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大阪高等裁判所 昭和26年(ネ)1074号 判決

控訴人は「原判決を取り消す。本件を神戸地方裁判所に差し戻す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は主文と同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張は、控訴人の方で、

(一)  本件空地のように代替性なく農業協同組合にとつて必要欠くことのできない財産は、裁定中にその最終の帰属を定めるべきものであつて、もしこれを残余財産として選定したならば、その最終処理は必らず裁定で補充すべきものであることは、市町村農業会整理特別措置令第四条第六条において、農業会所有の財産で農業協同組合に必要なものはなるべく第三者に入手させないで農業協同組合に承継させようと企図している立法の精神からみても明らかである。従つて右空地を農業協同組合に帰属することを定めていない本件裁定は未完成であつて、その補充は同一の形式を以て最終帰属を決定しなければならない。

(二)  本件裁定は債権及び債務の処理について農業会が控訴人に支払うべき貯金利息と、控訴人が農業会に支払うべき動産不動産の賃借料及び有価証券経過利息預金経過利息とを差引相殺する旨定めているが、農業会は毎月の資産表に必らず貯金利息を計上すべきものであり、これを計上しなければ損益計算表はできない。本件裁定書添付別表二損益計算書には損失金科目貯金利息として千五百九十六円二十八銭と記載してあるが、実際においてこの貯金利息は少くとも二、三十万円に達する。被控訴人主張のように、農業会の帳簿にこの貯金利息を記入していないということはとうてい考えられない。貯金利息ばかりでなく動産不動産賃借料、有価証券経過利息、預金経過利息もそれぞれ農業会の帳簿に勘定科目を設けて記入せられているはずである。このように具体的に数字の表れている勘定科目を差引零として相殺し整理することは、経理技術上処理不可能であり、右裁定は法律上不能なことを定めたものとして無効である。

(三)  本件裁定書添付別表一、八、十の農業会の昭和二十五年一月三十一日現在における貸借対照表には農業会が四百三万九千八百四十五円二十九銭の貯金払戻債務を負担しているように記載してあるが、これは昭和二十三年八月十五日農業会解散当時の金額であつて、当時農業会の後継団体と見られたのは控訴人だけであつたから、控訴人は払戻を求めて殺到する貯金者の要求に応じ、昭和二十三年八月十五日から昭和二十五年一月三十一日までの間に農業会に代つて第三者として右貯金払戻債務中合計三百五十四万八千二百六十六円七十九銭を弁済したから、農業会の貯金払戻債務中右同額は消滅し、残額は四十九万千五百七十八円五十銭しか存しない。一方控訴人は農業会に対し三百五十四万八千二百六十六円七十九銭の償還請求権を取得したものである。ところが本件裁定はこれに関して一切表示するところがない。この誤りは被控訴人が農業会の帳簿のみを調査して昭和二十五年一月三十一日の基準日までに控訴人が払戻をした金額を控訴人の帳簿について調査しなかつた手落によるものである。その結果別表一、八、十、十一、十七は昭和二十五年一月三十一日現在を基準としているのに、その内貯金の科目に表示せられた金額だけは昭和二十三年八月十五日現在を基準とするものであつて、昭和二十五年一月三十一現在において存在しない貯金を別表十一、十七の貯金の科目に表示して分割することは不可能であり、不可能のことを定めた本件裁定は無効である。控訴人の支払つた貯金払戻債務を補償して後残余財産を分割すべきにかかわらず、本件裁定において補償を考慮することなく、かえつて控訴人に対し三百八十三万四千四百四十五円二十銭の債務を分割負担させているから、控訴人は二重に貯金払戻債務を負担したこととなる。

(四)  本件裁定書添付別表十、十一によれば農業会の貸方預金総額は百五十万千三百八十一円六十銭であつて、その全額を控訴人に分割し農業会には全然残存させていない。ところが別表十七によれば貸方預金として農業会に三十一万六千三百八十六円二十五銭残存すべきものと定め、一方借方貯金として育波村第一農業協同組合に右同額を分割すべきものと定めている。この二つの別表は両立しないから本件裁定は不能を定めたものか、又は少くとも意味不明のものとして無効である。被控訴人は別表十一と別表十七との不突合は農業会が第一組合に対して有する三十一万六千三百八十六円二十五銭の譲渡代金債権を便宜貸借対照表上に預金及び貯金として表示したに過ぎないと主張するけれども貸借対照表に表示される勘定科目及び金額は根拠なくしてこれを記載することができないのであつて、又貸借対照表は一般公衆を対象とするものであるからその表示された内容は何人にも了解できる客観性がなければならない。特定の者に対してのみ通用するが一般に通用しないようなものは、貸借対照表の名に値しないのである。別表十七の貯金欄及び預金欄からそれぞれ三十一万六千三百八十六円二十五銭を削除するとすれば、同表に記載せられた第一組合の借方合計金額と貸方合計金額とが一致しなくなるし、同表に記載せられた農業会の借方合計金額と貸方合計金額とも一致しなくなる。

(五)  本件裁定添付別表十一分割貸借対照表借方欄記載の二十万五千四百円九銭について控訴人は農業会から支払を受くべきものであるが、如何なる財源からこれを支払うかについて全然指示するところがなく、控訴人は今日までその支払を受けていない。従つてこの点においても本件裁定は未完成であつて補充を要するものである。

(六)  控訴人は農業会の負担する四百三万余円の貯金払戻債務及び約十六万円の利息債務の大半を弁済したにかかわらず、控訴人が農業会から貸与を受けた有価証券については分割時期まではその所有権は農業会にあるとして、その間の利息約二十四万円を控訴人に負担させているのは不当である。これらは元来控訴人に分与すべき資産であるのに、これについて指示するところのないのは裁定の脱漏である。

(七)  本件裁定による分割は無償譲渡でなく控訴人等において代金を農業会に支払つているものであるから、その代金は更に分配しなければならないのに、裁定はこの点について指示するところがない。なお農業会には譲渡代金が順次入つて来るから清算費用に事欠かない訳であり、空地を債務の弁済及び清算等の諸費用に充当するため農業会に残置する必要は全然ないのである。

(八)  本件裁定書添付別表二の損益計算書記載の貯金利息千五百九十六円二十八銭が事実に反して少額に過ぎることは(二)で述べたとおりであるから、右損益計算書の損益は実際において合致しない。又同別表九の推定損益計算書には推定損中に実際上存する多額の貯金利息を計上していないのに損益が平均しており、いかに推定であるといつても事実相違する。これを前提とする別表十、十一も正しくない。

(九)  控訴人は裁定後においても農業会の資産処分認可を争うについて法律上正当な利益を有するものであつて、このことは、市町村農業会整理特別措置令第四条は裁定前農業会の財産を処分する場合農業協同組合の利益を保護するため設けられたものであるが、この利益保護の必要は裁定の段階及びその後の清算結了に至るまでにおいても同等又はそれ以上であることからみて明らかである。更に控訴人は農業会に対し(五)で述べたように二十万五千四百円九銭の債権を有するのにその履行を受けていないから、農業会の残余財産について重大な利害関係を有するものであつて、その資産処分認可を争う正当な利益があるのである。

(一〇)  本件裁定及び認可における物件の評価は一定の基準がなく誤つている。元来農業会は解散し清算に入つたものであるから事業継続を前提とする営業中の価格によるべきものでなく、清算価格を以てすべきものであるにかかわらず、本件裁定における評価は、或いは帳簿価格により、或いは再評価を行い、又実際の価格が裁定書記載の価格より遙か高価のものもあれば殆と無価値のものもある。本件裁定において控訴人に分割された物件はいずれも帳簿価格より甚しく価値が低いものである。本件空地は裁定書添付別表十三において五千六百七十円と評価されたのに、その後一ケ月になされた資産処分認可においては十二万円と評価されている。これによつても裁定及び認可における物件の評価が何等の基準によらないでなされたことが明らかである。

と述べ、

被控訴人の方で、

(一)  農業協同組合法の制定に伴う農業団体の整理等に関する法律の施行に関する政令(昭和二十二年政令第二八一号)第一条において農業協同組合に帰属すべき財産については農業協同組合と農業会とが協議の上決定することとしているのは、農業協同組合が一方的にその必要とする農業会の財産を農業会に強要し、又は農業会が一方的にその財産を農業協同組合に押しつけるようなことがないよう、当事者の自主性を尊重するものであつて、当事者が協議した結果各種の事情から農業協同組合の側において必要と考える財産であつてもその全部又は一部を農業会に残存させることとなる場合も当然予想せられることである。従つて当事者の協議が調つたのと同一の効果をもたらす本件裁定により農業協同組合が必要とする農業会の財産を農業会に残存させることを定めても何等違法ではない。本件裁定においては農業会の総ての財産の帰属をもれなく決定しているのであるから、これを裁定の形式で補充する余地はなく、裁定は未完成といえず再裁定をする法令上の根拠がない。

(二)  昭和二十五年三月三十一日の財産分割実行日現在における控訴人の貸借対照表には未払預金利息未払賃借料等相殺の対象となる勘定科目又は金額は全然計上されていないから、債権と債務とを差引相殺することによつて、これらの勘定科目を新たに設け復雑な計算を行うの煩を避けたもので、未計上の債権と未計上の債務とを差引零として相殺整理することは経理上最も簡単な方法であつて決して不可能ではない。農業会の経理についても同様の不備があるが、このような経理上の欠陥があつても差引計算の実行が可能である以上本件裁定を無効とするものではない。

(三)  控訴人が農業会に代つて農業会の貯金払戻債務を弁済したという事実は明確を欠くので、被控訴人は法律上及び計数上の観点から判断してこの貯金払戻債務が全額農業会に存するものと解して行つた裁定に誤りはないと信ずる。昭和二十五年一月三十一日現在の農業会の貸借対照表には貯金払戻債務が実在しているものであるから、異つた基準日の勘定科目が雑居しているものということはできず、裁定は不可能なことを定めたものでもない。財産分割により控訴人が支払うこととなつた貯金払戻債務三百八十三万四千四百四十五円二十銭の内控訴人が農業会に代つて既に支払つたものがあれば控訴人はこの部分について貯金者に対する支払義務はなく、又財産分割により農業会に残存した貯金払戻債務二十万五千四百円九銭の内控訴人が農業会に代つて既に支払つたものがあれば、控訴人は農業会から償還を受ければよいのであつて、貯金者が二重に支払を請求できるものでないから、控訴人が二重に払戻債務を負担することとはならない。

(四)  別表十一と別表十七との不突合は農業会は育波村第一農業協同組合に対し三十二万四千五百十六円二十五銭に相当する動産及び不動産を譲渡するが、農業会が第一組合に負担する債務としては八千百三十円しかないので農業会は第一組合に対して差引三十一万六千三百八十六円二十五銭の債権を有することとなる。これを便宜貸借対照表上に預金及び貯金として表示したに過ぎない。分割実行の際農業会は第一組合から三十一万六千三百八十六円二十五銭を受け取り出資、貯金等の弁済に充てればよいのであつて、裁定は実行不可能でない。別表十七の貯金及び預金からそれぞれ三十一万六千三百八十六円二十五銭を削除すれば貸借の不一致を来すのは当然である。

(五)  別表十一分割貸借対照表借方欄記載の二十万五千四百円九銭は、貯金払戻債務総額四百三万九千八百四十五円二十九銭の内三百八十三万四千四百四十五円二十銭を控訴人に分割し残額の二十万五千四百円九銭を農業会に残存させたものであつて、農業会はこれを貯金者に支払うべきものであり、農業会から控訴人にこれを支払うべきことを定めたものでない。仮に控訴人が農業会に代つて貯金者に支払つたとしても、それは裁定と別個の問題でこれを表示する必要はない。

(六)  農業会がその所有する有価証券を控訴人に賃貸した期間中の賃料を収得するのは当然であり、相互に貸与に伴う派生的な問題を含んでいるので差引相殺する方法をとつたものである。

(七)  農業会に譲渡代金が入つて来てもその債務を完済するに足りないので空地を農業会に残存させることとしたのである。

(八)  農業会が不合理な経理を行つているとしても本件裁定を無効とするものではない。

(九)  農業会を脱退した者が脱退後の農業会の財産について発言権がないことは昭和二十二年政令第二八一号第二条第一項の規定の趣旨によつて明らかである。農業協同組合が昭和二十二年法律第一三三号第五条第一項の規定による農業会の財産分割の認可申請までは農業会の財産処分について第三者に優先してその利益を保護せられることは市町村農業会整理特別措置令第六条の規定によつて明白であるけれども、この保護規定が財産分割の認可申請後にも適用せられるものとする法律上の根拠はない。

(一〇)  本件裁定により控訴人に分割せられた財産の評価は、育波村第一農業協同組合がまだ設立されていない昭和二十三年六月から昭和二十四年一月までの間に農業会の資産処理委員会が総てを控訴人に譲渡する前提の下に評価した額を公正適切と認め、殆どそのまま採用したものである。

と述べ外、いずれも原判決事実記載のとおりであるからこれを引用する。

三、理  由

まず、育波村農業会の財産について控訴人と育波村第一農業協同組合との間の財産分割に関して被控訴人が昭和二十五年三月八日附でした裁定について判断する。

控訴人は右裁定は、本件空地のように農業協同組合にとつて必要欠くことのできない。しかも代替性のない重要な農業会所有の財産を農業協同組合に帰属させることを定めていないから、未完成で無効であると主張するけれども、右空地は控訴人にも第一組合にも帰属させないが農業会に残存すべきものと裁定したことは控訴人自らの主張するところであつて、農業会の財産は、農業会の会員の一部を組合員とする農業協同組合に対して、農業会の会員の持分総額の内右組合員の持分総額の占める割合によつて分割帰属するものであることは、農業協同組合法の制定に伴う農業団体の整理等に関する法律(昭和二十二年法律第一三三号)第五条の規定によつて明白であるから、農業会の財産の一部が農業会に残存させられることのあるのは法の当然予期するところといわなければならない。従つて空地を農業会に残存させる裁定がなされたとしても、空地を含めた残存財産の総財産に対する割合が、農業会残存会員の持分の全会員の持分に対する割合に等しければ、その裁定に何等違法の点はない。たとい残存財産の割合が残存会員の持分の割合を超過していたとしても、それは裁定の不当又は違法をもたらすに過ぎないものであつて、財産の帰属を定めていないものとはいえないから、右裁定が未完成で無効のものというのは正当でない。控訴人の右主張は採用できない。

控訴人は右裁定は控訴人と農業会との間の債権債務の処理について貯金利息と賃料等とを差引相殺する旨定めているが、その内容は不明確不確定で、法律上不能なことを定めたもので無効であると主張するけれども、たとい控訴人主張のように預金利息、賃料、経過利息の額が明確に帳簿上に記載されることを要するものとしても、双方の債権額について具体的数字を掲げることなく差引零として相殺整理することは経理上最も簡便な処理方法であつて債権債務の処理が不明確のものということはできず、法律上不能のことを定めたものということもできない。仮に差引相殺すべきものと定めた双方の債権債務の額に著しいへだたりがあつて権衡を失するようなことがあつても、それは単に裁定が不当又は違法となるに止まる。従つて右の事由だけでは右裁定が無効といえないことは明らかである。

控訴人は、控訴人において農業会に代つて昭和二十五年一月三十一日までに農業会の貯金払戻債務四百三万九千八百四十五円二十九銭の内三百五十四万八千二百六十六円七十九銭を弁済したから、農業会の貯金払戻債務中右同額は消滅し残額は四十九万千五百七十八円五十銭しか存せず、一方控訴人は農業会に対し三百五十四万八千二百六十六円七十九銭の償還請求権を取得したのに、本件裁定はこれに関して一切表示していない。昭和二十五年一月三十一日現在において存在しない貯金を、別表十一、十七の貯金の科目に表示して分割することは不可能であり、不可能のことを定めた右裁定は無効であると主張するけれども、別表十一分割貸借対照表の記載自体から明らかであるとおり、右裁定においては控訴人に対して資産として有価証券預金債権、購買品、土地建物等を分割帰属させるとともに、一方負債として農業会の払い戻すべき貯金総額四百三万九千八百四十五円二十九銭の内三百八十三万四千四百四十五円二十銭を分割負担させたものである。従つて右裁定は控訴人が農業会の払い戻すべき貯金中右三百八十三万四千四百四十五円二十銭を貯金者に払い戻すべきことを定めたものであるから、たとい控訴人が貸借対照表の基準日である昭和二十五年一月三十一日までに貯金者に対しその内三百五十四万八千二百六十六円七十九銭を弁済したとしても、右裁定に従えば控訴人は自ら負担することとなる債務を、その裁定前に支払つたものであつて、結局において農業会に対し償還を請求できるものではない。なるほど控訴人が貯金者に弁済したものとすれば、昭和二十五年一月三十一日現在において農業会の貯金払戻債務は右限度において消滅したこととなるから、別表十一の貯金の科目の表示は正確を欠くこととなるけれども、農業会の払い戻すべき貯金中既に控訴人の弁済したものをも含めて一定額を控訴人に分割負担させる一方、これに対応する資産を控訴人に分割帰属させることを定めたこととなる。右裁定は不可能な貯金の分割を定めた無効のものであるとする控訴人の主張は理由がない。別表十七貸借対照表借方貯金の科目の第一組合分三十一万六千三百八十六円二十五銭については後に説明するとおりであり、農業会分二十万五千四百円九銭については、農業会の貯金払戻残額が四十九万千五百七十八円五十銭残存することは控訴人の自ら主張するところであるから、昭和二十五年一月三十一日現在においては存在しない貯金を分割したことにならないことは明らかである。

控訴人は別表十一と別表十七は両立しないから本件裁定は不能を定めたものか、又は少くとも意味不明のものとして無効であると主張するけれども、別表十一において貸方預金全額を控訴人に分割し農業会には全然残存させていないのに、一方別表十七において貸方預金として農業会に三十一万六千三百八十六円二十五銭残存すべきものと定め、一方借方貯金として第一組合に右同額を分割すべきものと定めているのは、被控訴人主張のように譲渡代金債権を便宜このように表示したものとしても、もとより正確ではないが、それだけで別表十七の貸借対照表は実行不可能のものということはできない。又貸借対照表の記載が右の程度に事実に合しないことだけでは裁定の不当を来すことはあつても、意味不明のものとして無効といえないことはいうをまたない。

控訴人は別表十一分割貸借対照表借方欄記載の二十万五千四百円九銭については控訴人は農業会から支払を受くべきものであると主張するけれども、別表十一の記載自体で明らかなように、農業会の払い戻すべき貯金中三百八十三万四千四百四十五円二十銭を控訴人に分割負担させるとともに残額の二十万五千四百円九銭を農業会に残存させたものであつて、農業会から控訴人にこれを支払うことを定めたものでない。又控訴人は右貯金の内三百五十四万八千二百六十六円七十九銭を弁済し、農業会に対し同額の償還請求権を取得したと主張するに止まるから、右二十万五千四百円九銭について農業会から償還を受くべきものと主張するものでもない。従つて控訴人が右金額を農業会から支払を受くべきものであることを前提として、本件裁定が未完成であつて補充を要するものとする控訴人の主張は採用できない。

その他控訴人主張の(六)乃至(八)、十のような事実があつたとしても、裁決の不当乃至違法を来すことがあるに止まり、裁決を無効とするものではない。

以上のように、本件裁定は無効であるとする控訴人の主張は総て理由がない。

控訴人の昭和二十五年三月八日附本件裁定の取消を求める訴は訴提起期間を徒過して提起せられた違法なものとして却下せられなければならないものであつて、その理由は原判決理由記載のとおりであるからこれを引用する。

次に控訴人の昭和二十五年四月二十日附農業会資産処分認可の取消を求める訴について判断しよう。前記裁定が農業会の財産の帰属を定めていない未完成なものということのできないことは前に説明したとおりであつて、右資産処分認可は右裁定を補充完成する処分といえないから、昭和二十二年法律第一三三号第二条の規定による認可処分であつて、右裁定とは別個独立の処分である。同法条の規定による認可処分は農業会がその資産を処分しようとする場合その申請により農業会に対してなされたものであつて、取引の相手方に対してなされるものではない。又同法第五条第二項の規定による財産の帰属があつたときは、その組合員で農業会の会員であつた者は農業会を脱退し、農業会から持分の払戻を受けることができなくなることは、昭和二十二年政令第二八一号第二条の規定するとおりであつて、これらを組合員とする控訴人においても農業会の資産処分に干与することはできず、その処分について法律上の利害関係を有するものではない。市町村農業会整理特別措置令第四条は農業会の財産を売却するにあたつて農業協同組合に対し第三者に優先してその譲渡を受けることのできる道を開いて農業協同組合の利益の保護をはかつているけれども、財産分割の認可の申請のあつた後においても右第四条が適用されるものと解するの余地なく、その他農業会の資産処分認可について農業協同組合が利害関係を有するものとする法律上の根拠はない。たとい、右認可を受けた処分が農業会から控訴人に土地を売却する処分であつても、認可処分は農業会に所有財産を売却する権能を与えたに止まり、控訴人に対し何等の義務負担を命ずるものでもない。又控訴人が農業会に対し二十万五千四百円九銭の債権を有するものでないことは前に説明するとおりであるから、その債権の存在を前提として農業会の残余財産処分認可について利害関係を有するものとする控訴人の主張も採用できない。そうすると控訴人は右認可の取消を求めるについて法律上正当な利益を有するものでないから、右認可の取消を求める控訴人の訴は、提訴期間の点について判断するまでもなく不適法として却下を免れない。

以上説明するとおり控訴人の本件訴は総て違法であるから、これを却下した原判決は相当であつて、本件控訴は理由がない。そこで民事訴訟法第三八四条によりこれを棄却することとし、控訴費用の負担について同法第八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 大野美稲 熊野啓五郎 村上喜夫)

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