大阪高等裁判所 昭和26年(う)3099号 判決
第一 昭和二十五年七月頃京都府南桑田郡亀岡町大字安町村小字中畠十二番地被告人方において物品税法所定の第二種物品である飴五貫を製造し
第二 同年十一月十三日同所において前同様飴二十貫を製造したものである。
右事実は原審公判調書中被告人の供述記載被告人の副検事に対する第一回供述調書及び並河和夫の副検事に対する第一回供述調書によりこれを認める。
そこで物品税法第十八条第一項第一号第二十一条により被告人を右第一事実につき罰金二千円第二事実につき罰金六千円に処し罰金不完納の場合につき刑法第十八条沒收につき同法十九条訴訟費用につき刑事訴訟法第百八十一条を適用する。
(検察官の控訴趣意)
原判決は被告人は政府に申告しないで
第一、昭和二十四年八月一日から同年八月三十日までの間京都府南桑田郡亀岡町大字安町村小字中畠十二番地被告人方に於て物品税法所定の第二種物品である飴約二十三貫六十六匁を
第二、昭和二十五年七月頃前同所に於て前同様飴約五貫匁を
第三、同年十一月十三日前同所に於て前同様飴約二十貫匁を
各製造したものであると言ふ公訴事実に対し犯罪の証明なしとして無罪の言渡をしたものである。
然し乍ら本件公訴事実中第一事実は、並河和夫に対する検察官の供述調書中「同月(昭和二十四年八月)一日から十七日頃までに造つた分は父が自宅の土間で拵へて委託加工に来た客に粉と引替に飴を渡し加工代を受けて居り、十七日頃父が北海道へ旅行する事になり私に飴を製造して商売をやつて置く様に申して出かけたので、其後同月末まで父の帰るまでの分は私が自宅で造つて委託加工をした」旨の供述記載、製造月日及び製造数量に付同人の供述として同供述調書末尾に引用添付した一覧表の記載及び被告人方より差押えた日記帳の八月一日から同月三十日に至るまでの飴加工代及び数量に関する記載、被告人に対する検察官の第一回供述調書中「それで同年八月一日から委託加工用として造り始めた物品は私方の炊事場で私が造つたが、其の後製造した数量については税務署に出した日記帳に書いてある通りで(中略)此の日記帳の記載は製造にあたり長男に参考のため記帳させたもので製造は妻や長男に手伝はせて居た(中略)八月一日から十七日頃までの分は私が主となつて造り、それ以後の分は私が北海道へ旅行したので同月末帰宅するまで長男が造つたもので、出発するとき長男に委託加工があれば造つて商売をして置く様言い残して出かけた」旨の供述記載により明らかである。次に第二事実は、石田音吉に対する検察官の供述調書中「確か昨二十五年七月頃であつたと思う。私方へ並河俊次の次男幸男が立寄つて、私方が同年五月頃同人方へ売つた馬鈴芋二百貫の代金の内、幾らか覚えないが百貫分の代金が未払となつて居るのを、其の代金の代りとして水飴五貫匁と澱粉二貫匁を取つて代金を棒引して貰へんかと言う話を受けた。私方としてもパンに入れるあんの小豆に水飴が要るので之を承知した処、其の日か翌日頃に幸男が水飴五貫匁と澱粉二貫匁を運んで来て呉れた」旨の供述記載、被告人に対する検察官の第一回供述調書中「右の様に委託加工の商売をしたが釜もあり合せのものを使つたので大量にできず燃料代が高くつき商売にならんから八月末でやめた処が翌二十五年七月当時澱粉業が閑であつたので又飴の委託加工をやろうかと言う考になり、私方炊事場で私が澱粉(馬鈴薯)の等外品七貫を使つて先に申した方法により水飴五貫を造つたが客が加工委託に来なかつたので持て余して居つた、(中略)その際私方が同年六月頃曽我部製パン所の石田音吉より馬鈴薯二百貫匁を買い、代金四千円の処二千円位未払であつたので澱粉二貫匁と右造つた水飴五貫匁を二千円の代金の代りとして取つて貰つた」旨及び同第二回供述調書中「次男幸男が石田音吉へ遊びに行つて同人が馬鈴薯代の代りとして水飴を貰つたらどうかと言つたことを聞いて来たので私は前回申したように私が造つた水飴五貫を金のかたに引取つて貰おうと思い石田方に行き音吉にそうして貰つたら結構だと言うと同人はそうかと言うていたので私は和夫に先方へ話してあるから持つて行けと命じ私方に置いてあつた右水飴を持たせてやつた」旨の各供述記載により明白である。更に第三事実については、被告人方で水飴二十貫匁を差押えた旨の差押顛末書等の記載並に被告人に対する検察官の第一回供述調書中「同年十一月十三日更に私は自宅でさつま芋五十貫匁位を使つて水飴二十貫匁を造り桶に移して置いたところ、その午後三時頃税務署の人が来て之を見付けられた次第であり此の水飴も(中略)委託加工用として造つた」旨の供述記載等を綜合して之を認めることができる。而して加之、被告人自身原審第一回公判に於て起訴に係る飴製造の事実を自白し、唯委託加工により製造した旨弁解するのみであり、弁護人も亦事実に付陳述することなき旨を述べ、事実関係については争なく公訴事実はその証明十分である。然るに原審裁判所は被告人より何等反証の申出もなく且つ前記引用の証拠以外に何等の証拠調もしないまゝで右各証拠が措信するに足らないもので証明力がなく公訴事実を証明するに十分でない所以を、納得し得る理由を挙げて説示することなく、単に犯罪の証明なしとして無罪の言渡をしたのである。
本件について、弁護人は第三回公判で物品税法第六条第四項第二十五条等を論拠として、物品税法は課税物品の製造販売を業とするものに対してのみ適用さるべきものであるから、本件の如く自家消費者より委託を受けて製造加工するものは課税対象外であり、従つて罪とならない旨主張している。併し、同法第六条第四項の所謂みなす製造は課税物品の販売を業とする者が受託者に原料、労務、資金等を供給して製造を委託する場合には例外として右委託者を製造者とみなしてこれに課税すべき旨特に規定しているにすぎないのであつて、並河和夫に対する検察官の第一回供述調書の「客は何れも一現の奥さんや女子供ばかりであつた」旨及び被告人に対する検察官の第二回供述調書の「昭和二十四年八月、翌二十五年七月、同年十一月十三日に造つた固形飴や水飴は委託加工の目的で造つたものである」旨の各供述記載によつて被告人は不特定多数の一般消費者を対象としその加工委託に応じる目的で本件飴を製造したことが認められ、右の例外の場合に該当しないことは多言を要しない。且又並河和夫に対する検察官の第一回供述調書の「八月一日造つた分は私方の手持の芋粉を使い、その後客から受取つた粉で造り之を他の客に粉と引替で渡しその粉でまた次の日造つて他の客に渡すと言つた風にして商売していた」旨、及び被告人に対する検察官の供述調書の「石田音吉に水飴五貫を二千円の代金の代りに取つて貰つたが此の飴を造つた澱粉七貫は私所有のものを使つた」旨並に同調書の「同年十一月十三日自宅で芋五十貫位を使つて水飴二十貫匁を造つたが、丁度芋を堀り取つたところで百姓の人が芋を持つて加工に来ると思つたので委託加工用として造つた」旨の各供述記載に徴し、被告人は委託者から原料等の供給を受けないで自己所有の原料等を使用して本件の飴を製造したこと明白であり、斯る場合には右例外規定は適用はなく、却つて製造者である被告人に対し課税すべきことは理の当然である。更に同法第二十五条は自己又は同居の親族の用に供する飴の製造は課税対象外である旨規定しているがこれは製造者自身又はその同居親族の消費のみに充てる目的で製造された物品には特に課税しないとの意味であつて本件製造は被告人自身又は被告人の同居親族の消費に充てる目的ではなく広く一般消費者から委託加工を受けて製造しているものであつて同条の適用を受けないことは言うまでもない。
敍上の理由により、何等合理的な説明判断を加えないで明白なる証拠を排斥し、単に犯罪の証明なしとして無罪の言渡をした原審判決は明らかに事実を誤認し且つ判決に理由を附さない違法があり破棄を免がれないものと信ずる。よつて刑事訴訟法第三八二条、第三七八条、第三九七条により適正なる判決を求めるため本件控訴の申立をなした次第である。