大阪高等裁判所 昭和26年(う)2517号 判決
刑事訴訟法第三二条第二項第三五五条第三七四条によると、第一審における弁護人は被告人のために控訴をなし、控訴申立書を第一審裁判所に差し出すことができるけれども、被告人その他刑事訴訟法第三〇条第二項所定の者から控訴審における弁護人として選任せられない限り、右控訴申立書の提出によつてその任務は終了し換言すれば弁護権は消滅し、以後における弁護人としての訴訟行為をなす根限を有しないことが明らかであるから、控訴裁判所としては刑事訴訟規則第二三六条第一項の手続として被告人に対してのみ控訴趣意書を差し出すべき最終日を指定してこれを通知すれば足るのであつて、原審における弁護人に対して右の手続をなすべきものではないと解すべきである。しかして本件記録添付の弁護人東中光雄名義の控訴申立書によると、右弁護人は黒ズボンをはきネズミ色背広上衣を着た身長五尺四、五寸位中肉丸顏眉間にホクロのあるやせ型の年令二三、四歳位の男、写真番号東成六〇〇九として起訴された被告人のために控訴を申立てたものというべきものであるが、右被告人は原判決言渡までは大阪拘置所に勾留せられていたけれども、刑事訴訟法第三四五条により原審の刑の執行猶予の判決宣告と同時に被告人は釈放せられたので、今更被告人の住所氏名を調査するに由なく、又記録を精査してもこれを確認することはできない。しかも同弁護人を当審における弁護人に選任する旨の書面は提出せられていないのである。かかる被告人に対し前記控訴趣意書を差し出すべき最終日を通知することは、公示送達その他の便法の認められていない現行法の下においては、とうてい不可能であるといわなければならないし、控訴申立書の提出があつてから相当長期間経過した今日となつても刑事訴訟規則第六五条にいわゆる交付送達による方法もまず期待することができない。かくの如き場合には控訴裁判所としては控訴趣意書を差し出すべき最終日を指定するのみで、これが通知をなさざるまま、右期間内に控訴趣意書を差し出さないときは刑事訴訟法第三八六条第一項第一号の趣旨に従い、決定で控訴を棄却することができるものと解すべきところ、被告人は当裁判所が右最終日として指定した昭和二七年三月二日の日までに控訴趣意書を差し出さなかつたものである。