大阪高等裁判所 昭和25年(う)3112号 判決
弁護人はいずれも原判決には事実の誤認があり且つ量刑が不当であると主張する。
そこで原判決挙示の証拠によつて原判決確定の本件強盜殺人未遂の事実が認められるか否かについて検討するに、被告人は検察官の供述調書において本件被害者角谷美代子を殺害して金品を強奪する意思で本件犯行に及んだと自供しているのである。しかし被告人が本件犯行に使用した菜切庖丁はいたく古びた上に歯こぼれ甚だしく通常の菜切庖丁としてもその効用が果せない程度のものであり、島本医師の診断書によれば角谷美代子の受けた傷痕は顏面頭部左右手背切創で余り鋭利ならざる刄渡二十糎位の刄器によると記載され同女の供述によると被害者と被告人は極めて親密な間柄であること、本件犯行前後被告人は少しも金品の要求を推認できる行動をとつていないことが認められる。従つて被告人の右自供は真実に合するものと認め難い。その他原判決挙示の証拠によつては到底、被告人の強盜の意思や殺害の意思を推認するに足る証拠が発見できない。然るに原判決が被告人の行為をもつて強盜殺人未遂に問擬したのは事実の誤認であつて本件は単純な傷害罪をもつて処断すべき案件である。それ故に原審の科刑の不当なるは論を待たない。