大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和25年(う)2614号 判決

刑法第百九十七条の收賄罪は公務員又は仲裁人がその職務に関し賄賂を收受したときに成立し、所論官吏服務規律の規定は刑法收賄罪の例外をなすものではない。換言すれば同規定は收賄罪を構成すべき行為を排斥して服務規律違背に止まるものとなすものでないのである。すなわち、公務員がその職務に関し他人よりその生活上の欲望を満足せしむるに足る利益を受くるもその利益が社交的儀礼の範囲をでない部類のもの例えば一般慣習上承認された感謝、記念、表彰等のための贈物又は季節の見舞、挨拶等のための贈与であれば、これを目して賄賂とは言えないけれども、服務規律の関係からすればかような授受でもゆるがせにできないものがあるから所論服務規律はたとえ儀礼的利益で賄賂と言えないものでも之を受けるには指揮監督者の許可を必要とし、その受ける利益が社交的儀礼の範囲に属しないときはたとえ指揮監督者の許可があつても、賄賂すなわち違法の報酬たるを免れないのである。改正前の刑法第百九十八条には法文中に「職務に関し」と言う字句のなかつたことは所論の通りであるけれども、賄賂供与罪と賄賂收受罪とは相表裏しいわゆる必要的共犯に属するから、特にその字句の明示なくとも、贈賄罪についてもその職務に関することを要するものと解すべく、贈賄罪の成否について職務行為に対する違法の利益の供与あれば足りそれ以外に何等他の条件殊に所論のような動機の存在を必要としないのである。原判決認定の事実によれば「被告人は三田税務署直税課所得税係の今村和昭に対し同人の借金申込を拒絶すれば同人の感情を害し、自己の所得税の調査決定について不利益な取扱を受けるものと考えこれを承諾し現金三万円を貸与した」と言うのであつて、右事実は原判決引用の証拠を綜合してこれを肯認するに足り、明らかに職務行為に対する違法の利益の供与に該当するのである。そしてその職務行為は現に執行し得るものなることを要せず、公務員がその地位において将来執行することがあるべきものなれば足るのであるから、所論のように現金貸与当時今村和昭が被告人の昭和二十三年度更正決定異議申立の調査担当員でなかつたとしても犯罪の成否には少しも関係はない。しかも証人吉田高雄の証言及び被告人今村和昭同喜多良治の供述によれば「所得税係のなかではその対象業者によつてそれぞれ係はあつたけれども永続的のものではなく、時々調査の便宜上変更もあるし、係員はどの業者でも随時調査する職務権限があつて、お互に執務の都合上手伝い合う」と言うのであるから、今村和昭の職務行為に関係はないとか犯意がないとか主張する所論は当らない。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!