大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和25年(ネ)221号 判決

当事者双方の事実上の主張は、原判決事実摘示のとおりであるからここに、これを引用する。

(疎明省略)

四、理  由

被控訴人等が控訴人の職員であつたこと、及び控訴人が昭和二十四年七月十五日附で被控訴人等を定員法により免職するとの理由で解雇したことは当事者間に争がない。

第一、よつて、先づ、右免職が行政処分、又は行政処分に準ずるものであるか、否か、について考える。

(一)、国鉄は行政機関ではないか。

国鉄が所謂、公共企業体に属することについては、当事者の間で争がない。しかし、元来公共企業体の法律上の性格が行政機関であるか、或いは、株式会社と異ならない性格を持つかについては、その発達の経過から見ても、これを一般的に明確にすることは困難であつて、結局は、各個の企業体について、個別的に判定するの外はないものである。

そこで、国鉄について見れば、国鉄法第一、二条に明らかなように国鉄は、従来、国家の行政機関によつて経営されて来た、鉄道事業、その他一切の事業を経営して、能率的な運営により、これを発展せしめ、もつて、公共の福祉を増進することを目的として、設立せられた公法人であり、国家行政組織法第三条所定の行政機関に包含せられず、又、国鉄法第三十六条が、特に、国鉄の会計及び財務に関しては、国鉄を国の行政機関とみなす旨を規定している点から考えて見ても、国鉄は、本質上行政機関の性格を有しないものと見るべきであろう。もつとも、国鉄法は国鉄の公益性確保、或は、その経営、会計における国家の後見的立場から、監督の必要上、国鉄をして内閣の任命した監理委員会の指導、統制に服せしめ(第九条)、総裁は内閣が任命し(第二十条)、予算は国会の審議を必要とし(第三十八条)、会計は会計検査院が検査し(第五十一条)、運輸大臣の監督に服する(第五十二条)旨を規定しているが、これは国家、又は政府の監督支配が、相当強いことを示すだけであつて、これがため、国鉄が行政機関たる性格を有するものということはできない。

なお、又国鉄法第六十三条によれば、道路運送法、電気事業法、土地収用法等の適用については、国鉄を国の行政機関に準ずるものとして取扱つているが、これも公益性確保の必要性から、特定の場合に限つて、このような取扱がなされるのであつて、このため、国鉄が一般的に行政機関に準じて取扱はるべきでないことはその設立の沿革から見ても明らかなところである。

(二)、国鉄とその職員の関係について、国鉄は行政機関に準ずる取扱いを受けないか。

国鉄の法的性格が行政機関でなく、又、国鉄が、特定の場合を除いて、一般的に行政機関として取扱わるべきでないことは、前に説明したとおりである。そこで、国鉄とその職員との労働関係はどうであるか、この点について、国鉄法に別段国鉄を行政機関に準じて取扱うべきか否かについて明示をしていないのであるからもつぱら、理論によつて、国鉄とその職員との関係が私法的な、対等、自治の関係にあるか、或は、公法的な、上下服従の関係にあるか、を検討して、これを判定するの外はない。すなわち、国鉄の職員には、公共企業体労働関係法が適用されることになつており、国家公務員法はその適用はない(国鉄法第三十四条)から国鉄職員は団体交渉権や懲戒任免、その他地位の異動等について一般国家公務員とは著しくその立場を異にし、又、国鉄とその職員との間における紛争解決の方法についても、調停、仲裁の制度が設けられている(公労法第十九条ないし第三十七条)のに対し国家公務員は、懲戒、降任、免職、休職、等の処分については人事院に審査を請求する手続がみとめられ(国家公務員法第九十条第九十三条)ているに過ぎず、その間、大きな相違があつて、国鉄職員の場合は、むしろ私企業の労働関係に適用される労働関係調整法の定める調停、及び仲裁制度に近似し、当事者対等を基本理念としているものと見ることができる。そして、国鉄職員が罰則の適用、その他職務の執行に当つて、法令により公務に従事するものとみなされ(国鉄法第三十四条)ていることや、又、恩給法(国鉄法第五十六条)、国家公務員共済組合法(国鉄法第五十七条)、健康保険法(国鉄法第五十九条)等の準用について単に便宜的技術的理由から、国鉄職員が国に使用されるものとみなされ、国鉄が行政庁とみなされる旨の規定の存することなどは、何も、国鉄とその職員との間の一般的関係を私法関係と認めることについて、少しも妨げとなるものではない。

要するに、国鉄と、その職員との関係は一般的には上下服従の権力関係にある公法関係と見るよりは、むしろ、当事者対等私的自治の原理を根幹とする私法関係と見るべきであつて、公法よりも私法の支配を受けるものといわねばならない。

(三)、次に定員法による国鉄職員の免職は私法関係と見るべきかどうかを考えて見よう。

定員法の目的が国家の公権力を発動させて職員の免職を実施するにあることは明らかなところであるが、国鉄とその職員の関係が、前説明のように私法関係だとすると、定員法は、つまり、国家が、公益上の理由、或は、後見的立場から、私法関係に対し、制限干渉を行うたものと言うことができよう。そして、このような制限や干渉に従つてなされた行為が、公法上の行為となるか、又は、私法上の行為となるかは、専ら私法関係を制限した法律の規定内容から判断さるべきものであつて、若し、定員法が単に国鉄とその職員間の人員整理に関する法律行為の、要件、効力等について、私法の規定を一部変更するだけで、別段、当事者の対等な地位や私的自治の関係を破らないものだとすれば、定員法は国鉄とその職員との一般的私法関係に影響なく、従つて、定員法による免職が私法行為と見られるのは当然であるが、反対に若し、定員法の規定が国鉄総裁に人員整理についての公権力(行政権)を賦与し、その結果、国鉄側が一方的に優越、且つ、有利な地位に、又職員側が従属且つ不利な地位に、それぞれ立ち、そして、もはや、私法関係の特色である当事者対等、自治の観念を容れる余地がなくなつたものとすれば、その範囲において、その法律関係は私法関係から権利服従の公法関係に転化せられたものと言はねばならない。そこで、定員法の規定の内容を検討する必要が生ずるのであるが、定員法附則第七項、ないし、第九項によると、国鉄総裁は整理を実施する場合においては、その職員を、その意に反して降職し、又は免職することができるし、又、この場合には、その免職に関し公労法第八条第二項で認められた団体交渉も許されず、同法第十九条に定める苦情処理共同調整会議に苦情を申出ることを許されないので、全く、一方的に免降職することができこれに対し、行政上の不服申立の余地も与へられておらず、この点、全く国家公務員の場合と同一であつて、この事と、この法律制定の趣旨、及び、立法当時の経過を綜合して考えると、定員法は、単に私法上の行為について、その要件効力等を一部変更したものと見るよりは、むしろ、国鉄総裁に人員整理についての公権力(行政権)を賦与し、これが発動によつて、整理を実施し、職員側に忍従を強いたもので、その範囲において、本来の私法関係は上下服従の公法関係に転化せしめられたものと解するのが相当と考える。

すなわち、定員法による国鉄職員の整理に関する限り、国鉄総裁はこれを行政庁に準じて考え総裁の定員法に基く免職行為を、行政処分と見ることができるのであるから、申請人等に対する本件免職行為は、いわゆる、公法上の行為として取扱はるべきものといわねばならない。

第二、被控訴人等は国鉄の職員に対しては定員法の適用はないと主張しているが定員法附則第七項ないし第九項は、国鉄職員の定員を定め、昭和二十四年九月三十日までに所定人員を超過する人員の整理さるべきこと及びその整理に際して、国鉄総裁は職員の意思に反して免降職することができること、及び、公労法第八条第二項、第十九条の適用を排除することを規定したものであつて、国家が後見的、又は監督的立場から、公共企業体の職員の定員を定め、過剰人員を整理すべき旨を法律で定めることは、別段公共企業体の本質と相容れないものではなく、従つて国鉄法と定員法は何ら矛盾するところはないのみならず、他に定員法の適用を排除すべき特段の理由も見当らないから、国鉄総裁が定員法を適用して、被控訴人等を免職したことは、何ら適用すべからざる法律を適用したものということはできないのみならず、公共福祉のため必要があるものとして定員法を直接国鉄職員に適用せしめたからといつて右定員法が憲法に違反するものとも言えない。

第三、被控訴人等は国鉄が被控訴人等を免職したのは、単に、名を定員法に籍りたもので、実質的には公労法第五条に違反する不当労働行為である、と主張するのでこの点を考察する。

成立に争のない疏甲第一号証、真正に成立したと推認せられる疏乙第二号証の一、二、成立に争のない同第三号証の一、二、同第四号証同第五号証、原審証人山岡吉一、同小宇羅友一の証言を考え合せると、国鉄総裁は定員法による国鉄職員の整理を実施するに当り昭和二十四年七月一日にその有する任免の権限を一時各所属長に委任すると共に、同月九日国鉄職員の降職及び免職の基準を定めこれによつて免職せられるべき職員の選定を行わしめた上、同月中旬に至り、被控訴人等及び、その他の被選者に対し、それぞれ定員法により免職する旨を告知し、或はその旨を記載した辞令を交付して免職を行つた事実が推認できる、そしてこの事実と、定員法による免職が他の理由に基く免職に比べて、はるかに、簡易迅速に結果を得らるる手続であつたことから考えると、本件免職は一応定員法によつて免職が行われた事実を推認することができる。

従つて、被控訴人等に対する本件免職が被控訴人等主張のように組合活動をしたことが真実の理由で定員法は単に籍口した理由に過ぎないか否か、又は被控訴人等の右組合活動が正当な範囲を逸脱したものであるかどうか、或は被控訴人等が果して定員法による整理の基準である国鉄の運営について非協力であつたか、否か等については、仮りに被控訴人等主張のような事実があつたとしても前叙のように定員法による解雇が行政処分として取扱わるべきである以上被控訴人等に対する本件免職については、これを私法上の行為としてこれが無効確認を訴求することは許されずその違法は行政処分に対する不服事件として出訴せられるべきであり、又判決前の仮の処置についても、それが行政行為の無効を主張する場合であると、或はその取消を主張する場合であるとを問わず、行政事件訴訟特例法第十条第二項により、処分の執行停止を求むべく、民事訴訟としての仮処分命令を求むることは、同法第十条第七項によつて、出来ないものと解する。

よつて本件仮処分申請はこの点において失当であつて却下を免れないので右と異なる原判決を取消し本件仮処分申請を却下すべく民事訴訟法第三百八十六条、第八十九条及び第七百五十六条ノ二によつて主文のとおり判決する。

(裁判官 大嶋京一郎 林平八郎 大田外一)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!