大判例

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大阪高等裁判所 昭和25年(ツ)5号 判決

上告人 北田騰藏

被上告人 白田久三郎

一、主  文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

二、理  由

本件上告理由は末尾に添えた上告理由書と題する書面に記載したとおりであつて、これに対する当裁判所の判断は次のとおりである。

上告理由第一点について、

弁護士増永義一は被上告人の訴訟代理人として昭和二三年一〇月一日本訴を提起し爾來昭和二四年九月一〇日辞任するまで第一、第二審を通じて訴訟行爲を遂行して來たものであるが、当裁判所が眞正に成立したものと認める本件上告理由書添附の証明書によれば同弁護士はこれよりさき右京簡易裁判所の判事として在職中被上告人から上告人を相手方として申し立てた本件家屋の明渡請求調停事件に関し調停主任判事としてこれに関與したものであることが明白であるから、被上告人が第一、第二審において本訴につき同弁護士に対して爲した訴訟委任は旧弁護士法第二四条に牴触しその効力のないことは上告人所論のとおりであつて同弁護士の爲した訴訟行爲は何れも無権代理行爲であるが、原審における昭和二四年一二月二〇日の最終口頭弁論期日には被上告人から本訴について訴訟委任を受けた清水兼次郎が出頭した上、被上告人も被控訴本人としての呼出に應じ被控訴本人としての尋問に答えていることは本件記録上明白であるから被上告人及び同訴訟代理人清水兼次郎は從來弁護士増永義一が被上告人の訴訟代理人としてなした訴訟行爲を暗黙のうちに追認したものと認められるので同弁護士の爲した訴訟行爲にもとずいて爲された原判決は結局相当であり、原判決には上告人所論の如き違法がないので論旨はその理由がない。

上告理由第二点について、

借家法第一條ノ二にいわゆる正当の事由があるとして賃貸借解約の申入をした場合、右解約の意思表示は必しも常にその全部が有効であるか又は無効でなければならないものではなく、賃貸借の目的である家屋が可分であつて、解約申入当時における諸般の事情を斟酌し、解約申入の効果が家屋の一部分だけについて生じ、全部について生じなくともなおその申入をする意思があつたと認められる場合には正当事由の如何によつては家屋の一部分についてのみ解約の効力を認めて他の部分についてその効力を認めなくとも妨げなく、本件が右の場合にあたることは原判文上明白であるから原判決には解約申入に関する法律の解釈を誤つた違法がないので、論旨はその理由がない。

よつて民事訴訟法第四〇一條、第九五條、第八九條に從い主文のとおり判決したのである。

(裁判官 大嶋京一郎 林平八郎 大田外一)

(上告理由書)

第一点

弁護士は、公務員として職務上取扱つた事件について、その職務を行つてはならないことは弁護士法の明定するところである。(弁護士法第二十五條、旧弁護士法第二十四條)而してこの禁止規定は訴訟当事者その他当事者の利益保護の目的を有すると同時に又弁護士をして誠実にその職務を行はしめその風紀を維持し品位を潰すことのないよう且つ公務員の信用保持の爲め定められたものであるから、たとえ現実にその虞がないような場合でも絶対に之が委任を受けてその職務を行うことができないものといわなければならない。

しかるに本件被上告人の訴訟代理人として上告人に対する本件訴訟を提起し、爾來第一、二審を通じ之が代理人として訴訟行爲を遂行されてきた弁護士増永義一氏は前右京簡易裁判所判事として被上告人が本訴に曩ち上告人を相手方として爲した本件家屋の明渡請求借家調停事件(右京簡易裁判所昭和二二年(ユ)第一六号事件)に関し、その調停主任判事として数度に亘る調停委員会に出席し終始之に関與せられた方なのである。(別紙添附の証明書<省略>御参照)

從つて、右増永弁護士の爲した前記職務行爲は前示法條に牴触するものであるから同弁護士に対する被上告人の授権行爲は当然に無効であり、その訴訟代理人として爲した訴訟行為に基いて爲された原判決及び第一審判決は法令に違背したものとして破毀せらるべきであり、かつ終局的に被上告人の本訴は却下せらるべきと思料する次第である。大審院民事判例集一三巻二二三六頁御参照(昭和九年(オ)第一〇一〇号同年十二月二二日第四民事部判決)

第二点

原判決は本件賃貸借は被上告人の爲した解約申入によつて上告人に一部の讓歩を爲さしめることが相当であるからその限度に於て解約の正当性が生じ一部の解約が効力を生ずる旨判示し被上告人の請求を認容した。

しかしながら本件賃貸借はその目的家屋全部を特定して爲された一個の契約に基くものであり契約当事者間に於て当初から可分的には考えていなかつたものであること勿論である。又客観的に一個の建物を目的とし階上と階下に分けて契約されたものと考えられないところである。蓋し本件家屋は一個の住宅で上告人は居住の爲めにのみ賃借しているものであるから素より炊事場、便所玄関等すべて單一でその所定の資料もその全体を一個として契約されているものであるし、分割せらるゝ余地のないものであるからである。

從つてこの一個の特定物を目的とする賃貸借に於ては物理上又は社会的には分割可能であるとしても法律的にはその一部が存続し又はその一部が終了する場合は当事者の格別の意思表示による合意が爲されない限りあり得ないのではないか、殊に解約申入によつて一部終了したという考え方は解約申入という法律上の性質をどのように解釈して判断するのであるか不可解であると信ずる。

要するに原判決は法律的な判断でなく政治的な又は強制調停的な判断であつて、却つて法律生活を混乱に陥らしめるものというの外なく破毀さるべきものと思料する次第である。

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