大阪高等裁判所 昭和26年(ナ)18号 判決
原告 東守久
被告 和歌山県選挙管理委員会
一、主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、事 実
原告は昭和二六年四月三〇日執行の和歌山県会議員選挙の新宮市選挙区における選挙の効力に関し原告の為した異議について、被告が同年六月六日附なした決定を取消す、右和歌山県会議員選挙の新宮市選挙区の選挙は無効とする。訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求め、その請求の原因として次のとおり述べた。
一、原告は昭和二六年四月三〇日執行の和歌山県会議員選挙に新宮市選挙区から立候補した者である。
二、右選挙において、不在者投票に次のような違法がある。
(イ) 新宮市における不在者投票には不在者投票管理者及び不在者投票立会人が無かつた。
(ロ) 仮に不在者投票管理者があつたとしても同人はその職務の執行を怠つていた。
(ハ) 新宮市役所内の投票記載場所はその設備不完全極まり、一般民衆が頻繁に自由に出入する場所に設けられ、選挙人はその環視の裡に投票せしめられた、これは無記名投票の趣旨に反する。
(ニ) 公職選挙法施行令(以下、単に令という)によれば、不在者投票管理者は、令第五六条により選挙人が登録されている選挙人名簿の属する市町村における不在者投票を受取つた場合は投票用封筒の表面に投票の年月日及び場所を記載し、投票立会人とともにこれに署名し更にこれを不在者投票証明書とともに他の適当な封筒に入れて封をし、その表面に投票が在中する旨明記し、その裏面に署名して印をおし、直ちにこれを選挙人が属する投票区の投票管理者に送致し、又令第五八条(但し昭和二七年政令第三四七号による改正前のもの)により選挙人がその現在する場所において投票の記載をする場合においては、選挙人は投票用紙に自ら候補者の氏名を記載しこれを投票用封筒に入れて封をし、投票用封筒の表面にその選挙人の氏名並びに投票記載の年月日及び場所を記載し、更にこれを不在者投票証明書の入つている封筒とともに他の適当な封筒に入れて封をし、その表面に投票が在中する旨を明記し、その裏面に署名し、その選挙人が登録されている選挙人名簿の属する市町村の選挙管理委員会の委員長に郵便をもつて送付し又は同居の親族によつて提出し、選挙人が身体の故障で他人に候補者の氏名を記載させた場合にはその記載者が投票用封筒の表面にその旨及びその者の氏名住所を記載しなければならない。そして右選挙管理委員会の委員長は同令第六〇条により不在者投票証明書の入つている封筒を開き点検した後直ちに投票及び不在者投票証明書を選挙人の属する投票区の投票管理者に送致しなければならない。しかるに、本件不在者投票においては、
(1) 他の適当な封筒を用いられず、したがつてその封筒の表裏に施すべき手続がなされず、又は直ちに投票区の投票管理者に送致されず二日乃至二五日間管理者でない者の手許にとめおかれたもの、尾畑ならゑ以下二八六票。このうち他の適当な封筒を全然用いられず又は封筒が用いられているが封筒の表裏に何らの記載なく開封のままで、しかも投票用封筒に選挙人の署名がないために何人の封筒であるか不明のもの、平石増次外八四票。
(2) 選挙人河名サヨ(六六年)が文盲にて選挙嫌いなるを奇貨として、杉本和子(二六年)が医師に公職選挙法(以下、単に法という)四九条三号に関する証明書を不正に作成せしめ、同人において河名サヨを装い投票した。
(3) 選挙人浅田志もの不在者投票について右(2)同様医師に不実の証明書を作成せしめ、同人が文盲で何人かが代理投票したのにかかわらず投票用封筒にその記載なく又投票用封筒を入れる他の適当な封筒(以下、送致用封筒という)に署名もなく管理者の印もなく選挙人が記載すべきところを小倉元一が記載した。
(4) 郵便により受理された不在者投票で直ちに投票区の投票管理者に送致されず且送致についての適当な封筒(以下、別封筒という)の用いられなかつたもの、洞口和己以下一九票
(5) 送致用封筒は開封のままにしてその表面に投票在中の明記なく選挙人の署名もなく別封筒を使用せず且直ちに投票区の投票管理者に送致されなかつたもの、五鬼継義以下九票
(6) 右と同様にして且投票用封筒に選挙人が投票記載年月日及び場所を記載せず市係員が勝手に書き入れたもの、吉川角一以下八票
(7) 右(5)と同様にして且投票用封筒に投票記載年月日及び場所の記載のないもの、東口富太郎以下二票
(8) 送致用封筒に投票在中の記載なく投票用封筒に投票記載の年月日及び場所の記載なく且別封筒を用いず且直ちに投票管理者に送致されなかつたもの、玉井恭一以下一九票
(9) 右(8)と同様にして且投票用封筒の投票記載の年月日及び場所を市係員によつて記載されたもの、玉置真嗣以下四票
(10) 右(9)と同様にして且代理記載の旨明記ないもの、大石みき以下一四票
(11) 送致用封筒に投票在中の明記なく裏に記名印なく別封筒を用いず且直ちに投票区の投票代理者に送致されなかつたもの、森彦一以下八票
(12) 右(11)と同様にして且投票用封筒に該当事項の記載なく代理記載の旨明示なきもの、井藤サト以下四票
(13) 右(12)と同様にして且投票用封筒の投票記載の年月日及び場所を市係員によつて記載されたもの、近江清治以下五票
(14) 送致用封筒は開封にして投票在中の明記なく裏面に印なく直ちに投票区の投票代理者に送致せず、且投票用封筒に代理記載の旨記入なきもの、東市松一票
(15) 送致用封筒開封にして且投票在中の明記なく投票者の署名なく、別封筒を用いず且直ちに投票区の投票管理者に送致されなかつたもの、後藤万寿男以下四票
(16) 送致用封筒開封にして且別封筒を用いず投票区の投票代理者に直ちに送致されなかつたもの、石田芳男以下九票
(17) 右(16)と同様にして且送致用封筒に投票在中明記なく、投票用封筒に代理記載の旨記載なきもの、室谷鈴子以下一五票
(18) 右(16)と同様にして且投票用封筒の投票記載の年月日及び場所が市係員によつて記載されたもの、綿瀬こま以下八票
(19) 投票用封筒の投票記載の年月日及び場所を市係員によつて記載され且別封筒を用いず直に投票区の投票代理者に送致されなかつたもの、村中むす以下二四票
(20) 右(19)と同様にして且代理記載の旨記載なきもの、柳田桂造以下三七票
(21) 送致用封筒に投票在中の明記なく投票用封筒の表面の選挙人氏名、投票記載の年月日、場所は市係員によつて記載され別封筒を用いず直ちに投票区の投票管理者に送致されなかつたもの、小田ならゑ以下二票
(22) 右(21)と同様にして且送致用封筒開封のままのもの、南よし子一票
(23) 送致用封筒に投票在中の明記なく、別封筒を用いず直ちに投票区の投票代理者に送致せず且投票用封筒に投票記載の年月日場所の記載のないもの、宇井武彦以下三票
(24) 送致用封筒は開封にして且選挙人の署名なく別封筒を用いず直に投票区の投票代理者に送致せず投票用封筒に代理記載の旨記載のないもの、井野長之助以下二票
(25) 送致用封筒を用いず且投票用封筒の選挙人の氏名を市係員が記載し、別封筒を用いず、直に投票区の投票代理者に送致されなかつたもの、岩崎とめ以下二票
(26) 投票用封筒に代理記載の旨明示なく且別封筒を用いず直に投票区の投票代理者に送致されなかつたもの、泉五三郎以下一〇票
(27) 右(26)と同様にして且投票記載の年月日及び場所を市係員によつて記載されたもの、岸野睦代以下六票
(28) 右(26)と同様にして且代理記載の旨明示なく場所の記載のないもの、西さと一票
(29) 別封筒を用いられなかつたもの、小松谷勝以下二〇票
三、右選挙の最下位当選者赤根田次郎の得票数四、一〇〇票と、次点者西辻精一の得票数四、〇〇二票との差は九八票であるから以上の違法は選挙の結果に異動を及ぼす虞がある。
四、よつて原告は、昭和二六年五月一四日被告に対し右選挙の効力に関し、右二(イ)(ロ)(ハ)の事実に基いて異議の申立をしたところ、被告は同年六月六日異議申立を棄却するとの決定をなし、決定書は同月九日送達を受けたので本訴に及ぶ。(立証省略)
被告は主文同旨の判決を求め、答弁として、原告主張の事実中
一、一、の事実及び三の事実のうち最下位当選者赤根と次点者西辻の得票数、及び四の事実は認める。
二、二、(イ)については、新宮市選挙管理委員会の委員長尾崎英吉が右選挙の不在者投票管理者であり、その投票立会人は小倉元一が選任されて立会い、同人不在の時は中松利一郎、辻新治、東圭見がその都度選任されて立会つた。
三、二、(ロ)については、不在者投票管理者尾崎英吉は新宮市助役であり、右不在者投票の記載場所は新宮市役所総務課室の一部であつたので、同人は選挙期日告示以来常に新宮市役所助役室に居つて市の一般行政事務を執る傍ら右投票の管理をしたもつとも不在者投票の投票点検等の事務執行については、右管理者の補助者として同市選挙管理委員会書記中松利一郎、同中川晃に行わしめていた。かゝる補助者を用いることは一般行政事務に限らず選挙事務においても許されるところである。
四、二、(ハ)について、新宮市役所総務課室の一部に不在者投票の記載場所として机を置き、その上部に三尺平方の襖で三方を囲み更にその周囲を高さ約五尺の六枚折屏風で囲み、他人が窺うことはできず又不正が行われ得ないよう、全く正規のとおり設備されていた、又一般の投票については投票所に出入し得る者の制限は法に規定しているが不在者投票についてはこの条文を準用していない、したがつて投票記載場所が正規のとおり設備されてをれば其の記載場所が総務課室内であつて、同室に一般の人が出入することは差支えがない。
五、二、(ニ)について
(1) 不在者投票を投票区の投票管理者に送致する手続は速かにすることを要するが、本件選挙においては投票管理者は新宮市職員が選任されていた関係上各投票管理者の委任により各投票区毎に封筒に入れ、これを一の投票箱の中に入れ鍵をかけ厳重に同市選挙管理委員会が保管していた、保管期間は長期に亘つたが、その間何らの不正はなかつた、かかる措置は必ずしも保全を目的とする法の本旨に反せず選挙の自由公正を害しない。
(2) 前記令第五八条が選挙人が現在する場所における投票に送致用封筒を用いることにしているのは送致に便ならしめるためと保全を目的とするために外ならないのであつて郵便用封筒を用いず投票用封筒に切手を貼附し送致してきたものでもその投票を無効とすべきでない。
(3) 河名サヨの投票は杉本和子が代理記載をしたのにかかわらず投票用封筒に代理記載人の記載がないから無効である。
(4) 浅田しもの投票も浅田まき子が代理記載をしたが不在者投票用封筒に其の旨及び代理人の住所の記載がないから無効である。
(5) そして右選挙において不在者投票五二五票のうち、選挙人の現在する場所における投票は三一一票であり、そのうち不在者投票用封筒の不備のものは一三九票で、その内訳は(イ)投票記載の年月日及び場所が新宮市選挙管理委員会の職員により代理記載されたもの四六票、(ロ)他人に投票の記載をさせたのにかかわらずこの旨の記載のないもの九三票であるそして(イ)の場合は不在者投票管理者の補助執行者なる市選挙管理委員会の係員が不在者投票受理の際、投票送付の親族に聞き正し不備の点を書入れたもので違法ではない(ロ)の場合はその不在者投票九三票は無効である。
以上のとおり右不在者投票合計九五票が無効であるが選挙の結果に異動を及ぼさず、且本件選挙には違法はないから原告の請求は失当であると述べた。(立証省略)
三、理 由
原告が昭和二六年四月三〇日執行の和歌山県会議員選挙に新宮市選挙区から立候補したものであること、及び原告が右選挙の不在者投票に違法があると主張して、右選挙の効力に関し同年五月一四日被告に異議の申立をなし、被告が同年六月六日右異議申立却下の決定をしたことは当事者間に争がない。
よつて、原告主張の二について判断する。
二(イ)の主張について、
証人尾崎英吉の証言によると本件選挙における新宮市選挙管理委員会の委員長は尾崎英吉であること明らかであるから、同人が令第五五条の規定によつて同市においてなされた不在者投票の投票管理者である、又証人小倉元一の証言によると新宮市においてなされた不在者投票記載場所は新宮市役所総務課室の一部に設けられ、その投票立会人として同市における選挙人であり同市役所総務課長である小倉元一が右不在者投票管理者尾崎英吉から選任されて立会い、小倉元一不在の時はその都度、同市における選挙人中松利一郎、辻新治、東圭見が右尾崎から立会人に選任されて立会つたことを認めることができる、証人山上為男の証言は右認定を動かすに足らず、他に右認定を覆すに足る証拠がないから、原告の右主張は理由がない。
二(ロ)の主張について、
証人尾崎英吉、小倉元一の各証言によると、本件選挙の不在者投票管理者尾崎英吉は新宮市助役であつて、不在者投票期間中その投票所である同市役所助役室で同市の一般行政事務を執り、投票の管理事務に関しては、投票用紙等の点検の事務は同市選挙管理委員会書記中松利一郎及び中川晃を補助者として同人等にさせていたが、随時、自ら右投票記載場所に臨んで管理していたことを認めることができる。したがつて尾崎英吉はその監督の下に管理事務について補助者を用いたにすぎずその職務の執行を怠つていたということはできないから、右主張は採用できない。
二(ハ)の主張について、
令第五六条五項により不在者投票に準用されている令第三二条によると、市町村の選挙管理委員会は投票記載場所について他人が選挙人の投票の記載を見ること又は投票用紙の交換その他不正手段が用いられないようにするために相当の設備をしなければならないところ、証人尾崎英吉、小倉元一の各証言によると、本件選挙における新宮市の不在者投票記載場所に充てられた同市役所総務課室は人の出入が比較的多いが、投票記載場所はその一部にあつて、市吏員の執務場所から三、四メートル離れ机上に高さ三尺の屏風をもつて三方を囲んで設備し、それより、三、四メートル離れて投票立会人の立会場所があり、他人が選挙人の投票を記載するところを見たり或は不正手段が用いられたりすることがないよう設備されていたことを認めることができる、右認定に反する証人山上為男の証言は措信せず、他に右認定を動かすに足る証拠がない、なお、法第五八条は投票所に出入する者を制限しているが、この規定は一般投票における選挙当日の投票所に関する規定であつて、選挙当日投票所において投票のなされるものでない、不在者投票の場合には適用がないと解するから、右主張は採用することができない。
二(ニ)の主張について、
原告の主張は要するに、(イ)選挙人において、令第五六条による投票の投票用封筒に署名せず、令第五八条による投票の場合に、投票用封筒に所定事項を記載せず或は投票在中の投票用封筒を入れた封筒が開封のままであつたり、その封筒に所定事項を記載せず或は他人が選挙人に代り投票記載をしながら投票用封筒にその旨及び記載者の住所の記載のないもの、或は他人が選挙人を装い不在者投票をなし、(ロ)不在者投票の投票記載の年月日及び場所を不在者投票管理者の補助者において記載した。(ハ)不在者投票管理者又は選挙管理委員会の委員長において、その受理した投票を直ちに選挙人の属する投票区の投票管理者に送致せず、又は送致するについて別封筒を用いなかつたというに帰するが、右(イ)の事項は当選訴訟の理由となるとしても選挙の管理執行にあたる機関が法規に反しその他不正な行為をしたことを原因とすべき選挙訴訟の理由とならず、(ロ)は不在者投票管理者の補助者すなわち選挙の管理執行にあたる機関が法規に反した行為をなしたものといい得るけれども、それはすべて選挙人の意志に影響を及ぼすべきものでなく、選挙人がどの候補者に投票せんとするかという意向は正当に投票用紙に記載されているわけであるから新しく本件選挙をやり直したとしても到底その結果に異動を生じる虞あるものとはいうことができない。又(ハ)については、仮に不在者投票管理者或は選挙管理委員会から投票区の投票管理者に対し令第五六条による不在者投票の送致が遅れたとしてもその一事により同じく選挙の結果に異動を及ぼす虞があるということはできないのみならず、証人小倉元一の証言及び弁論の全趣旨によると新宮市選挙管理委員会書記中松利一郎が令第五六条による不在者投票を各投票区の投票管理者の依頼により、投票函に入れ、同市役所総務課室において保管したことがあるが、その間何らの不正がなかつたことが認められる、又投票区の投票管理者に対する送致に別封筒を使用すべき旨の規定がないから右主張はいづれも理由がない。
そうすると、本件選挙の無効を主張する原告の本訴請求はすべて理由がないから失当としてこれを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用し主文のとおり判決する。
(裁判官 大野美稲 熊野啓五郎 村上喜夫)