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大阪高等裁判所 昭和25年(ネ)24号 判決

控訴人秋岡末吉が被控訴人に対し奈良県山辺郡丹波市町字三島一一八番地上家屋番号三島一八二番木造瓦葺二階建住宅一棟建坪十七坪一合、二階坪十二坪五合四勺を明け渡すことを命ずる。

控訴人桝谷清太郎が被控訴人に対し右家屋を明け渡し、且つ昭和二十四年四月二十日から同年五月三十一日まで一ケ月金百六円二十五銭、同年六月一日から昭和二十五年七月三十一日まで一ケ月金百七十円、同年八月一日から右家屋明渡済まで一ケ月金四百二十五円の割合による金員を支払うことを命ずる。

控訴人桝谷清太郎の被控訴人に対する反訴請求中金四千二百五十円の支払を求める部分を除き、その余の請求を棄却する。

訴訟費用は、第一、二審とも、本訴に関するものは控訴人両名の負担とし、反訴に関するものの内金五十円は被控訴人の負担としその他のものは控訴人桝谷清太郎の負担とする。

本判決主文第二項は、被控訴人において控訴人秋岡末吉に対し金一万円の担保を供するときは、仮にこれを執行することができ、同主文第三項は被控訴人において控訴人桝谷清太郎に対し、家屋明渡の部分について金一万円、金員支払の部分について金五千円の担保を供するときは、仮にこれを執行することができる。

二、事  実

控訴人は「原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。被控訴人の本訴請求を棄却する。被控訴人が控訴人桝谷清太郎に対し金十一万四千二百八十二円を支払うことを命ずる。同控訴人が右金員の支払を受けるまで本件家屋を留置することができる。」との判決を求め、被控訴人は「原判決主文第一、二項を次のとおり変更する。控訴人秋岡末吉が被控訴人に対し奈良県山辺郡丹波市町字三島一一八番地上家屋番号三島一八二番木造瓦葺二階建住宅一棟建坪十七坪一合、二階坪十二坪五合四勺を明け渡すことを命ずる。控訴人桝谷清太郎が被控訴人に対し右家屋を明け渡し、且つ昭和二十四年四月二十日から同年五月三十一日まで一ケ月金百六円二十五銭、同年六月一日から昭和二十五年七月三十一日まで一ケ月金百七十円、同年八月一日から右家屋明渡済まで一ケ月金四百二十五円の割合による金員を支払うことを命ずる。その他本件控訴を棄却する」との判決を求めた。

当事者双方の主張は、被控訴人の方で、本件家屋所在の地番が区画整理の完了により変更せられ、本件家屋の建坪の表示に誤りがあつたからこれを訂正する。なお請求の趣旨を拡張し、昭和二十五年八月一日から右家屋明渡済までの損害金として一ケ月金四百二十五円の割合による金員の支払を求めると述べ、

控訴人の方で、本件家屋が被控訴人の所有であつて、その所在地及び建坪が被控訴人主張のとおりであること、控訴人秋岡末吉が右家屋全部を占有し、控訴人桝谷清太郎が右家屋の一階全部と二階東側二室を占有していることを認めるが二階西側二室を占有していない。原判決添付明細表造作費欄(12)竃新設は有益費と訂正する。同造作費欄(7) 硝子二八〇平方尺及び切込代の支出額、増加額をいずれも九千四百十一円四十銭と訂正する。同造作費欄(3) 古畳上敷付二一枚、同(8) 畳二五枚の廻縁工賃は、本件家屋内の総畳数は二十八畳半あるが、控訴人桝谷は控訴人秋岡の代理人広田保男から古畳二十一畳だけを買い、七畳半は他で調達したものであり、又二十五畳だけを表替して二階西南三畳の一室と二階東北四畳半の室の内半畳の表替をしなかつたものであると述べた外、

いずれも原判決事実記載のとおりであるからこれを引用する。

<立証省略>

三、理  由

まず、被控訴人の控訴人両名に対する本訴請求について判断する。

奈良県山辺郡丹波市町字三島一一八番地上家屋番号三島一八二番木造瓦葺二階建住宅一棟建坪十七坪一合、二階坪十二坪五合四勺が被控訴人の所有に属することは当事者間に争がなく、被控訴人が昭和十四年七月右家屋を天理教西宮大教会責任者秋岡彌束に期間の定めなく賃貸したところ、同人が昭和二十二年一月死亡し、同教会責任者控訴人秋岡末吉が右賃貸借を承継したことは、被控訴人及び控訴人秋岡との間において争がなく、被控訴人及び控訴人桝谷との間においては、成立に争がない甲第三号証及び原審証人広田保男の証言によつてこれを認めることができる。

被控訴人は、昭和二十三年十一月中頃控訴人秋岡の代理人広田保男との間に右賃貸借を合意解除し、同年十二月末日限りその明渡を受ける約束ができたと主張し、原審及び当審証人広田保男、原審証人城美佐子の各証言によると、本件家屋は元天理教西宮大教会の信徒詰所として使用せられ、広田保男は右詰所の責任者として控訴人秋岡から右家屋の管理に関する一切の権限を委ねられていたこと及び西宮大教会は昭和二十三年十月丹波市町字川原城において家屋を新築したため本件家屋を常時信徒詰所として使用する必要がなくなつた事実は、これを認めることができるけれども、被控訴人主張のような合意解除があつたことについては、原審及び当審証人城美佐子の各証言、原審及び当審における被控訴人本人尋問の結果中右同旨の部分は原審及び当審証人広田保男の各証言によりその成立の認められる乙第二、第三号証及び同証言と対照して信用することができず、その他これを確認するに足りる証拠はないから、被控訴人の右主張は採用できない。

被控訴人は、控訴人秋岡は昭和二十三年十二月被控訴人の承諾を得ないで控訴人桝谷に対し本件家屋全部を転貸したから民法第六一二条第二項の規定により本訴において右賃貸借を解除する旨主張し、控訴人両名は右転貸については被控訴人の承諾を得ていると抗争するから考えてみよう。原審及び当審証人広田保男の各証言によりその成立の認められる乙第一号証、前示乙第二、第三号証、原審証人湯川孝作、天野スヱノ、原審及び当審証人城美佐子、稲守祐司、広田保男の各証言、原審及び当審における被控訴人本人尋問の結果、当審における控訴人桝谷清太郎本人尋問の結果の一部、原審及び当審における検証の結果及び弁論の全趣旨を総合して考察すると、広田保男は控訴人秋岡の代理人として昭和二十三年十二月二十日頃控訴人桝谷に対し本件家屋全部を賃料一ケ月二百円で転貸し、ただ教会において信徒の宿泊等に必要があるときは右家屋の二階南側二室を使用できることを留保し、控訴人桝谷は控訴人秋岡の代理人広田から右家屋の造作類を八万五千円で買い受け、その頃からその家族とともに右家屋全部を住宅として使用し占有しておる。控訴人桝谷は右転貸借について容易に被控訴人の承諾を得られるものと信じて造作類を買い求めたのであるが、予期に反し被控訴人の承諾を得ることができなかつたものである事実を認めることができる。原審及び当審証人井本伊太郎の各証言、原審(第一、二回)及び当審における控訴人桝谷清太郎本人尋問の結果中右認定に反する部分は容易に信用することができず、その他右認定をくつがえすに足りる証拠はない。被控訴人が本件訴状を以て控訴人秋岡に対し被控訴人の承諾なく控訴人桝谷に本件家屋を転貸したことを理由として賃貸借解除の意思表示をし、右訴状が昭和二十四年四月十九日控訴人秋岡に到達したことは記録上明らかであるから、右賃貸借は同日限り解除せられたものであつて、被控訴人は控訴人秋岡に対し原状回復義務の履行として、又控訴人桝谷に対し所有権に基いて右家屋の明渡を求めることができることが明白である。

控訴人桝谷は、本件家屋を明け渡すときは家族五人とともに生活が脅かされ、警察官としての公務の遂行に支障を来すに反し、被控訴人は右家屋を自ら使用する必要がないのであるから、被控訴人の右家屋明渡請求は公共の福祉に反し権利の濫用である旨主張するけれども、前示のように控訴人桝谷は被控訴人の承諾を得ない転貸借により右家屋を占有したものであるから、被控訴人が民法の規定により認められた解除権を行使した上、所有権に基きその明渡を求めることは法律上当然認容されるところであつて、たとい被控訴人自らこれを使用する必要がないとしても、これを以て権利濫用とするのは相当でない。

控訴人秋岡は、昭和十四年七月右家屋内部の壁塗及び床下排水工事を施し金七十五円の費用を支出したから被控訴人に対しその増価額七千五百円の償還を求める。又右家屋二階南側二室の畳七畳半について借家法第五条の規定により、その時価金五千二百五十円を以て買取を請求する。右合計金一万二千七百五十円の債権の弁済を受けるまで右家屋を留置する旨主張するから考えてみよう。

原審及び当審証人関山武蔵の各証言によれば、右壁塗及び床下排水工事は右家屋の維持保存に必要な通常の修繕費に属するものと認められるところ、成立に争のない甲第三号証及び原審における被控訴人本人尋問の結果によれば、本件家屋の賃貸借において通常の修繕費は賃借人の負担とする特約があることが認められ、乙第九号証によつても右認定を動かすことはできない。又賃借人が民法第六一二条第一項の規定に違反し、賃貸人の承諾を得ないで転貸したため解除せられたときは、賃貸人の信頼を裏切つたものであるから、誠実な賃借人の保護を目的とした借家法第五条の規定は、賃借人の一般の債務不履行によつて解除せられた場合と同様、これを適用すべきものでないと解するのを相当とする。従つて前示のように被控訴人の承諾を得ない転貸借をしたことを理由として解除せられた控訴人秋岡は被控訴人に対し畳の買取を求めることは許されないから、同控訴人の留置権の主張も理由がない。

控訴人桝谷は、原判決添付明細表(い)有益費欄(1) 乃至(4) の工事設備(ろ)造作費欄(1) 乃至(5) の造作を控訴人秋岡の代理人広田保男から買い受けたものであつて、(い)(1) は有益費、(い)(2) (3) (4) は必要費であるが、控訴人桝谷は自ら(い)(5) 及び(ろ)(12)の有益費を支出したから、被控訴人に対し(い)(1) 乃至(5) (ろ)(12)の増価額合計金三万五千六百五十円の償還を請求する権利がある。又控訴人桝谷は自ら本件家屋に(ろ)(6) 乃至(11)(13)(14)の造作を取りつけたから、(ろ)(1) 乃至(11)(13)(14)の造作の時価合計金十万五千九百十二円八十六銭を以て被控訴人に買取を請求する。右合計金十四万千五百六十二円八十六銭の債権の弁済を受けるまで右家屋を留置する旨主張するから考えるに、原判決において控訴人桝谷が被控訴人に対し(い)(5) の金二千三百円、(ろ)(12)の金千九百五十円の支払を求める権利があるものとして、その被控訴人に対する反訴請求中右金四千二百五十円の支払を求める部分を認容したのに、被控訴人はこれについて控訴も附帯控訴も提起しないから、当審においてこの点について判断すべき限りでない。前示乙第二、第三号証並びに原審及び当審証人広田保男の各証言によれば、控訴人桝谷が昭和二十三年十二月二十日控訴人秋岡の代理人広田保男から原判決添付明細表(い)有益費欄(1) 乃至(4) の工事設備(ろ)造作費欄(1) 乃至(5) の造作を買い受けたことが認められるけれども、当審における検証の結果によれば、(い)(1) 床板(2) 丸窓(3) 押入棚(4) 板塀は、いずれも本件家屋に附合してその一部となり、独立して所有権の目的となることができないものであることが明らかであるから、控訴人桝谷は右売買契約によつて(い)(1) 乃至(4) の設備の所有権を取得することはできない。又当審における検証の結果によれば、(い)(1) 乃至(4) について支出せられた費用は総て必要費でなく有益費と認むべきであるが、民法第六〇八条第二項の規定によると、賃借人が賃貸人に対し有益費の償還請求のできるのは、必要費の場合と異り賃貸借終了の時であるから、賃貸借終了の時における賃借人又はその承継人でなければ賃貸人に対し有益費の償還請求はできないものであつて、賃貸借が賃貸人賃借人相互の間の信頼関係を基礎とするものである性質上、賃貸借の存続中に賃借人は右有益費償還請求権を他に譲渡することは許されないものと解するのを相当とするから、仮に控訴人桝谷が控訴人秋岡から(い)(1) 乃至(4) の有益費償還請求権の譲渡を受けたものとしてもこれを被控訴人に対し行使することはできない。

又借家法第五条の規定によると賃借人は賃貸借終了の場合に賃貸人に対し、造作の買取を請求できるものであつて、造作買取請求権は賃借人の地位に随伴した権利であり、賃貸借の存続中に賃借人が他に賃貸人に対し将来買取を請求する権利を譲渡することの許されないことは前同様であるばかりでなく、仮にこの点を暫くおくとしても、賃貸人の承諾を得ない転貸をしたことを理由に賃貸人から賃貸借を解除せられた賃借人に対し借家法第五条の規定を適用する余地のないことは前示のとおりであるから、被控訴人から無断転貸を理由として賃貸借を解除せられた控訴人秋岡は被控訴人に対し造作の買取を請求できないものであり、控訴人桝谷が控訴人秋岡から(ろ)(1) 乃至(5) の造作を買い受けても被控訴人に対しその買取を請求することはできない。

更に控訴人桝谷が本件家屋の転貸借について被控訴人の承諾を得ていないことは前段認定のとおりであつて、同控訴人が転貸借を以て対抗することのできない被控訴人に対し借家法第五条の規定によつて造作の買取を請求できないことは明白であるから、控訴人桝谷は被控訴人に対し(ろ)(6) 乃至(11)(13)(14)の造作の買取を求めることもできない。

控訴人桝谷は前示(い)(5) の金二千三百円、(ろ)(12)の金千九百五十円の債権の弁済を受けるまで本件家屋について留置権を行使すると主張するけれども、控訴人桝谷は転貸借について被控訴人の承諾なく、従つて同人に対抗できる権限のないことを知りながら本件家屋を占有したものであることは前段認定のとおりであるから、控訴人は民法第二九五条第二項の規定により右債権について本件家屋を留置する権限がないものといわなければならない。

そうすると控訴人桝谷は何等の権限なく本件家屋全部を占有し、被控訴人の所有権を侵害しているから、前示のように被控訴人と控訴人秋岡との間の賃貸借の解除せられた昭和二十四年四月二十日から右家屋明渡済まで被控訴人の使用収益を妨げたことによつて被控訴人の被つている賃料担当の損害金を支払うべき義務があるところ、前示甲第三号証並びに原審及び当審証人広田保男の各証言によれば右家屋の賃料は当初一ケ月金十七円であつたことが認められるから、地代家賃統制令第五条の規定により定められた修正率による家賃の停止統制額は昭和二十四年四月二十日から同年五月三十一日までは一ケ月金百六円二十五銭、同年六月一日から昭和二十五年七月三十一日までは一ケ月金百七十円であることが明らかであり、成立に争のない甲第四号証の三、四、第五号証によれば同年八月一日以降の右家屋の家賃の停止統制額は一ケ月金四百二十五円であることが明らかであるから、控訴人桝谷は被控訴人に対し昭和二十四年四月二十日から同年五月三十一日まで一ケ月金百六円二十五銭、同年六月一日から昭和二十五年七月三十一日まで一ケ月金百七十円、同年八月一日から右家屋明渡済まで一ケ月金四百二十五円の割合による損害金を支払う義務があるものといわなければならない。

次に控訴人桝谷の被控訴人に対する反訴請求について考えるに、控訴人桝谷は被控訴人に対して金三万五千六百五十円の必要費、有益費の償還請求権と金十万五千九百十二円八十六銭の造作買取請求権を有すると主張するけれども、内金四千二百五十円を除いて他にその主張のような債権を有しないことは前示のとおりであるから、その反訴請求は右金四千二百五十円の支払を求める部分を除きその余は失当なものといわなければならない。

そうすると控訴人秋岡に対し右家屋の明渡を求め、控訴人桝谷に対し右家屋の明渡と右損害金の支払を求める被控訴人の本訴請求は正当としてこれを認容すべく、控訴人桝谷の被控訴人に対する反訴請求は金四千二百五十円の支払を求める部分を除きその余の請求はこれを棄却すべきものであることは明白である。そこで訴訟費用の負担について民事訴訟法第九六条第八九条第九二条第九三条、仮執行の宣言について同法第一九六条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 大野美稲 熊野啓五郎 村上喜夫)

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