大阪高等裁判所 昭和24年(を)3710号 判決 1950年4月22日
被告人
山崎嘉幸
外二名
主文
原判決を破棄する。
本件を大阪地方裁判所に差し戻す。
理由
弁護人渡部繁太郞、同馬淵健三の各控訴趣意第一点について。
本件起訴状記載の公訴事実第一の(三)(四)(六)(七)は、いずれも被告人山崎嘉幸が被告人竹内八代榮方で同人に鹽酸ヂアセチルモルヒネ末約五瓦づつを讓渡したというのであり、原判決認定の第一の(三)(四)(六)(七)はいずれも被告人山崎嘉幸が被告人竹内八代栄方で同人の夫竹内藤治に対して右モルヒネ約五瓦づつを讓渡したというのであること、所論のとおりである。原審がかくのごとく認定したのはその審理の結果、讓渡行爲の相手方は竹内八代栄ではなくて竹内藤治であるとの心証を得たためであろうが、原審が審理の経過においてかくのごとき心証を得たとすれば、すべからく檢察官に対し刑事訴訟法第三百十二條第二項に基き訴因の変更を命ずべきであつた。けだし、讓渡行爲そのものが犯罪の構成要件たる本件においては、一定の日時場所において特定のものを讓渡してもその相手方が異るにつれて同法第二百五十六條にいわゆる訴因が異ると解すべきであつて、それは、一定の日時場所において他人のものを窃取したが、その所有者が甲であるか乙であるかという属性に関する場合のごときと同一に論ずるを許さないからである。そこで原審公判調書によつて、その審理の跡を調べてみると、公訴事実の訴因について変更した形跡がない。しかるに、原審は右のごとく公訴事実の訴因と異る事実を認定したのであるから、訴訟手続に違反し、審判を受けない事実について判決をしたものといわざるを得ない。論旨は理由がある。