大阪高等裁判所 昭和24年(ラ)16号 決定 1949年5月09日
抗告人 申請人 大阪市職員組合
訴訟代理人 菅原昌人 浪江源治 和島岩吉
主文
本件抗告を棄却する。
理由
本件抗告理由は、原決定は違法で不服であるから抗告するというにある。
原決定は抗告人組合を構成する吏員以外の雇員傭員(使丁を含む。)が大阪市に対し公法上の服従関係に立たないものと判断しているので、この点について考えてみよう。
昭和二十三年七月二十二日附内閣総理大臣宛連合國最高司令官書簡には勤務を公務にささげる者は、私的企業に従う者と全く異つて、國民主権に基礎を持つ政府によつて使用せられる手段そのものであつてその雇傭せられる事実によつて與えられた公共の信託に対し、無條件に忠実の義務を負う旨述べられ、右書簡に基く同年七月三十一日政令第二〇一号第一條第一項は国又は地方公共団体の職員の地位にある者は、任命によると雇傭によるとを問わず、ひとしく公務員として団体交渉権を有しないことを規定し、国又は地方公共団体と対等の地位に立たないことにおいて全く同一に取り扱つていることを考え更に右書簡に基いて改正された国家公務員法において、国家公務員については、単純な労務に雇用される者(改正前の同法第二條第三項第十四号)を一般職に入れ、(改正同法第二條第二項)すべて職員は、国民全体の奉仕者として、公共の利益のために勤務し且つ、職務の遂行に当つては、全力を挙げてこれに専念しなければならないこと。(同法第九六條第一項)職員は、その職務を遂行するについて、誠実に、法令に従い、且つ、上司の職務上の命令に従わなければならないこと。(同法第九八條第一項)を規定したことを参酌すると、地方公務員は任命によると雇傭によるとを問わず、ひとしく住民全体の奉仕者として公共の利益のために勤務し、全力を挙げて職務を遂行し、上司の職務上の命令に忠実に服従しなければならないものである。雇傭によつて地方公務員の地位にある者は、任命によるものと同様、その地方公共団体と対等の地位に立つものでなく、単に民法の雇傭契約による労務給付の義務を負うに止るものでなく地方公共団体に対し一定の範囲内で包括的な服従関係に立つもので、その服従の義務は公法上の義務であり、その服務に関して地方公共団体の長のなす命令は公法上の行為であると解するのを相当とする。地方公務員についてまだ右の国家公務員法と同趣旨の法律が制定されていなくとも、前記政令が制定された以上右のような解釈をとることを妨げるものではない。
なるほど地方自治法はその第一七二條に地方公共団体の補助執行機関としてその團体の長が任免する一定数の吏員を置くことを規定しておるだけで、雇傭による地方公務員について規定していないけれども、それは地方公共団体の機関を構成するものでないから、また地方自治法に規定せられていないものであつて、その者が吏員の義務執行を補助して公共の利益のため勤務する関係からその団体に対し公法上の服従義務を負うことを否定する充分な根拠とはならない。地方公共団体の長が雇傭による地方公務員に対し職務命令を発することのできるのは地方自治法第一四八條の規定から明らかであつて、あえて任命による補助機関即ち吏員に対する指揮監督に関する同法第一五四條のような明文を要するものではない。そして地方公務員の労働條件である勤務時間を決定することは、地方公務員に対する職務命令を以てこれをすることができるものと解する。
そうすると、抗告人組合員に対する本件動務時間決定の依命通牒は、吏員に対するものと、それ以外の雇員傭員(使丁も含む。)に対するものとを問わず、行政事件訴訟特例法第十條第七項にいわゆる行政庁の処分にあたるものといわなければならない。従つてその行政処分の執行の停止を求めることに帰する本件仮処分申請は不適法としてこれを却下しなければならない。
原決定が本件依命通牒中吏員以外に対する部分は行政処分にあたらないものと判断したのは正当でないが、他の理由に基いてこれを却下した点において結局相当であつて、本件抗告は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり決定する。
(裁判長判事 石神武蔵 判事 大島京一郎 判事 熊野啓五郎)