大阪高等裁判所 昭和25年(ネ)575号 判決
控訴人はまず原判決を取消す、被控訴人の訴を却下する、訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とするとの判決を求め、次に本案につき主文同旨の判決を求め、被控訴人は本件控訴を棄却する、控訴費用は控訴人の負担とするとの判決を求めた。
当事者双方の主張は左の点を附加する外、原判決事実に記載のとおりであるからこれを引用する。
第一、被控訴人の主張
一、控訴人の後記本案前の抗弁に対し、被控訴人は原審において昭和二十三年九月九日訴状訂正の申立をなし当事者として被告国に由良村農地委員会を追加したのであるが、それは当時新憲法下新しく行政訴訟が再構成せられた浮動期であつたので、当初本件違法の行政処分をした行政庁を含めた主体たる国を被告としたのであつて、訴状記載の請求原因と訴状訂正申立の請求原因とは全く同一であり、措辞不備のそしりは免れないが、訴状記載の請求の趣旨第一項は「和歌山県知事が昭和二十二年十一月五日附買収令書により原告(訴状に被告とあるは原告の誤記と認める)所有に係る和歌山県日高郡由良村大字畑字那端一三五六山林五、三〇三を自作農創設特別措置法第三十条の規定により買収することは許さない」というので結局違法の行政処分の取消を求めるものであり訴状訂正申立書記載の請求の趣旨第一項と同一のものである。即ち本件は訴状提出以来一貫して請求の同一性を持続しているのであるから被告を変更したことは行政事件訴訟特例法第七条により適法である、又原審において被告の変更につき控訴人は異議なく訴訟を進行し責問権を放棄したのであるから控訴人の本案前の抗弁は時期に後れた攻撃防禦の方法として却下さるべきである。なお、被控訴人が本件買収計画についての訴願裁決のあつたことを知つたのは昭和二十二年十一月中である。
二、本訴において買収計画の取消を求める部分は、当初本件買収計画の定められた公簿面積五反三畝三歩実測面積一町四反八畝十四歩(以下、本件山林と称する)のうち控訴人主張のその後買収計画及び買収処分の取消された部分を除き残余の部分即ち実測面積六反(以下、本件土地と称する)についての買収計画である。そして右買収計画は次の理由により違法である。
(一) 未墾地買収計画の適否は自作農創設特別措置法(以下、自創法と略称する)第三十条第一項第一号によると、自作農を創設し又は土地の農業上の利用を増進するための必要性と農地及び牧野以外の土地で農地の開発に供しようとする開墾適性の二要件が必要で純然たる法規裁量事項である、本件土地は人里離れた山の三十度ないし四十度の傾斜地で米作、麦作に適せず柑橘畑として収穫を得るには十年余を要し、食糧増産の緊急に間に合わないこと明白であり、これのみでも開墾の適性のないこと明かであるのみならず、本件土地一帯は釣竿等の輸出用黒竹の特産地であつて広く欧州諸国に輸出されており諸外国よりの需要も漸増しつつある現況で本件土地も従前どおり黒竹の栽培に利用すれば五年後には年百五十束の生産が可能であり、ひいてはこれによつて収め得る利益、外貨の獲得も少なからぬものがあることからみても開墾の適性のないことは勿論何らの必要性もないものである。
(二) 開墾の適否は自創法の目的からみて買収当時において土地が開墾に適するかどうかを社会通念及び条理に従い合理的に判断すべきであつて、単に事実上開墾が可能かどうかによつて判断すべきものではない。本件土地が柑橘畑として開墾に適し、柑橘収穫迄の間に同時に甘藷を栽培収穫できるとするも、それは事実上の開墾の可能性があるというにすぎないのであつて、単に事実上の開墾の可能性があるというだけでは未墾地買収の要件としての開墾適性があるということはできない。
(三) 農林省開拓局計画部で指示した「開拓農地選定の基準」は開墾適性の存否について社会通念及び条理に従つた合理的な判断の基準を示すものであつて、本件土地は右基準に照しても開墾不適地なること明白である。けだし買収計画が右基準に違反するというだけでは違法とはならないけれども右基準を無視することは条理を無視することであり、社会通念に反する結果に至るから右基準に適合しない未墾地買収を適法となすためには、少くとも右基準違反の程度が軽微であることを条理上必要とするもので、違反の程度の甚だしいものまで適法視すべき理由はない。本件土地は傾斜の緩かな中央南面の部分においてすら二十七度、その他の部分は三十度ないし四十度の傾斜を有するのであるから、本件買収計画は十五度以上の傾斜地を一律に開墾不適と定めた右基準を全く無視した違法の処分であり、又黒竹林は右基準において開墾不適と定められた特殊優良樹林であるから黒竹林である本件土地を柑橘畑にするためになされた本件買収計画はこの点よりするも違法である。
第二、控訴人の主張
一、本案前の抗弁として、本訴は出訴期間経過後に提起されたから不適法である。即ち被控訴人は最初国を被告として和歌山県知事が本件山林を買収することは許さない旨の判決を求める訴を和歌山地方裁判所に提起したが、訴訟係属中昭和二十三年九月十八日頃和歌山県知事を被告として前同趣旨の判決及び控訴人委員会を被告として本件買収計画取消の判決を求める旨の訴状訂正申立書を提出し、同二十四年二月七日の口頭弁論期日において被告和歌山県知事に対する訴を取下げた。従つて控訴人委員会に対し本件買収計画の取消を求める訴は早くも昭和二十三年九月十八日頃右訴状訂正申立書が提出されたときに初めて提起されたものといわねばならない。そして被控訴人が本件買収計画について訴願裁決のあつたことを知つた日が昭和二十二年十一月中であるからその後六ケ月の出訴期間の経過後に提起された本訴は不適法である。
二、本案について。当初買収計画の定められた本件山林のうち実測面積八反八畝十四歩については昭和二十七年九月十九日控訴人委員会において買収計画を取消し、同年十月十日和歌山県知事において買収処分を取消した。そしてその余の土地についての本件買収計画には何らの違法はない。即ち
(一) 買収計画の適否を判断するには買収計画を定めた時の事情を基準とすべきである。本件土地は農地として開発できる土地で米麦の生産には適しないが柑橘畑、甘藷ないし蔬菜畑としては最適の場所であつて、被控訴人主張の黒竹が戦争後輸出品として重要性を有するようになつたのは昭和二十四年頃からであり、本件買収計画が定められた昭和二十二年八月四日当時においては黒竹の輸出については全然その見透しがつかず、その価格は極めて低廉であり当時わが国の食糧事情はなお著しく困難な状況にあつたのであるから当時の事情を基礎として考えるならば控訴人委員会が本件土地を取り敢えず甘藷畑として開発するために定めた本件買収計画には何らの違法はない。
(二) 自創法第三十条により未墾地を買収するにはその土地が開墾適性を有する外に未墾地買収の必要がなければならないが、当該地域において具体的に入植又は増反の必要があり当該買収が却つて自創法の目的たる自作農の創設と農業生産力の発展に反する結果とならず又は公の秩序善良の風俗に反しない限り未墾地買収の必要があるというべきであつてその土地を農地として開発するよりも他の用途に供する方が土地の効率利用上有利であることは未墾地買収の必要を阻却するものではない。けだし自創法第一条が「この法律は耕作者の地位を安定しその労働の成果を公正に享受させるため、自作農を急速且広汎に創設し、又土地の農業上の利用を増進し以て農業生産力の発展と農村における民主的傾向の促進を図ることを目的とする」と規定し、同法第四十条が同法第三十条によつて買収した未墾地の開発につき他の法令による開墾の制限禁止規定の適用を排除することを命令に委任していること及び同法成立当時の事情を考えると、同法は「農村の民主化(自作農の創設)」と「農業生産力の発展」という公益目的の実現を国家の至上政策とし、黒竹林等の保護ないし外貨の獲得その他の公益目的に優先して急速且強力にこれを達成することをその立法趣旨とするものであり、同法第四十条同法施行令第二十八条によつて適用を排除された法令以外の法令に特に開墾の制限禁止規定がある場合の外、黒竹林業の保護ないし外貨の獲得その他の公益目的を犠牲にしても同法によつて未墾地を開発することを許容したものと解すべきである、本件において買収が自創法の目的に背反し、又は公序良俗を害するような事情のないことは明らかであり黒竹林業の保護ないし外貨の獲得のため黒竹林の開墾を制限禁止する法令の規定は存しない、従つて本件土地を農地とすることによつて収め得る経済的利益と黒竹林とすることによつて収め得る経済的利益とを比較考慮して本件土地の買収計画を違法とすべきではない。
(三) 又、未墾地を農地として開発すべきか他の用途に供すべきかは行政機関の自由裁量に属するから、行政機関がその裁量を誤つたとしても当不当の問題を生ずるに過ぎず、仮に法規裁量とするも、次の理由により本件土地を農地として開発することには違法はない。
(1) 本件土地は昭和十年頃から黒竹林となつたのであるが戦争中から戦後にかけて全然手入がなされなかつたため、本件買収計画が定められた昭和二十二年八月当時は荒廃その極に達していたのであるから本件土地に手入を施しても商品価値のある黒竹を生産するには少くとも四年を要する、これに反し本件土地を開墾して甘藷を植えるとその年から収穫が得られ蜜柑類を植える場合も蜜柑の収穫を得られるまでは同時に甘藷を作ることができる、しかして昭和二十二年当時は食糧難が未だ緩和されず、食糧増産がわが国の急務とされていたことは公知の事実である。
(2) 黒竹が終戦後輸出されるようになつたのは前記の如く昭和二十四年頃からであつて、本件買収計画当時は輸出の見透しがつかず価格が極めて低廉であつた。
(3) 黒竹の栽培には蜜柑類の栽培と同程度の地味気温を要するが蜜柑に比して傾斜が急でもよく風当りが多少強くても差支えがない、従つて蜜柑類の栽培に適する土地は必ず黒竹の栽培に適するが蜜柑類の栽培には適しないが黒竹の栽培には適する土地が多くある筈である。本件土地は両者の栽培に適するが蜜柑類栽培の適地の方が少いから、本件土地を蜜柑畑にする方が土地の効率利用の点からみても国家経済上有利である。
(4) 蜜柑類の価格は比較的安定しているのに反し黒竹の価格は変動が激しい、従つて本件土地を耕作農民に所有させるとすれば、蜜柑畑とした方が耕作者の地位の安定という自創法の目的に適合する(証拠省略)。
三、理 由
まず本訴が適法かどうかについて判断する。
本件土地について控訴人委員会が昭和二十二年八月四日自創法第三十条第一項第一号による未墾地買収計画を定め、これに対し被控訴人は同月六日控訴人委員会に対し異議を申立てたが却下されたので更に同年九月十五日和歌山県農地委員会に対し訴願をしたところ同年十月二日附で訴願を棄却する裁決があり、被控訴人が右裁決のあつたことを知つたのは同年十一月中であることは当事者間に争なく、本件記録によると、原審において被控訴人は当初昭和二十二年十一月七日国を被告として本件山林を開墾の最適地として買収することは違法である、開墾の適不適の認定は法律問題であつてこれを一、二行政庁の判断のみによることは新憲法の精神ではない裁判所の公正なる立場において判断さるべき問題である旨主張して和歌山県知事が昭和二十二年十一月五日附買収令書により原告(訴状に被告とあるは原告の誤記と認める)所有に係る和歌山県日高郡由良村大字畑字那端一三五六山林五、三〇三を自作農創設特別措置法第三十条の規定により買収することは許さないとの判決を求め、買収令書(甲第一号証)及び訴願裁決書(甲第二号証)の各写を訴状に添付していること、被告国は答弁として右買収は自創法第三十八条により所定の手続を経てなされたのであつて、何ら新憲法に反しないと主張したこと、その後被告国は行政事件訴訟特例法公布の日と同日なる昭和二十三年七月一日に「本訴の被告は国となつているが訴訟請求原因で明らかとなつている行政処分は由良村農地委員会の未墾地買収計画及び異議申立の棄却、和歌山県農地委員会の訴願の裁決並びに和歌山県知事の買収令書の発行である、従つて処分庁たる由良村農地委員会、和歌山県農地委員会及び和歌山県知事が訴訟当事者たることは差支えないが国は訴訟当事者ではない、即ち国に対する本訴請求は失当である旨」を記載した準備書面を提出し、次で原告は同年九月二十四日に至り同年九月十八日附訴状訂正申立書を提出し(該申立書は同年十月十八日の口頭弁論期日において陳述された)、被告を由良村農地委員会(控訴人委員会)及び和歌山県知事小野真次に変更し、請求の趣旨を「被告由良村農地委員会が原告所有に係る由良村大字畑字那端一三五六山林五反三〇三に対して為したる買収計画は之を取消す、被告和歌山県知事は右土地を自作農創設特別措置法第三十条の規定により買収することは許さない」と変更し、更に同二十四年二月七日の口頭弁論期日において和歌山県知事に対する訴を取下げたこと明かである。以上の各事実及び訴訟の経過に、被控訴人が当初本件訴を提起した当時は未だ行政訴訟特例法の公布前であつて、行政処分の取消を求める行政訴訟においては何人を被告とすべきかについては明文なく、したがつて被控訴人が本件訴状に前記の如く国を被告として知事の買収を許さない旨の判決を求める旨記載していることをもつて、直ちに被控訴人が右訴状においては買収計画の取消を求める意思がなかつたと即断することができないと考えられるので、かかる事情をも併せ考えると、被控訴人の当初の訴は要するに本件山林を開墾適地と認定したことの違法を主張し、本件買収計画から買収令書の交付に至るまでの一連の買収行為についてその取消を求める趣旨であつて、右訴状記載の請求の趣旨には控訴人委員会の定めた本件買収計画の取消をも含む趣旨と解することができる。
すると昭和二十三年九月十八日附訴状訂正申立書は訴状記載の請求の趣旨を明確にし、且適法に被告を変更したものということができるから、控訴人委員会に対する本件訴は最初に訴を提起した昭和二十二年十一月二十七日に提起したものとみなされる。そして右出訴期間は当時においては昭和二十二年法律第七十五号第八条により処分のあつたことを知つた日から六箇月であり、被控訴人が本件買収計画についての訴願裁決のあつたことを知つたのは同年十一月中であること前記のとおりであるから、控訴人委員会に対する本訴は出訴期間内に提起された適法のものであるということができる。従つて控訴人の右抗弁は理由がない。
よつて本案について判断する。
成立に争のない乙第二、第七号証当審証人栖原忠雄、中川伊吉、大江一夫の各証言、当審鑑定人平林俊一の鑑定の結果、原審(第一回ないし第三回)及び当審における検証の結果を総合すると、本件山林は伊勢西線紀伊由良駅より約一里の人里離れた山奥にある元黒竹林であつて、本件買収計画当時は黒竹、松、雑木等が生え又戦時中手入をしなかつたため雑草の生えるにまかせ、枯竹も放置されていた未墾地であつた。そして本件山林の東西北は他番地の山林に接続し、南は谷に面している南北に長い土地で、本件土地はその略中央にあつて南、東、北の三方周辺は急斜面をなし、傾斜十五度ないし四十度の部分もあるがその他は傾斜緩く、又土質及び日当り良く、湧出する泉があつて灌漑水に不足せず、傾斜十五度を超える部分は階段畑構築により急傾斜の害を或程度解消することができ、その他諸般の条件よりみて本件土地は開墾して甘藷類の栽培に適するのみならず、果樹園として開墾するに最も適する土地であつて、未墾地買収における開墾適性を有することを認定することができる。もつとも成立に争のない甲第三号証によると農林省の指示した「開拓適地選定の基準」には傾斜十五度を超ゆるもの(四級傾斜)は開墾に適しない。特殊優良樹林を適地として選定するには慎重を期し国民経済的観点から特に存置を要すると認められるものは開拓適地に選んではならない旨の記載があるが、右基準は関係行政機関に対し権限行使の指針を示したもので、買収計画が右基準に違反しているというだけでは直ちに右買収計画が違法であるとはいえない(最高裁判所昭和二十七年(オ)第二六八号事件、同二十八年十月二十七日判決参照)。又成立に争のない乙第七号証、当審証人財松蔵、中川伊吉、栖原忠雄の各証言、原審鑑定人財松蔵の鑑定の結果によると、本件山林の近傍一帯は釣竿等の輸出用黒竹の特産地で戦前は広く欧州諸国へ輸出されていたが、本件買収計画当時においてはその輸出について判然とした見透しなく、又本件土地を以前と同様黒竹林として相当の収穫を得るためには三、四年の手入を必要とすることを認めることができる。そして本件買収計画当時の自創法(昭和二十二年十二月二十六日法律第二百四十一号による改正前のもの)第三十条には政府は自作農を創設するため必要があるときは、農地以外の土地で農地の開発に供しようとするものを買収することができる旨を規定し、その趣旨とするところは専ら当時の緊急な食糧増産の必要に応ずるため未墾地を買収して自作農を創設するにあるから、以上認定の事実より見れば本件買収計画は何等違法の点はないものといわねばならぬ。
そうすると本件買収計画の取消を求める被控訴人の本訴請求は失当として棄却すべく、これと趣旨を異にする原判決は不当である。よつて民事訴訟法第三百八十六条第八十九条により主文のとおり判決する。
(裁判官 大野美稲 熊野啓五郎 村上喜夫)
原審判決の主文および事実
一、主 文
被告が和歌山県日高郡由良村大字畑字那端一、三五六番地山林五反三畝三歩について昭和二十二年八月四日定めた買収計画を取消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は主文と同一の判決を求め、その請求原因として、
第一、主文第一項記載の山林は原告の所有であるところ、被告は昭和二十二年八月四日これに対し自作農創設特別措置法(以下自創法と略記する)第三十条第一項第一号による未墾地買収計画を樹立しその公告をした。そこで原告はこれを不当として同月六日被告に異議の申立をし、更に九月十五日和歌山県農地委員会に訴願をしたが十月二日訴願棄却の裁決がなされた。
第二、しかしながら、被告の右買収計画には次のような違法がある。
本件山林は原告が約二十年前より栽培してきた日高郡特産の黒竹の竹藪であつて一面に黒竹が生育しており、これまで一度も田畑として使用したことなく、又開墾に適する土地ともいうことができない。所謂開墾適否の判定はその基準を単に事実上開墾し得るか否かにのみ限定すべきものではなく更に広く行政目的よりする合理的な土地の経済的効用の比較衡量によつて決定されなければならない。本件山林は事質上開墾に適しないのみならず更に土地の経済的効用の比較衡量によつてみても開墾に適するものとはいうことができない。即ち、黒竹は日本の特に和歌山県の特産品であつて、戦前には年約五百万本が釣竿等として諸外国に輸出されてきており、戦後においても生糸と共に原材料を自給し而も製造過程の簡易な輸出品として外貨獲得に重要な地位を占めている。本件山林は戦争のため一時手入不足の状態にあつたが、いまこれに手入管理を施せば直ちにそのまま輸出資材として重要な黒竹を年々生産することが可能であつて、本件山林一町五反余より仮りに一坪当り三十本の黒竹を採取し得るとしても年一三五、〇〇〇本を収穫し得ることとなり、これにより入手し得る外貨は柑橘畑等として収穫し得るところより遙かに大である。本件山林では米、麦等主要食糧の生産は不可能であつて、いまこれを開墾し柑橘畑等として利用するとしても多大の労力、費用と約二十年の長い期間を必要とするのであつて、これら事情を比較すれば被告の樹立した買収計画が開墾適否の判定を謬る違法なものであることが明らかである。
仮りに開墾適地といえるにしても本件山林の実測面積は一町五反余あつて、そのうち開墾に適するかと思える部分は僅かに五反歩以下にすぎず他の一町余は明らかに開墾不適地である。被告も亦右五反歩以下の部分を買収目的としていることが明らかであるにかかわらず分筆することなく、これに数倍する全一筆を買収計画に入れたことは違法である。
以上被告の買収計画は違法であるからこれが取消を求めるため本訴請求に及んだものであると陳述し被告の答弁事実を否認した(立証省略)。
被告指定代理人は原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とするという判決を求め、答弁として、原告主張の第一の事実及び第二の事実中本件山林の実測面積が一町歩以上あること、そのうち被告が買収しようとするのは開墾適地と思われる南に面した五、六反歩であつて、ここを米麦等主要食糧の生産に使用することは困難であるが柑橘畑として開墾するつもりであることは認める。開墾不適部分をも含めて全一筆の買収計画を樹立したのはその旨の農林省の方針に従つたものである。原告主張の其他の事実は否認する。本件土地には既に開墾予定者があり、被告はすべて適法に買収計画を立てたものであると陳述した(立証省略)。