大判例

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大阪高等裁判所 昭和25年(う)2867号 判決

論旨はいずれも証拠不十分ないしは事実誤認を主張する。よつて案ずるに恐喝罪は不法に人をして畏怖せしむるに足るべき害悪を告示し因て財物を交付せしめたときに成立し、その手段方法が言語挙動たると明示たると黙示たるとを問わないけれども、その内容として財物交付の要求を含み若しこれを容れないときは不当な利益を醸される危険あるべしとの念を抱かしめるものでなければならない。

ところで原判決(一)の事実についてはその判示にも見える通り「昭和二十四年十一月中旬頃暗に西脇高等学校(校長久保勝太郞)の運営を非難攻撃した記事を掲載した同月八日附新聞紙一枚を示しこのような記事があるが自分は配布しない旨申向け」と明示しているのであつて、「配布しない」との言は、その日附の関係と本件記録にあらわれた証拠を綜合すると到在反語すなわち財物を交付しなければ配付するとの暗示とは解し難く被告人の言葉通りに理解すべきであつて法の要求する「害悪の告知」に該当しないのである。それゆえに料亭おひろにおける酒肴の提供は証人久保勝太郞同森下実の証言の中にも散見されるように被告人が自発的に採つてあつた新聞を配布しない措置に対する謝礼と見るの外はないのである。

原判決(二)(三)の事実については証拠によれば本件はもともと杉原谷村農業協同組合関係者が被告人に対し同組合専務理事足立宗太郞等に係る食糧管理法違反被疑事件の記事中止方を懇請したことに端を発したものであつて、被告人は判示のように一月二十七日夜料亭丸喜こと高瀬きぬ方において関係者に新聞紙を示したことはなく、二十八日午前二時頃足立宗太郞と親戚関係にある徳岡寿に対し依頼の記事中止を確約した後同日午前十時頃関係者の求めに応じて再度丸喜に出向いた際判示の記事を掲載した新聞紙を示したにすぎないのである。原判決は「副組合長松岡茂平及徳岡寿外二名と会見し同人等に新聞を示し同人等からその配布中止方懇請されるやこれが確答を与えず暗に金品を要求し」と判示し新聞紙を示したことは前に説明した通りであるけれどもそれは既に配布中止確約後のことに関し、新聞紙を示したこと自体が害恵の通知とは到底認められないのである。その他証拠の内容を検討しても法の要求する害悪の通知に該当する事実は一も発見されない。

本件において動かすべからざる事実として認めうる所即ち被告人が一旦掲載した新聞記事の報道を関係者の懇請を容れて易く中止し、その後においてこれに対する謝礼を受けたが如きことは公明正大なるべき新聞道からいえば大いに非難さるべき行為である。苟も他人の名誉や信用を害するに至るが如き記事を掲載するに当つては、たとえその記事が真実に符合するものであるにしても、広く一般に報道する価値あるものでなければならない。関係者から頼まれれば易く報道を中止するが如き記事を掲載することは新聞の自主性を欠き、社会の公器としての責任を解しないものである。之を反面からいえば、斯る自主性のない記事を徒らに掲載することは、新聞業者がその職業を背景として当初から金品を提供せしめる手段として作為しているのではないかとの疑惑を受ける虞が少くない。それゆえにかような行為を重ねていれば、疑惑が確信にまで高められることがあり得るのである。しかしながら刑法上、恐喝罪が成立するためには害悪告知の行為即ち相手方が金品を提供しなければ広く報道すべしという通告と認められる被告人の行為が必要である。本件においては既に説明した通りこれを認めるに足る証拠が備つていないから原判決は要するに証拠に基ずかないで事実を認定した違法があつて破棄を免れない。論旨は理由がある。

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