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大阪高等裁判所 平成9年(行コ)57号 判決 1998年6月17日

控訴人

奈良県知事

柿本善也

右訴訟代理人弁護士

川﨑祥記

右指定代理人

種村好子

外七名

被控訴人

吉川家英

右訴訟代理人弁護士

千田適

外三名

主文

一  原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。

二  被控訴人の予備的訴えを却下する。

三  訴訟費用は第一、二審を通じて全部被控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一  控訴人の求める裁判

一  原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。

二  (主位的申立て)

被控訴人の予備的訴えを却下する。

三  (予備的申立て)

被控訴人の予備的請求を棄却する。

第二  事案の概要

事案の概要は、原判決第二記載のとおりである(ただし、被控訴人は主位的訴えを却下した部分に対して控訴しなかったから、主位的訴えのみに関する部分を除く。)から、これを引用する。

第三  判断

本件告示は、包括的に一括して「幅員四メートル未満1.8メートル以上の道」を二項道路とすると定めたのにとどまり、本件通路部分等の特定の土地について個別具体的にこれを指定したものではなく、一般的基準の定立を目的としたものにすぎないのであって、講学上の一般処分に当たるものであることは明らかである。

これについて、被控訴人は、一般処分であっても特定人の権利義務に直接関係する場合は、行政処分若しくはそれに準ずるものとして抗告訴訟の対象となるところ、本件において、被控訴人は奈良県高田土木事務所長から法四四条違反であるとして塀の撤去是正の指示を受けるなどして現実に私権の制限を受けているから、本件告示は処分性を有する旨主張する。

しかしながら、被控訴人自身も主位的請求に関して主張しているように、そもそも本件告示のような包括的指定処分によっては具体的にどの道路が二項道路に当たるかも不明であり、告示自体によって、直ちに建築制限等の私権の制限が生じるものと認めることはできない。すなわち、包括指定方式により二項道路の指定がされた場合には、右指定が当該道路部分に適用があるかについては、個別具体的に当該道路部分に法及び告示に規定されている要件が備わっているかどうかを検討・確認することが必要であるが、現実には、これは右指定後において、道路内建築制限違反に対する建物除却措置命令や建築確認等の手続の中でされることになるのであり、その結果、右建物除却措置命令等の行政処分を通じて、初めて右指定が現実具体的に個人に対する権利義務に影響を及ぼすか否かが判然とするのである。

ところで、本件においては、被控訴人は既に奈良県から法四四条違反として塀の撤去指示を受けているというのであるが、これは本件通路部分についてではないのであり(原判決第二、二、6参照)、また、本件通路部分について、本件告示による指定に基づき被控訴人に対する具体的な行政処分がなされたときには、その処分を争うことができるのであるから、それ以前に本件告示のように不特定多数の者に対して一般的抽象的な基準を定めるにすぎない処分を争わせるべき必要性は認められない。

本件告示による指定に処分性を認めることはできない。

よって、原判決中控訴人敗訴部分を取消し、本件予備的訴えを却下することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 福富昌昭 裁判官 古川正孝 裁判官 富川照雄)

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