大判例

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大阪高等裁判所 昭和24年(ラ)53号 決定

一、当事者

抗告人 ○本○助

同 ○藤○し

二、主  文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人等の負担とする。

三、理  由

本件抗告理由は、末尾添附の別紙記載のようであつて、これに対する判断は次の通りである。

抗告理由(一)(イ)について。

本件記録中の各戸籍謄本、及び同抄本によると、被相続人亡○野○郎は昭和二十三年五月十五日死亡したが、同人には法律上配偶者及び子がなく、その近親として弟の抗告人○本○助(○本○弥の養子となり現在は○本氏の戸籍筆頭者)と妹の抗告人○藤○し(○藤○太郎と婚姻し現在○藤氏の戸籍内の一員)の二人があるだけであることが認められるから、抗告人両名は民法第八八九条に従つて右○郎の相続をしたのであつたが、原審における抗告人両名の各審問の結果から、抗告人等が右相続によつて取得した○郎の遺産はすべて不動産であつた所、その後抗告人○ は右不動産に対する共有持分権を放棄したことがわかる。所が抗告人等は○郎はその死亡の三・四日前に祖先の祭祀を主宰すべき者として抗告人○藤○しを指定したと論じ、原審証人○藤○さの証言や右抗告人両名の審問の結果から、右所論事実を肯定できるように見えるが、後示の各証拠に対照すると、これらの証言や審問の結果は当裁判所がにわかに信用の出来ない所で、却つて原審証人○野房○の証言及び申立人○野○かの審問の結果によると、右○野○郎は祭祀主宰者を指定することなく死亡した事実が看取され、他に抗告人等の前記所論事実を認めるだけの証拠がないから、この抗告理由は採用できぬ。

抗告理由(一)(ロ)及び(ハ)について。

抗告人等は前記○野○郎の相続人の一人でその妹である抗告人○藤○しが習慣に従つて、○郎の祭祀の主宰者となつたと論じ、この慣習の根拠として、旧民法が施行されて以来五〇余年間常に家督相続人が祭具等の所有権を取得して祭祀の主宰者となつて居り、法定や指定の家督相続人のない本件の場合に選定家督相続人の資格ある同抗告人が家督相続人に選定され前記の主宰者となることは順位上当然で、このことは旧民法下において例外なく履践され、それ自体が立派な慣習であるというように主張するが、抗告人等が慣習として論ずる所は、これすべて旧民法そのものが適用されたもので、慣習として実行されたのでなく、法律の適用と慣習とははつきり区別されなければならぬ。してみれば、抗告人等所論の慣習があつたものとすることはできず、そればかりでなく、新民法は封建的な家族制度を廃止し個人の尊厳自由等を基礎として制定されたものであるから、この新民法の精神と相容れない戸主中心主義の行われた旧民法時代に若しなんらか抗告人等の所論に副うような慣習があつたとしても、これを祭祀の主宰者を定める慣習として取扱うことは、新民法の立法主旨に逆行することとなるものであつて新民法 慣習に従つて祭祀の主宰者を定める律意は、新民法施行後将来新たに育成される慣習に従わせようとするものであると、解釈するのを相当とする。しかも今の所かような社会慣習の成立を認めるに足りる資料がないから、結局この抗告理由も失当である。

抗告理由(二)一ないし五について、

一見すれば民法第七六九条、第七七一条、条第七四九条、第七五一第二項、第八〇八条第二項、第八一七条等から、祖先の祭祀を主宰すべき者は相続人であるとか、被相続人と親族関係がありかつ氏を同じうすることを必要とするように解せられるようではあるが、決してそうではない。というのは、同法第八九七条第一項は相被続人は祖先の祭祀を主宰すべき者を指定することができ、この指定のあつたときは指定された者は慣習に従つて祭祀の主宰者たるべき者に優先して主宰者となり系譜、祭具等の所有権を承継する旨を定め、同時に被相続人は必らずしも前記の主宰者を相続人や親族で氏を同じうする者の内から指定することを要せず、自由に自分が適当と思う者を指定できるように規定しているからである。思うにこのように規定したのは、被相続人に一人の親族もなく、またたとえ親族があつても信頼するに足りる者がないような場合に、他人の内から適当の者を指定できるようにする必要があるためであろう。それからまた同条第二項の場合に家庭裁判所が主宰者を指定するに当つても、被相続人の前記指定と同様に自由に適当な者を指定することができるようにしたのも、大体前同様の理由によつたのである。そうして見れば、前記民法第七六九条以下の諸規定はひつきよう単に多くの場合祭祀の主宰者が被相続人の相続人や親族で氏を同じうすることを予想したのに過ぎないものと、解釈するのを相当とする。そこで本件での問題は原審が○野○郎の祭祀主宰者として抗告人○藤○しを排して申立人○野○か(旧姓中川)を指定したことの当否だけになる。それで本件記録中の右申立人の戸籍謄本、原審証人○野房○、○野○子、○野○か(右申立人は抗告人両名との関係で証人として尋問された)の各証言から、申立人は大正一二年三月頃○野○郎と事実上婚姻し二○余年間も同棲して来たので世間ではこの二人が夫婦であることを疑う者が一人もなかつたこと、右○郎及び申立人は昭和二〇年一〇月二六日頃申立人の孫に当る○田○子と事実上養子縁組を結び、三人が事実上の親子として円満に暮して来たが、申立人が単身戸主で手続が面倒であつたため婚姻届を怠り、また○子との養子縁組届も前述の婚姻届出後にする積りで放任中右○郎が死亡したこと、かようなわけで○郎と申立人とは深い関係があるので、申立人は○郎並びにその祖先の祭祀を主宰することを切望し、この目的のために原裁判所の許可を得てその氏を○野と変更し、また○郎の遺志を貫行して申立人及び右○子から昭和二四年四月六日養子縁組の届出があつたことが認められる。そうしてみれば、単に○郎や申立人の不注意から正式の婚姻届を怠つたというだけで,不幸にして申立人が法律上○郎の配偶者となることができなかつたため、抗告人両名に前記のように○郎の遺産を相続されるという憂き目に会つたことは、法律上まことに止むを得ない結果とはいえ、大いに○郎の素志に反するものといわなければならぬと共に、原審が同人及び祖先の祭祀を主宰しようとして○野と氏を変更までした申立人を右祭祀の主宰者に指定したのは、○郎の遺志に合致した適切の処置といふべく、これがために抗告人○藤○しの右主宰者指定の審判申請を却下したのもまた止むを得ない所であるといわなければならないから、結局この抗告理由も排斥を免れない。

よつて本件抗告は理由がないので、これを棄却すべきものと認め、抗告費用を抗告人等の負担と定め、主文の通り決定する次第である。

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