大阪高等裁判所 昭和25年(ネ)109号 判決
控訴人指定代理人は主文と同旨の判決を、また被控訴代理人は本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。との判決を各求めた。
当事者双方の事実上の主張は、被控訴代理人の方において、原判決摘示の事実中第四の事実として主張した「本件買收計画は本件宅地の面積よりも多い公簿上の面積によつて樹立せられているが、かくては買收地が隣接の第三者の所有地にまでおよぶ不当な結果となる」との部分を撤回すると申立てた外は原判決摘示の事実と同一であるからここにこれを引用する。(立証省略)
三、理 由
控訴人は本案前の抗弁として本件買收計画の取消を求める訴はその処分廳である河瀬村農地委員会を相手方として提訴すべきものであるから却下せらるべきものであると主張するので、先ずこの点につき考えてみるに、行政処分の変更または取消を求める訴については、その行政処分をした行政廳を被告として提訴し得る旨規定されておる。しかしこれは処分の適應性を爭われるこの種の訴訟では当該処分をした行政廳に訴訟を実施させることが最も便宜でありかつ妥当であるとの趣旨からこのように規定されたものと解する。さすれば本件のように河瀬村農地委員会においてした買收計画の樹立、被控訴人よりの異議申立、これに対する異議却下決定、更に控訴人に対し訴願並びに同訴願棄却の裁決と一連の関連があり、このようにして裁決廳たる控訴人が原処分の内容を実体的に判断している限り裁決廳を相手方として裁決の取消を求める訴を提訴し、これと共にその裁決の基礎となつた先行処分である買收計画の取消をも併せ求めることを許したからといつて毫も不都合はなく却つて訴訟経済に沿う所以でもあるから何ら不適法ではない。從つて控訴人の右抗弁は採用することができない。よつて進んで本案について審究するに被控訴人所有の滋賀縣犬上郡河瀬村大字廣野字藪ノ下一〇七番地宅地五二坪六合四勺について昭和二四年一月二一日河瀬村農地委員会が訴外北川吉次郎の申請により自作農創設特別措置法(以下自作法と略称す)第一五條第一項第二号にもとずいて買收計画を樹立し、これに対し被控訴人は同月二四日右農地委員会に対し異議を申立てたところ、これが却下せられたので同月二七日控訴人に対し訴願したが控訴人は同年三月一日右訴願を棄却する裁決を爲したことはいずれも当事者間に爭いのないところである。そこで以下順次訴外人北川吉次郎が自作法第三條の規定によつて政府の買收した農地について自作農となつたかどうか、及び本件宅地が自作法第一五條第一項第二号の宅地にあたるかどうかなおかつ右買收計画樹立当時被控訴人が右宅地に対して賃借権を有していたかどうかを判断する。成立に爭いのない乙第一、七号証原審並びに当審証人北川吉次郎各証言及び当審における檢証の結果をまとめ合わせて見ると訴外人北川吉次郎は古くから農業を主たる收入として生活をして居る者であるが同人は本件宅地に対する買收計画以前すでに自作法にもとずく買收農地である彦根市西今町上郷市三番田一反一畝五歩の賣渡を受けた者であること、そして同訴外人は元滋賀縣犬上郡河瀬村大字廣野字横道ノ下一九番地ノ四に居住していたが同人は家族が多いのに家が狹くて農業経営に困つていたやさき昭和一三年五月頃被控訴人より本件の宅地並びにその地上の家屋および隣地の一〇八番地の土地を一括して代金一、〇〇〇円で買うてくれと申入があつた。ところが当時同訴外人は手許不如意で右土地家屋を買入れるだけの資力がないので本件宅地上に在る家屋だけを代金二五〇円で買取り、それ以來同人は右買入れた家屋に移り住みそれまで同人が居住していた前記家屋をその敷地と共に長男に贈與し長男等夫婦子供等が住むことにしたのであるが昭和一三年五月十二日被控訴人との間において本件宅地と隣地の一〇八番地の土地は一括して賃料一ケ年金三円と定め建物所有の目的を以て十年間賃借することを約したのであること、(されば被控訴人と右訴外人間の右賃貸借は借地法第一七條によつて右訴外人の申請により本件宅地について河瀬村農地委員会が買收計画樹立した当時なお存続していたものといわねばならない。)しかして同訴外人は本件宅地上に在る家屋を所有しこれに居住しているばかりでなくその收穫物農具等の收納などに使用していること等はいづれも容易に認められるところであるから本件宅地は右訴外人の農業経営について必要なものというべく從つて自作法第一五條第一項第二号により買收し得べきものであることは論をまたないところである。(昭和二五年七月一三日最高裁判所判決参照)
また甲第一号証及び原審証人柏原佐次平(第一、二回)の証言並びに原審当審における証人柏原一男の証言と同被控訴人に対する尋問の結果中前示認定に反する部分は前掲各証拠と対照比較して容易に信用することができない。然らば本件宅地について河瀬村農地委員会のなした買收計画並びに控訴人のなした裁決はいずれも正当であつて何ら違法の点はないのであるから、これが取消を求める被控訴人の本訴請求は理由なく從つてこれを認容した原判決は不当であるから本件控訴はその理由がある、よつて民事訴訟法第三八六條第八九條第九六條により主文の通り判決する。
(裁判官 大野美稲 松本左右一 福本一)