大阪高等裁判所 昭和25年(う)2737号 判決
有罪判決において当事者の主張に対する判断を示さなければならない場合については刑事訴訟法第三三五条第二項に明定しているところであつて、法律上犯罪の成立を妨げる理由又は刑の加重減免の理由となる事実に関するものに限るのである。それ故、告発が無効であるから公訴を棄却すべきものであるとの主張はこれに該当しないからたとい原審において所論のような弁護人の主張があつたとしても、原判決においてこれに対する判断を示すことを要しないこと勿論である。従つて、原判決には所論のように理由を附しないという違法がない。論旨は理由がない。
同第二点について。
刑事訴訟法第三三五条第一項は明文の示すごとく有罪の判決には罪となるべき事実、証拠の標目及び法令の適用を示せばよいのであつて、情状により懲役及び罰金を併科すべき場合においてもその理由を示すことを要しないばかりでなく、たとい原審において弁護人から両者を併科する情状がない旨の主張があつたとしても、これに対する判断を示すことを要しないことは前論旨について説示するところにより明らかである。殊に原判決は「諸般の情状に鑑み懲役刑を併科するを相当と認め」と記載し両者を併科するにつきその理由を示しているのであるから、原判決には所論のように理由を附さないという違法がない。本論旨も理由がない。
同第三点乃至第七点について。
論旨は結局本件は告発を俟つて論ずべきものであるところ、本件告発は無効であるから訴訟条件を欠いているにもかかわらず原審が公訴棄却の判決をなさずに有罪の判決をなしたのは不法に公訴を受理した違法があるということに帰するのである。そこで、本件告発が無効であるかどうかについて審究するに、原審において証拠として取調べた城東税務署長大蔵事務官菊川肇の被告人に対する昭和二四年一一月二八日附大阪地方検察庁検事宛告発書によれば「現在本人の居所一定せず且出頭通知にも応ぜざるを以て本人に対する調査は困難であり更に本人は国税犯則取締法第一四条第一項による通知処分に対する履行すべき資力なきものと認められるにより同法第一七条第一項により告発」するとの記載があつて、告発の根拠法条として国税犯則取締法第一七条第一項(当時施行の同法は昭和二五年三月三一日法律第七七号による改正前のものである。)を掲げているが、同法条は犯則者が通告を受けた日から七日以内にこれを履行しないときは国税局長又は税務署長は告発の手続をなすべき旨定めているところ、原審第三回公判調書中証人菊川肇(第一回)の供述記載によれば被告人に対しては通告処分に附していないことが明らかであるから、本件告発の根拠法条として前記法条を掲げたのは誤であるといわねばならない。しかし、前示記載によればその告発の理由として同法第一四条第一項による通告処分に対する履行すべき資力がないこと及び現在本人の居所一定せず且つ出頭通知にも応じないことを掲げているから、本件は同法第一四条第二項及び第一七条第二項による告発と認めるのを相当とするとともに原審第四回公判調書中証人菊川肇(第二回)の供述記載によつてもこれを認め得るのである。そして、告発は元来捜査機関に対する犯罪事実の申告であつてその形式が法定されていないから必ずしも告発の根拠法条を掲げることを要せずただ告発の根拠が判明する程度にその理由が記載されておれば有効であると解しなければならない。従つて、前記告発書により右両法条に基き本件告発がなされたものであることが認められる以上たといその根拠法条の記載に前記のような誤があつても、本件告発はその効力に影響なく有効であるといわねばならない。
所論は同法第一七条第二項の告発は税務署の收税官吏が犯則事件の調査を終えこれを税務署長に報告した後において犯則者の居所が分明でないため通告することができないときに為されるべきものであるが本件については初めから犯則事件の調査をしていないから、同法条による告発は違法であるというのであるが、原審第四回公判調書中証人榎本昌博の供述記載によれば本人につき取調をしていないが妻その他の者につき取調べ調査を終えた上税務署長に報告したことが明らかであるから、同法条による告発は適法であるといわねばならない。
また所論は同法第一七条第二項による告発は通告の旨を履行する資力があると認められる犯則者についてその居所が分明でないため通告することができない場合に為されるべきものであり、同法第一四条による告発は犯則者が通告の旨を履行するの資力なしと認められる場合に為されるべきものであつて、両法条は同時に適用できないというのであるが、同法第一七条第二項は必ずしも通告の旨を履行する資力があると認められる犯則者についてのみ適用あるものでなく、その資力がないと認められる犯則者についても適用しなければならないから、両法条の条件が具備されるかぎり両法条を根拠として告発しても適法であるといわねばならない。更に所論は原判決は弁護人の本件告発が無効であるとの主張を誤解してその判断を示し又はその主張につき判断を示さなかつたのは法令の適用を誤つたものであるというのであるが判決にはこれらの点について判断を示すことを要しないことは論旨第一点について説示したとおりであつて、たとい弁護人所論のとおりその主張を誤解して判断を示し又はその主張につき判断を示さなかつたとしても、原判決には所論のような法令の適用を誤つた違法はないものといわねばならない。従つて論旨はいずれも理由がない。