時の役職、高槻市観光協会は高槻市の観光事業に資することを目的とする団体であり、その点において、高槻市の行政目的とも一致するといえることや、被控訴人藤川は、議員としての地位にあったことから、理事として右観光協会に関与するようになったこと(〔証拠略〕)等を考慮しても、右出張は、公務性に乏しく、行政出張として著しく妥当性を欠くものというべきである。

<2> 右<1>のとおり、被控訴人藤川の仙台市及び塩竃市への出張については、公務性に乏しく、会派視察の出張として著しく妥当性を欠くものであるから、議長において、右出張を承認したことは、その裁量の範囲を逸脱した違法なものであるというべきである。

<3> 以上によれば、被控訴人藤川は、右出張が会派視察の出張として違法であるにもかかわらず、高槻市から右旅費相当額である九万四六七〇円を支出させて、これを受領し、高槻市に対し右支出額相当の損害を与えたのであるから、高槻市に対し、これを賠償すべき責任がある。

3  被控訴人尾崎について

(一) 原判決五三頁八行目から同五五頁八行目まで記載のとおりであるから、これを引用する。ただし、次のとおり付加訂正する。

(1) 原判決五三頁八行目の「乙一九、」の次に「二八の1ないし3、二九の1、2、」を加える。

(2) 同五四頁四行目の次に行を改め「被控訴人尾崎は、右出張に行く前に、高槻市の図書館で、同館に備え付けてあった高知市発行の老人憩所や保健婦センターに関するパンフレット等の資料を見て、視察の中心を桂浜の花海道(途中に右施設があった。)にもっていくこととした。」を加える。

(3) 同五四頁一一行目の「聞いた。」の次に「被控訴人尾崎は、右老人福祉課やみどり課では、同被控訴人が高槻市議会議員であるとの身分を明らかにして、名刺交換をしたり、担当職員と話をしたことはなかった。また、被控訴人尾崎は、みどり課で、職員と話をしたのは、二、三分であり、同課で資料をもらったこともなかった。」

(4) 同五五頁二行目の「見聞し」の次に「タクシーの運転手から説明を受けたり、高知市のことを聞いたりし」を、同三行目の「老人憩所」から同四行目の「見学した後」までを「老人憩所に立ち寄り、談話室と思えた室で、テレビを見ていた一人の老人と数分話をした後、同所を出ても近くにあった保健婦センターに行き、内部に立ち入り、様子を見たが、関係者から話を聞くことはしなかった。被控訴人尾崎は、その後」と改め、同四行目の次に行を改め「なお、被控訴人尾崎は、事前に見た資料の中にはその内容が記載されており、施設を利用している人の声を聞きたいとして、事前に、高知市の担当部局に、老人憩所や保健婦センターについての問い合わせをするようなことはしなかった。」

(5) 同五五頁七行目から同八行目までを次のとおり改める。

「(5) 被控訴人尾崎は、平成三年一〇月二五日開催の高槻市議会決算審査特別委員会において、史跡今城塚の整備状況と今後の整備の見通しについて質問した。

また、被控訴人尾崎は、右出張後一年以上経過し、かつ本訴提起後である平成五年九月一七日開催の高槻市議会文教経済委貫会において、フラワーセンター構想とフラワーファーム整備事業及び今城塚古墳整備計画の進展について質問した。

被控訴人尾崎は、平成七年三月一三日開催の右文教経済委員会において、今城塚史跡公園整備の今後の取り組みとスケジュールについて質問した。」

(二)(1) 右(一)認定事実、殊に、被控訴人尾崎の右出張は、事前に高槻市の図書館に備え付けてあったパンフレット等の資料を見たものの、行政出張であることを明らかにした上で、事前に高知市の担当部局と連絡を取ったり、出張中に高知市の担当部局の職員による説明等を受けることなくなされたものであること、被控訴人尾崎が見て回った箇所は、右(一)(2)、(3)のとおりであり、かつ、視察の中心としていた桂浜の花海道や老人憩所及び保健婦センターの視察の状況等は同(3)認定のとおりであって、高知市内の観光名所をタクシーで回ったに過ぎないといえないではないこと等を考え合わせれば、同(5)認定の被控訴人尾崎の議員活動等を斟酌しても、被控訴人尾崎の右出張は、公務性に乏しく、行政出張として、著しく妥当性を欠くものであるというのが相当である。

(2) 右(1)のとおり、被控訴人尾崎の高知市への出張については、公務性に乏しく、会派視察の出張として著しく妥当性を欠くものであるから、議長において、右出張を承認したことは、その裁量の範囲を逸脱した違法なものであるというべきである。

(3) 以上によれば、被控訴人尾崎は、右出張が会派視察の出張として違法であるにもかかわらず、高槻市から右旅費相当額である四万二五〇〇円を支出させて、これを受領し、高槻市に対し右支出額相当の損害を与えたのであるから、高槻市に対し、これを賠償すべき責任がある。

4  被控訴人須磨について

(一) 原判決五六頁七行目から同五八頁一行目まで記載のとおりであるから、これを引用する。ただし、次のとおり付加訂正する。

(1) 原判決五七頁一一行目の「当たり、」の次に「被控訴人須磨は、事前に本で得た知識をもととし、」を、同五八頁一行目の次に行を改め「被控訴人須磨は、右出張後、高槻市議会総務委員会等で、高槻市の観光行政に関して発言したことがあったが、一般的な形での発言であり、小樽市の観光行政の実情との対比では発言しなかった。」をそれぞれ加える。

(二)(1) 右(一)認定、殊に、被控訴人須磨は、議会運営委員会による函館出張を機会に、札幌市と小樽市を視察したものの、札幌市では大通公園を歩いたのみであり、小樽市内では観光名所を回ったに過ぎず、右視察に際し、事前に本を読んだ以外、札幌市や小樽市の担当部局の職員から話を聞くこともなかったこと、被控訴人須磨は、右視察の結果を議員活動の中に反映させたことも認め難いこと等を考え合わせれば、同(1)のとおり、被控訴人須磨の議員として観光行政に関心を抱いていたこと等を考慮しても、被控訴人須磨の右出張は、その目的、動機、態様等において、公務性に乏しく、行政出張として、著しく妥当性を欠くものであるというべきである。

(2) 右(1)のとおり、被控訴人須磨の札幌市と小樽市への出張については、公務性に乏しく、会派視察の出張として著しく妥当性を欠くものであるから、議長において、右出張を承認したことは、その裁量の範囲を逸脱した違法なものであるというべきである。

(3) 以上によれば、被控訴人須磨は、右出張が会派視察の出張として違法であるにもかかわらず、高槻市から右旅費相当額である六万三三一〇円を支出させて、これを受領し、高槻市に対し右支出額相当の損害を与えたのであるから、高槻市に対し、これを賠償すべき責任がある。

5  被控訴人久保隆夫について

(一) 原判決五八頁九行目から同六一頁七行目まで記載のとおりであるから、これを引用する。ただし、次のとおり付加訂正する。

(1) 原判決五八頁九行目の「五一、」の次に「七七ないし八三、」を、同行の「乙二二、」の次に「三〇、三一の1、2、三二の1、2、三三の1ないし3、三四、三六、」をそれぞれ加える。

(2) 同五九頁四行目の「西岡喜代一が被告と」を「西岡紀代一(以下「西岡議員」という。)が同被控訴人と」と改め、同五行目の「事情があった。」の次に「被控訴人久保隆夫は、西岡議員を通じて話を聞いていたことから、右視察に際し、市原市及び船橋市の担当部局と調整を図ることはしなかった。」を加える。

(3) 同六〇頁一行目の「施設」の次に「、市原市において建設中であった市民交流センター『サンプラザ市原』等」を、同行の「見て回り、」の次に「市原市内の」をそれぞれ加える。

(4) 同六行目の「その後、」の次に「同日午後四時か五時ころ、市原市内の」を、同九行目の「出席した」の次に「(被控訴人久保隆夫は、当初、右大会に出席することを予定していなかったが、右(3)のとおり、西岡議員の事務所で組合幹部と懇談したときに、右大会の話が出、翌日の帰阪の途中寄ることとした。)」をそれぞれ加える。

(5) 同六〇頁九行目の次に行を改め、次のとおり加える。

「(5) 被控訴人久保隆夫は、右出張後、議員の立場から、高槻市の関係部局に駐輪場の件で申し入れをしたことがあり、高槻市では、JRの駅前に二か所駐輪場を完成させた。

また、被控訴人久保隆夫は、サンプラザ市原の見聞をもとに、後に高槻市が建設した交流センターの計画に関係した。

控訴人久保隆夫は、右視察後、高齢者対策特別委員会の設置を高槻市長に申し入れ、設置された右委員会の委員となった。

(控訴人らは、被控訴人久保隆夫が右各視察先には行っていない旨主張し、甲八四〔控訴人堀内雅代作成の報告書〕及び控訴人堀内雅代〔当審〕には、これに沿う部分が存するが、前掲各証拠に照らして、甲八四及び控訴人堀内雅代〔当審〕のうち控訴人らの主張に沿う部分はいずれも容易に採用することができない。)」

(6) 同六〇頁一〇行目の「照らすと、」の次に「被控訴人久保隆夫の右出張は、同被控訴人の議員としての活動と関連するものであって、公務性を有するものというのが相当であるから、」を加える。

(7) 同六一頁一行目の次に行を改め「控訴人らは、被控訴人久保隆夫の右出張は、控訴人らが主張する公務性の基準A、Cを満たさず、高松高判の示す基準からしても、公務性がない旨縷々主張するが、右認定説示に照らして、採用できない。」を加え、同四行目の「主張」を「出張」と改める。

(二)(1) 右(1)認定のとおり、被控訴人久保隆夫は、平成四年一〇月一五日、西岡議員の家に宿泊したのであり、かつ、宿泊費用等を同被控訴人が西岡議員に支払ったことを認めるに足りる証拠はないところ、同被控訴人は、右出張前である平成四年一〇月六日、高槻市から、出張旅費として七万六一〇〇円の支給を受け、出張後である平成四年一〇月二二日、高槻市との間で、旅費の概算払の清算として、同月一五日の宿泊費一万五〇〇〇円を含めた七万六一〇〇円の清算をしているのであるから(〔証拠略〕)、被控訴人久保隆夫は、不当ないし違法な利得として、高槻市に対し、右宿泊費相当額である一万五〇〇〇円を返還すべき義務があるか否かについて検討する(前記第二の二〔当審における出張の補充〕3(一)の控訴人らの主張は、被控訴人久保隆夫に対する右主張に含むものと解する)。

(2)<1> 旅費法は、同法四六条一項において「……当該旅行における特別の事情に因り又は当該旅行の性質上……その実費をこえることとなる部分の旅費又はその必要としない部分の旅費を支給しないことができる。」と規定し、旅費の建前が実費弁償であることを間接的に表現しているものの、旅費の多くの種目が定額支給方式によっていて(同法六条以下)、与えられた定額の範囲内において、いかに旅費を使用するかは、旅行命令に反しない限り、旅行者の自由意思にまかせられている。そして、支給された旅費の額と実際の旅費の額とが極端に食い違うような場合には、調整の必要があることから、旅費法は、旅費の調整の規定を設けており(同法四六条一項)、その運用基準として、「旅行者が公用の交通機関、宿泊施設、食堂施設等を無料で利用して旅行したため、正規の鉄道賃、船賃、航空賃も車賃、宿泊料又は食卓料を支給することが適当でない場合には、正規の鉄道賃、船賃、航空費、車賃、宿泊料又は食卓料の全額を支給しないものとする。」とされている(〔証拠略〕)。

<2> 右旅費法の趣旨及び運用基準等に照らせば、知人宅に宿泊したために宿泊費を要せず、かつ、宿泊したことに対して格別謝礼等の金品の提供をするようなこともなかった場合には、右運用基準にいう公用の宿泊施設を無料で利用したため、宿泊費を支給することが適当でない場合に準じて、宿泊費の全額を支給しないものとするのが相当であり、右宿泊費の支給を受けた旅行者においては、宿泊費を要しないことが明らかになった時点において、宿泊費を取得する法律上の根拠を欠くものとして、これを返還すべき義務があると解するのが相当である。

<3> 高槻市議会議員の出張の場合の旅費の支給等について直接これを規定した法令は存しないところ、これにつき、旅費法の規定にしたがった運用をすることを禁ずる法令も存しないことから、右議員の出張の場合の旅費についても、旅費法の趣旨にのっとって運用されてきたのであって、かつ、右運用について問題とされたことはなかったから(弁論の全趣旨)、被控訴人久保隆夫の右出張についても、同趣旨にのっとった運用がなされるのが相当である。

そうすると、被控訴人久保隆夫は、平成四年一〇月一五日の宿泊費についてはこれを要しなかったのであるから、同月二二日、高槻市との間で、旅費の概算払の清算をした時点において、高槻市に対し、同月一五日の宿泊費として受領していた一万五〇〇〇円を返還すべきであったというべきである。

(3) したがって、被控訴人久保隆夫は、不当ないし違法な利得として、高槻市に対し、右宿泊費相当額である一万五〇〇〇円を返還すべき義務がある。

6  被控訴人川上について

(一) 原判決六一頁一一行目から同六二頁九行目まで記載のとおりであるから、これを引用する。ただし、原判決六二頁二行目の「問題について、」の次に「被控訴人川上が所属する党派の」を加える。

(二)(1) 会派視察は、会派で行う行政全般に関する調査、研究のための視察であること、会派視察による出張は、行政機能の複雑化、多様化に伴い、個々の議員が広く他の行政実情にも正確な知識を持つことが、その議会活動能力を高め、ひいては住民の利益にも繋がることから、会派視察による出張が公務のための旅行であることを肯定できること等、前記一2、3認定にかかる会派視察の実施されてきた経緯、会派視察の内容、目的等に照らせば、地方公共団体において多くの問題で国との調整等を必要としていることから、陳情を行うことが議会(議員)の権能の範囲であることを肯認し得るとしても、市会議員が自己と同一の党派の国会議員に会って陳情を行うことは、その目的、動機、態様等に鑑み、公務性に乏しく、会派視察による出張として、著しく妥当性を欠くものというべきである。

(2) 右(1)のとおり、被控訴人川上の東京への出張については、公務性に乏しく、会派視察の出張として著しく妥当性を欠くものであるから、被控訴人川上が議長として、右出張を承認したこと(〔証拠略〕)は、その裁量の範囲を逸脱した違法なものであるというべきである。

(3) 以上によれば、被控訴人川上は、右出張が会派視察の出張として違法であるにもかかわらず、高槻市から右旅費相当額である五万六四四〇円を支出させて、これを受領し、高槻市に対し右支出額相当の損害を与えたのであるから、高槻市に対し、これを賠償すべき責任がある。

7  被控訴人久保杏慈について

原判決六四頁二行目から同六七頁八行目まで記載のとおりであるから、これを引用する。ただし、次のとおり付加訂正する。

(一) 原判決六四頁三行目の「一ないし六、」の次に「七の1ないし4、八、九、」を、同六六頁三行目の「同被告は、」の次に「上海空港から航空機に乗って北京に行き、」をそれぞれ加える。

(二) 同六六頁一一行目の次に行を改め、次のとおり加える。

「控訴人らは、被控訴人久保杏慈が、右(2)のとおり、常州市に行ったことや東方小学校等を訪問したことはない旨主張し、甲五二、八六〔いずれも控訴人堀内雅代作成の陳述書〕、控訴人堀内雅代〔原審及び当審〕にはこれに沿う部分があるが、前記戊一ないし六、七の1ないし4、八、九、被控訴人久保杏慈に照らしてにわかに採用することができない。」を加える。

(三) 同六七頁八行目の次に行を改め、次のとおり加える。

「控訴人らは、高槻市と常州市の友好訪問や友好交流等の友好都市事業については、毎年高槻市と常州市の担当者が協議し、どのような友好事業を行うか事細かに決め、確認書を作成し(〔証拠略〕)、この確認書に基づいて、高槻市と常州市の友好都市事業は行われているのであり、このような確認書に基づかない高槻市と常州市の公的な友好都市事業はありえないし、このような手続を踏んでいない友好訪問は、高槻市においては公務とは認められないから、これを公務と認めた議長の行為は、裁量権の逸脱ないし濫用である旨縷々主張する。

しかしながら、前記一2、3のとおりの会派視察の趣旨等に照らせば、被控訴人久保杏慈の常州市への友好訪問の公務性は肯認できる上、中国の教育の実情視察という目的が会派視察の趣旨に沿うものであることは、右説示のとおりであるから、控訴人らが主張する右事実を前提としても、被控訴人久保杏慈の右常州市への出張を公務と認めた議長の行為が、裁量権の著しい逸脱ないし濫用であるということができない。

また、控訴人らは、被控訴人久保杏慈の出張報告書(〔証拠略〕)には、行政視察目的として「友好都市訪問」としか記載されていないし、また、監査委員が事情聴取した結果報告書にも行政視察目的は「友好都市訪問」しか記載がなく、視察日程に学校等の教育に関係した場所の訪問の記載はない(〔証拠略〕)から、被控訴人久保杏慈は、「中国の教育の実情視察」という行政視察目的を事前に議長に申し出たということはなく、議長は、被控訴人久保杏慈が「中国の教育の実情視察」に行くことを知らないのであるから、被控訴人久保杏慈の右出張については、裁量があり得ず、裁量の不存在として違法である旨主張する。

しかしながら、右説示のとおり、被控訴人久保杏慈の常州市への友好訪問の公務性は肯認できるのであって、右の点について議長の裁量があったのであるから、仮に、議長において、被控訴人久保杏慈の常州市へのもう一つの出張目的である中国の教育の実情視察について裁量がなかったとしても、被控訴人久保杏慈の右出張について議長の裁量が不存在であるということはできない。」

三  被控訴人江村の公金支出の違法性について(争点3)

1(一)  高槻市において、議員の出張旅費の支給手続は前記第二の一4(原判決「第二 事案の概要」一4)のとおりの手続を経て支出されており、被控訴人議員らの会派視察の費用も、同4、5の右手続を経て各議員らに支払われたものである。

(二)  地方公共団体の議決機関としての議会と、執行機関としての長とは、相互に独立した対等の機関とされていて、執行機関としての長は、議会に対して、所定の場合に、その議決を、議に付し、議決すべき事件を処分することができるに過ぎず(地自法一七七条一七九条)、議会の議決の内容等について指揮監督等の権限を有しない。

したがって、長は、財務会計上の権限を有していても、議会ないしその事務統理権者である議長において、議員の出張についての許可及び承認をし、これに伴う予算の支出について予算の裏付けがある以上、その内容等に重大かつ明白な瑕疵があって、その費用を支出すること自体が違法となるような場合でない限り、長は、その出張に要する費用を支出しなければならず、これにより、公金が支出されたとしても、その支出行為につき、長は責任を負うものではないと解するのが相当である。

(三)  前記二2ないし6のとおり、被控訴人藤川、同尾崎、同須磨、同川上に支給した旅費及び同久保隆夫に支給した旅費の一部については、いずれも違法であり、あるいは相当でなかったものであるところ、右支出は、前記(一)のとおりなされたものであって、かつ、右各出張に対する議長の承認について、重大かつ明白な瑕疵があったとは認められないから、右支出行為は違法であり、あるいは相当でなかったとしても、同(二)説示に照らして、被控訴人江村には、右支出行為について責任があるということはできない。

2  控訴人らは、前記第二の二(当審における主張の補充)4(一)(1)ないし(3)のとおり主張するところ、控訴人らの右(2)の主張は前記一1ないし5(原判決「第三当裁判所の判断」一1ないし5)に照らし、同(1)、(3)の主張は右1(二)、(三)認定説示に照らし、いずれもその前提を異にするものであって、採用できない。

第四  結論

以上の次第で、控訴人らの本件請求は、高槻市に対し、被控訴人藤川において一三万三二七〇円、被控訴人尾崎において四万二五〇〇円、被控訴人須磨において六万三三一〇円、被控訴人久保隆夫において一万五〇〇〇円、被控訴人川上において五万六四四〇円、及びこれに対する別紙請求債権目録記載の各訴状送達日(右各日に各訴状が送達されたことは記録上明かである。)の翌日である主文記載の各日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、被控訴人久保隆夫に対するその余の請求及びその余の被控訴人らに対する請求はいずれも理由がないからこれを棄却すべきである。

よって、本件控訴に基づいて、原判決を変更し、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六七条、六一条、六四条、六五条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松尾政行 裁判官 熊谷絢子 神吉正則)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例