大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和26年(ナ)13号 判決

原告 石橋友三郎

被告 小西伊三郎

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告は「昭和二十六年四月三十日行われた大阪府会議員の選挙において泉大津市の選挙区から立候補した被告の当選を無効とする。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、被告は主文と同旨の判決を求めた。

原告の請求原因として述べたところは次のとおりである。

被告は昭和二十六年四月三十日行われた大阪府会議員の選挙において泉大津市の選挙区から立候補し、同年五月一日当選人と決定告示せられた。原告は右選挙区における選挙人である。右選挙区における府会議員選挙の選挙運動に関する支出金額の法定制限額は八万七千百円であつて、被告の出納責任者は被告の選挙運動に関してなされた支出の総額を六万八千二百八十円として報告書を提出しておる。

(1)  拡声機の使用料について

被告の出納責任者の報告書によると、拡声機使用料として一日一台六百円の割合で昭和二十六年四月四日から同月二十九日まで二十六日間分一万五千六百円を加守田数馬に支払つたとあるが、実際は被告は拡声機一台を四月四日から同月二十九日まで使用した外、他に一台を同月二十日から同月二十九日まで使用し、加守田数馬に対し使用料として合計八万円を支払つた。その単価は不明であるが、当時一般の使用料は一日一台二千五百円が普通であつたから、拡声機賃貸を営業とする加守田数馬が、たとえ被告と親しい関係があつたとしても、一日一台六百円という安い使用料で賃貸を承諾するはずがなく、加守田数馬の息久一が被告の使用料は河内候補の方より二万円多いと不用意に言つたことは真実を物語つているのである。

(2)  労務者の賃金について

被告の出納責任者の報告書によると、労務者の賃金として一日二人ずつ四月四日から同月三十日まで二十七日間一日一人二百十五円合計一万一千六百十円を支払つたとあるが、被告は右以外に助松において労務者を毎日五人ずつ同月四日から同月二十九日まで二十六日間使用していたもので、その賃金として一日一人二百十五円の割合で合計二万七千九百五十円を支出しておる。

(3)  学生選挙運動者の食費宿泊料旅費手当について

被告の出納責任者の報告書には記載がないけれども、アルバイト学生四人が被告の選挙運動に従事していたものであつて、被告は右四人の学生に対し宿泊料旅費手当として四月四日から同月二十九日までの内休んだ三日間を除き二十三日間一人一日五百円の割合で合計四万六千円を支払つておる。

(4)  小型自動車の借賃について

被告の出納責任者の報告書によると、自動車賃借としては法で認められた一台分しか計上していないが、被告は右一台の外、小型自動車三台を四月十日から同月二十九日まで二十日間使用したもので、その借賃として一日一台七百円の割合で合計四万二千円を支出しておる。

そうすると、被告が実際において選挙運動に関して支出した金額は、右(1)乃至(4)の金額合計十九万五千九百五十円に右報告書記載の六万八千二百八十円を加えた二十六万四千二百三十円でありその法定制限額八万七千百円を十七万七千百三十円を超過したこととなり、被告の当選は無効であるから本訴を提起する。

被告が答弁として述べたところは次のとおりである。

被告が昭和二十六年四月三十日行われた大阪府会議員の選挙において泉大津市の選挙区から立候補し同年五月一日当選人と決定告示せられたこと、原告が右選挙区における選挙人であること、右選挙区における府会議員選挙の選挙運動に関する支出金額の法定制限額が八万七千百円であること及び被告の出納責任者の提出した報告書に、被告の選挙運動に関してなされた支出の総額を六万八千二百八十円、拡声機使用料として支出せられた金額を一万五千六百円、労務者の賃金として支出せられた金額を原告主張のような割合による一万一千六百十円と記載せられておることは認めるが、その他の原告主張事実は総てこれを否認する。原告の本訴請求は失当である。

(各証拠省略)

三、理  由

被告が昭和二十六年四月三十日行われた大阪府会議員の選挙において泉大津市の選挙区から立候補し同年五月一日当選人と決定告示せられたこと、原告が右選挙区における選挙人であること、右選挙区における府会議員選挙の選挙運動に関する支出金額の法定制限額が八万七千百円であること及び被告の出納責任者の提出した報告書に、被告の選挙運動に関してなされた支出の総額を六万八千二百八十円、拡声機使用料として支出せられた金額を一万五千六百円、労務者の賃金として支出せられた金額を一万一千六百十円と記載せられておることは当事者間に争がなく、原告が法定期間内に本訴を提起したことは記録上明らかである。

(1)  原告は被告は拡声機一台を同年四月四日から同月二十九日まで使用した外、他に一台を同月二十日から同月二十九日まで使用し加守田数馬に対し使用料として合計八万円を支払つたと主張し、証人加守田数馬、加守田久一、辻本明、河内修一(第一回)、早野多嘉雄の各証言によると、被告は電気器具商加守田数馬から賃借した中型拡声機一台を自動車に積載して使用した外、川上嘉蔵方二階に取りつけて使用したことがあり、中型拡声機の使用料の業者の協定価格は一日一台千五百円乃至二千円である。加守田数馬は河内理一候補に対し大型拡声機を賃貸しその使用料として業者の協定価格どおりの一日二千五百円の割合によつて六万円を受け取つた、加守田数馬の息久一は河内候補の息修一の問に対し、被告からは河内候補から支払を受けた額より二万円程多く貰つたと思う旨答えたことがある事実を認めることができる。しかし証人田村昇の証言により真正に成立したものと認められる乙第一乃至第三号証、同証言、証人加守田数馬、加守田久一の各証言及び被告本人尋問の結果に、成立に争のない甲第一号証、鑑定証人橋本民三郎の証言を合わせ考えると、被告が川上嘉蔵方二階に取りつけて拡声機を使用したのは四月十三日、十九日の二回だけであり、自動車に積載して拡声機を使用したのも四月三日から二十九日までの間連日でなく、結局報告書記載以外に拡声機を使用したものでない。加守田数馬は被告と回縁関係があるので、業者の協定価格よりも安い一日六百円の割合で被告から使用料を受け取つていたもので、久一は右事情を知らず単に河内に対する使用料をつとめて安くしたことを誇示せんがため、何等根拠のない事実を放言したに過ぎない。しかも一日六百円の割合による拡声機使用料は当時の業者の協定価格よりは安かつたとはいえ、右選挙において大阪府選挙管理委員会から示された標準額であつた事実を認めることができ原告本人尋問の結果は信用できず、他に原告の右主張を確認するに足りる証拠はない。そして前示被告と加守田数馬の関係を参酌すると右使用料は不当に安価で、相当額との差額について寄附があつたものと認むべき場合にあたるものということはできないから、原告の右主張は採用しない。

(2)  原告は、被告は助松において労務者を五人ずつ二十六日間使用し、その賃金計二万七千九百五十円を支出していると主張するけれども、証人南市松、松岡義雄の各証言、原告本人尋問の結果その他原告の援用する総ての証拠によつてもこれを確認することができず、かえつて証人川端音吉、池側小三郎、川上嘉蔵、深井吉五郎、田村昇、木村貞三、西保次郎、吉田太一、小西久男、川上勝三郎の各証言及び被告本人尋問の結果によると、被告は泉大津市に親族縁故者が多数在住していたので、選挙運動のため被告の選挙事務所に出入した者は多数あつたけれども、労務者としては二人しか使用していなかつた事実を認めることができるから、原告の右主張は失当である。

(3)  原告は、被告は四人の学生に対し食費宿泊料旅費手当として合計四万六千円を支払つたと主張し、証人池側小三郎、河内修一(第一、二回)、平井真、鷹津郁朗、加守田久一の各証言及び原告本人尋問の結果によると、学生数名が被告の選挙運動に従事したことが認められるけれども、同人等が実際に飲食物の提供を受け或いは宿泊し又は食費宿泊料旅費手当の支払を受けたことを確認できる証拠なく、かえつて証人木村貞三の証言及び被告本人尋問の結果によると、これは被告と縁故関係にある学生が好意的に被告のため選挙運動に従事していたものであつて、被告は右学生に対して何等の支払をしていない事実を認めることができるから、原告の右主張は採らない。

(4)  原告は、被告は法で認められた自動車一台の外、三台を四月十日から同月二十九日まで二十日間使用し、その借賃として一日一台七百円の割合で合計四万二千円を支払つていると主張するけれども、証人河内修一(第二回)、早野多嘉雄、貝辻義盛の各証言及び原告本人尋問の結果によつてもこれを確認することができず、証人田村昇、木村貞三、小西久男、川上勝三郎の各証言及び被告本人尋問の結果によると、被告は自動車を一台以外に使用しなかつた事実を認めることができるから、原告の右主張も採用できない。

そうすると、被告の選挙運動に関して支出された金額が法定制限額を超過したものとする原告の本訴請求の失当なことは明らかであるから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 大野美稲 熊野啓五郎 村上喜夫)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!