大阪高等裁判所 平成9年(行コ)42号 判決 2000年7月13日
主文
一 本件控訴を棄却する。
二 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第一申立て
一 控訴人
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人が控訴人に対して平成六年七月五日付けをもってした平成三年九月九日被相続人aについての相続開始に係わる相続税の更正処分のうち、課税価格二億九七四二万五〇〇〇円、納付すべき税額九五四四万一五〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分を取り消す。
3 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二 被控訴人
主文同旨
第二事案の概要
当審において、控訴人が次のとおり主張し、被控訴人がこれを争うと述べたほか、原判決記載のとおりであるから、これを引用する(ただし、文中の「法人税等相当額」をいずれも「法人税額等相当額」と、九頁五行目の「受入金額」を「受入価額」と、それぞれ改める)。
(控訴人の主張)
一 本件課税処分は平等権の侵害にあたる。
すなわち、控訴人は、被相続人が所有していた旅館「国華荘」の資産を控訴人が相続する際の相続税の支払を確保して旅館の経営を継続するため、b税理士からいわゆる「A社B社方式」による相続税の節税の方法を勧められ、被相続人とともにこれを実行したものであるが、もともと同方式は税理士などの間で広く知られた節税方法であったのに、被控訴人は、国税庁長官の意を受けて、同方式を編み出した同税理士を倒産に追い込むため、同税理士の指導又は関与のもとに同方式を実行した事案に限って、株式等の評価にあたり含み益についての法人税額等相当額の控除を否認し、更正処分に及んできたものであって、本件課税処分は、同じ「A社B社方式」を実践しながら更正処分を受けなかった他の納税者との間に均衡を欠くというべきである。
また、被控訴人は、本件課税処分が平成五年に発せられた前記「事務連絡」に基づいて行われたというが、「事務連絡」が法人税額等相当額の控除を否認しようとしているのは、上場会社の株式又はその譲渡代金を保有する目的で実質的に経済活動を行うことのない法人を設立する場合に限られており、設立後も有価証券取引等により経済的な実績をあげていた下鴨商事に右事務連絡が適用されるはずがなく、本件課税処分の実質は平成六年六月に改正された評価基本通達(一八六-二)の遡及適用にほかならない。
さらに、被控訴人は、本件において法人税額等相当額の控除を否認しなければ、節税方策をとり得た者とそうでない者との間に実質的な租税負担の公平が図られないと主張するが、およそ租税法にあっては「実質的な租税負担の公平」という原則は存在しないのであるから、このような原則に基づいてした本件課税処分は、租税法律主義に違反し、憲法二九条にも抵触するものである。
二 相続税法二二条の時価評価について
仮に、評価基本通達による方法以外の方法により下鴨商事に対する出資持分を評価するとすれば、右は純資産処分価額法により算定すべきものとなり、これによる下鴨商事の出資一口の「時価」は最大限二万七〇〇六・二五五八円というべきである(甲七四)。
なお、現金が株式等に形態を変えたときには、その処分が拘束され、流動性が制約されるから、株式等にかかる会社の資産を評価するには、必ず右制約を斟酌した減額が行われるべきであり、右減額をせずに株式等の評価をすることは、会社の財産の評価と会社に対する出資の評価とを混同するものである。
第三証拠
原・当審における証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。
第四判断
一 当裁判所も、控訴人の本訴請求は理由がなく、これを棄却すべきものと判断する。その理由は、次のとおり改めるほか、原判決「第四 争点に対する判断」のとおりであるから、これを引用する。なお、文中の「法人税等相当額」をいずれも「法人税額等相当額」と改める。
1 二八頁一行目の「租税負担の公平」の次に「(担税力に即した課税や、課税の公平・中立は、憲法一四条一項の要請するところでもある)」を加える。
2 三一頁二行目の「定められた」を「定めた」と、同頁五行目の「会社散」を「会社解散」と、それぞれ改める。
3 三四頁八行目の「法人税相当額等を控除しない原告主張の額」を「法人税額等相当額を控除しないで評価基本通達一八五に基づいて評価した二〇億五二九七万三八二四円」と改める。
4 同頁九行目の次に行を改め以下のとおり加える。
「控訴人は、右のような本件課税処分は、実質的には、平成六年六月に改正された評価基本通達(一八六-二)を遡及して適用することにほかならないと主張するが、右の改正があった以前に生じた相続については、いかなる場合も右のような法人税額等相当額を控除しない評価方法をとることができないとする法的根拠又は法慣習があったわけではないから(あるいは、「A社B社方式」では、上場会社の株式又はその譲渡代金を保有する目的で実質的に経済活動を行うことのない法人を設立した場合に限って、法人税額等相当額を控除しないという評価方法がとられていたわけでもないから)、改正後の評価基本通達の「遡及適用」(右通達の趣旨に沿った更正)により、課税の平等が害されるいわれはない。
そして、右のような算定方法による本件出資の評価は、評価基本通達の体系に照らしても合理性を有するものと認められるのであり(右評価の方法は、会社財産の評価と右会社に対する出資の評価とを混同するものではない。控訴人が援用するc税理士の作成にかかる鑑定意見書〔甲七四〕の内容は、下鴨商事の解散を前提とする同会社の清算価額をもとに本件出資の評価を行う点で、本件においては合理性に欠けるというべきである)、右評価に基づく本件課税処分は適法である。
なお、証人bの証言及び弁論の全趣旨によると、b税理士の案出した「A社B社方式」は早くから税理士や銀行、証券会社などの間で知られるところとなり、右手法を相続税対策として顧客に勧めることも行われ、その中には右手法を講じたのちに相続が開始し、実際に相続税の申告をしたものの、更正を受けなかった事例が存することが認められるが、課税庁において、右手法を用いて設立された会社の出資に対する評価について、法人税額等相当額の控除を容認していたこと、あるいは本件課税処分がb税理士の業務を妨害し、同人を倒産に至らしめる目的の一環として行われたことについては、これを認めるに足りる証拠はなく、本件課税処分が右の事例との比較において公平、平等を欠き、違法となるものではないことは明らかである。」
5 三五頁六行目の「解される。」の次に「また、被相続人が死亡したのちの右一連の行為は、被相続人が存命中に同人と控訴人及びb税理士らとの間で行われた協議において、すでに織り込み済みの「節税対策」であったというべきであり、本件課税処分にあたり、右相続前に予定され、被相続人の死亡後に具体化・顕在化した右一連の行為を斟酌することは、相続財産の価額を相続開始時の時価によると定めた相続税法二二条に抵触するものではない。」を加える。
6 三六頁六行目末尾に「前認定の事実及び弁論の全趣旨によると、もともと「A社B社方式」は、設立後の会社が経済的活動を行うか否かにかかわりなく、計画的な相続税の節税対策として案出されたものであり、右手法を講じた後になされた相続税の申告において、法人税額等相当額の控除に基づく会社の株式等の評価が課税庁により容認されないことがあることは、税理士としては予想することができたというべきであり、控訴人もb税理士との協議の過程でこれを知ることができたと窺われるから、控訴人が本件の相続税の申告について過少申告をしたことに正当な理由はなく、本件賦課決定処分も適法である。」を加える。
二 よって、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 妹尾圭策 裁判官 菊池徹 裁判官 宮本初美)