大阪高等裁判所 昭和25年(ネ)297号 判決
控訴人等は、原判決を取消す。被控訴人兵庫県は、控訴人三治郎に対し、金一万二千二百二十四円九十八銭、同信泰に対し、金千五百九十一円五十九銭を、被控訴人神戸市は控訴人三治郎に対し金一万六千六百六十二円二十四銭、同信泰に対し、金二千百七十円三十五銭を支払え、訴訟費用は、第一、二審共、被控訴人等の負担とするとの判決及び仮執行の宣言を求め、被控訴人等はいずれも主文第一項同旨の判決を求めた。
当事者双方の主張は、控訴人等において、地方税法(昭和十五年三月二十九日法律第六十号、改正昭和二十三年法律第百十号、同第二百号、同第二百四十三号)第十条第一項によると、年税又は期税たる地方税の賦課期日後に、納税義務が発生した者には、その発生した月の翌月から、月割を以て地方税を賦課するとあり、同第二項には、前項の地方税の賦課期日後に納税義務消滅した者には、その消滅した月まで月割を以て地方税を賦課するとあり、又同第三項には、第一項の地方税の賦課後に、その課税客体の承継があつた場合においては、前の納税者の納税を以つて、後の納税義務者の納税とみなし、前二項の規定はこれを適用しないと規定している。本件控訴人等主張の地租及び同附加税は、いずれも昭和二十三年四月一日現在で賦課せられ(実際納税は同年十月中)その後同年六月二十四日財産税物納によつて、課税客体が国の所有となつたのであるから、むしろ右地方税法第十条第三項の規定が問題となるようであるが仮りに本件が右第三項に該当する場合であるとしても、同項は前の納税者も後の承継人も共に納税義務を負担していることを前提としている。然るに本件課税客体は前示のとおり、国の所有となり、同法第十三条第三号によつて非課税客体となつたのであるから、本件については右第三項はこれを適用せらるべきではない。
次に同法第五十三条第二項によると同法第十条第一、二項は地租についてはこれを適用しないことになつているが、その理由は地租又は家屋税の課税客体である土地又は家屋の移動がひんぱんであるから、その手続を省略するためと解すべきである。然しながら財産税納付による土地又は家屋の物納ということは、さほどひんぱんに生ずるものでなく、全く特殊な場合に外ならないし、又地方税法第十条第一、二、三項は、いずれも課税客体が無税でないことを前提としているものなることは、その立言の趣旨から見ても明らかである。従つて本件のように課税客体が国の所有となつた場合には、同法第五十三条第二項(同法第五十八条第二項も同様)はもちろん同法第十条第三項の適用はなく、全く衡平の見地から、これを解するの外はない。
なお、昭和二十四年二月十八日大蔵省主税局長及び同年三月八日地方財政委員会事務局長の通牒は、いずれも控訴人等主張のように課税客体が国の所有となつた後は、その翌月よりこれに関する納税義務は消滅するとの見解を示している。しかして地方財政委員会設置法第四条第一項第十四号によると、右委員会は、地方公共団体の地方税権の帰属については、決定権を有するものであるから、地方公共団体たる被控訴人等は、右委員会の通牒に服せねばならないことは勿論である。従つて被控訴人等は、右通牒によつても、控訴人等に過納の本件地租等を返還しなければならない。
あるいは、地方税の賦課は、行政処分であるから、これに不服あるものは、審査請求又は異議の方法によつて、その取消があつた場合に始めて、本件のような不当利得の請求をなすべきであるというかもしれないが、本件の如く、賦課後に課税客体が国の所有となつたような場合には、賦課処分に対して、不服の申立の余地がない場合も生ずるから、右の議論は不能を強いるものというべく、これを採ることはできないと述べ、被控訴人等において、地方税法(昭和二十三年法律第百十号)第五十三条第二項は、公共の福祉の見地からして、憲法第二十九条第一項に牴触せず、右条項に基いてなした本件賦課処分は適法有効であり、又本件については、同法第二十一条所定の期間内に不服申立の手続もなされていない。しかして行政処分に基く、不当利得は、その行政処分が絶対に無効であるか、又は違法として取消されたときに始めて生ずるものであるから、右のように本件賦課処分が適法有効になされ、且つ法定期間内に不服申立の手続のなされていない限り、本件地租等は法律上原因のない利得とはいゝ難い。控訴人等主張のように賦課後課税客体が国の所有となつたような場合は、地租が年税である点からして、賦課処分に対する不服申立の余地のないような場合の生ずることも考えられるが(尤も本件の場合は徴税伝令書が、控訴人等に送達されたのは昭和二十三年九月十六日であり、課税客体が国の所有となつた時以後である。)地方税法第五十三条第二項では、賦課後に納税義務者が絶対に消滅することがあつても、行政上の合目的々な技術的見地から、賦課処分の変更はする必要のないことになつているので、右法条自体の無効を理由とするは格別その他の理由では、この点についての不服申立はできないから右控訴人等の主張は当を得ないと述べた外原判決事実記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。
三、理 由
控訴人三治郎が、原判決添付の第一目録記載の不動産を、又控訴人信泰が同第二目録記載の不動産を、それぞれ控訴人三治郎に対する昭和二十一年度財産税四十八万六千百八十五円の物納として昭和二十三年六月二十四日国に納付したこと、及び被控訴人兵庫県が右土地に対する昭和二十三年度地租並びに都市計画税として控訴人三治郎に合計一万六千二百九十九円九十九銭を、同信泰に合計二千百二十二円十二銭を賦課し、又被控訴人神戸市が同じく昭和二十三年度地租附加税並びに都市計画税として、控訴人三治郎に合計二万二千二百十六円三十二銭を、控訴人信泰に合計二千八百九十三円八十銭を賦課し、控訴人等が昭和二十三年十月頃、いずれも右税金を納入したことは、当事者間に争のないところである。
控訴人等は、右税金の課税客体たる本件不動産が、賦課期日(昭和二十三年四月一日)以後である同年六月二十四日国の所有に帰し、控訴人等の所有物でなくなつたのであるから、その翌月より翌二十四年三月末日まで九ケ月分の右税金は、被控訴人等において、法律上の原因なく利得したものであると主張するから、その当否を案ずるに、地方税法(昭和二十三年法律第百十号以下同じ)第五十三条第二項によると、地租(従つて、地租割として課せられる都市計画税及び地租附加税)については、同法第十条第二項は適用せられないのであるから、本件土地について、昭和二十三年度の地租の賦課期日たる同年四月一日において、控訴人等がそれぞれその所有者であつた以上、控訴人等において、その年度の右地租等の金額を納付する義務があるものといわねばならぬ。(同法第五十二条第一項第五十三条第一項参照)
控訴人等は右第五十三条第二項が第十条第二項を適用しないのは通常納税義務者の変更した場合を予想しているのであつて、本件の如く、課税客体たる土地が、国の所有となり、それ以後は課税客体となり得ない場合においては、右第五十三条第二項の適用なく、同法第十条第二項の原則規定によるべきであると主張するが、右第五十三条第二項、第十条第一、二項と前示第五十二条第一項、第五十三条第一項等を合せて考えて見ると、地租については、いやしくも賦課期日に課税客体たる土地の所有者である以上、その前後の所有関係の如何にかかわらず、従つて本件におけるように、後の所有者に納税義務のない場合においても、その年度の税金全額を納付する義務あるものとする法の趣旨なることを看取するに足る。(なお同法第十条第三項は、第一項の地方税の賦課後、土地等の所有者に変更があつたが、その土地等が課税客体たることに変りのない、通常の課税客体承継の場合についてのみの規定と見るべきであるから、これを根拠としてその他の場合をも含めて規定している同条第一、二項をも、課税客体の無税でないことを、前提とするものでないとの、控訴人等の見解は採用できない。)
しかして、法が右のような趣旨の規定を設けたゆえんのものを考えて見るに、地租、家屋税(同法第五十八条第二項参照)の課税客体たる土地、家屋のように、その所有者(納税義務者)の変動の相当激しいことが予想されるものについて、その変動を逐一調査し、これに基いて、前示地方税法第十条第一、二項の場合のように、月割を以て、納税義務を定めねばならぬとすれば、納税者個々の側より言えば合理的な処置ではあるが、多数の人を相手とする徴税技術上より見るときは、煩瑣に堪えないところであつて、これを強いて遂行せんとすれば、多大の時間と労力を要し、延いては租税徴収費用の増大を免れないことは、まことに明かである。ここにおいて、法は多少の不合理を忍んで、前示説明のような趣旨の規定の下に、税収入の簡便と徴税費用の節約を期したものと見るを相当とする。(控訴人等は、財産税納付のため、土地又は家屋を物納するということは、さほどひんぱんに生ずるものでなく、全く特殊な場合であるから、本件には地方税法第五十三条第二項の適用はないと主張するが、かゝる区別をするに足る法文上の根拠はないのみならず、財産税納付のため土地等を物納することは必ずしも稀な事例でないことは顕著のところであるから右控訴人の主張は排斥する。)
して見ると、右の程度の不合理は、徴税に特殊なる技術上、避け難い結果といわざるを得ないところであつて、大局から見て是認されるべきである。そしていわゆる財産権不可侵の原則も、公共の福祉のためある程度の制約を受くべきことは憲法第二十九条第二項によつて明かであるから、前段説明のような必要によつて、規定された地方税法第五十三条第二項等の有効なることはもちろんである。
控訴人等は、最後に、課税客体が、国の所有となつた時は、その翌月から、これに関する納税義務は消滅する旨の、昭和二十四年三月八日附地方財政委員会事務局長の通牒により、地方財政委員会設置法第四条第一項第十四号に基いて、被控訴人等は、本件地租等を、控訴人等に返還しなければならないと主張する。しかし地方財政委員会設置法は、昭和二十五年五月三十日施行せられたものであるから、控訴人等のいう地方財政委員会は、地方財政委員会法(昭和二十二年十二月七日法律第百五十五号なお地方財政委員会法の一部を改正する法律昭和二十三年十二月四日法律第二百二十三号参照)によるものでなければならない。そしてこの委員会は地方財政委員会設置法第四条第一項第十四号所定のような地方公共団体の課税権の帰属等地方税法の規定の適用について関係地方公共団体の長が、意見を異にする場合に、その決定権を有しないのであるから、該決定権の性質を判断するまでもなく、控訴人等の右主張は、採用することはできない。
以上説明のごとく、控訴人等の請求は失当であるから、これを排斥した、原判決は正当というべく、本件控訴はその理由がない。よつて民事訴訟法第三百八十四条、第九十五条、第八十九条に従い、主文のとおり判決する。
(裁判官 大野美稲 熊野啓五郎 福本一)