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大阪高等裁判所 昭和26年(ラ)128号 決定 1952年6月30日

抗告人 小西みの

訴訟代理人 能勢克男

相手方 新浜栄蔵

主文

原審判を取り消す。

本件扶養に関する審判の申立を却下する。

理由

本件抗告理由は、京都家庭裁判所は抗告人の扶養に関する審判申立を却下したが、右審判は不服であるから即時抗告をするというにある。

抗告人は、昭和二十六年二月五日京都家庭裁判所に「相手方は抗告人に対し昭和二十六年三月一日から毎月金三千円を抗告人死亡に至るまで支払え」との趣旨の審判を求め、その申立理由の要旨は「抗告人は昭和七年三月一日以来相手方と内縁の夫婦として同棲して来たが、昭和二十四年四月事情があつて相手方と合意で夫婦別れをすることになり、相手方から昭和二十四年五月以降昭和二十六年三月までの扶養料として金八万円を受け取つて離別した。その際抗告人と相手方との間に相手方は昭和二十六年四月以降抗告人の死亡するまで毎月金三千円宛を扶養料として支払うという契約が成立した。ところが相手方は右契約の成立を争い、履行する意思が見えないから、右契約に基き扶養料の支払を命ずる審判を求める」というにある。そして原裁判所は、相手方が右契約の成立を否認したので、証人中川六之助、同笹井市太郎、同山田萩代を訊問した後、右各証言によつても抗告人の主張する扶養料支払契約の成立した事実を確認することができない。抗告人の本件申立は理由がないとしてこれを却下した。以上の事実は本件記録及び原審判書によつて明らかである。

そこで考えてみる。家事審判法第九条によれば、家庭裁判所は同条第一項に掲げる甲類及び乙類事件並びに同条第二項により他の法律において特に家庭裁判所の権限に属させた事項についてのみ審判を行う権限を有し、扶養に関する処分は右乙類第八号に審判事項として掲げられているが、同号のそれは民法第八百七十七条乃至第八百八十条の規定による扶養に関する処分を指称し、扶養に関する事柄であつても右民法の規定によるものでなければ、審判の対象となり得ないことは規定の文言上疑いを容れない。そして前記民法の規定する扶養は直系血族、兄弟姉妹及びある場合にはその他の三親等内の親族といつたように、一定の親族関係に基く法律関係であり、いわゆる内縁の夫婦間の契約等に基いて発生する金品給付の権利、義務の関係ではない。そして親族関係に基かない金品給付関係を審判事項として特に家庭裁判所の権限に属することを定めた法律は存しない。かような金品給付の法律関係は正に民事訴訟事項であり、それは家事審判法第十七条の規定には正に民事訴訟事項であり、それは家事審判法第十七条の規定により或る場合に一般の家庭に関する事件として家庭裁判所の調停事件として処理されることがあつても、家庭裁判所の審判事件として審判の対象になることはあり得ないのである。本件申立は、抗告人と相手方との間の内縁の夫婦関係を解消するにつき成立したと主張する契約に基き扶養料として金銭の給付を求めるというのであるから、前段説明に照し、家庭裁判所はこれについて審判する権限を有し得ない。されば抗告人の本件扶養に関する審判申立は不適法であることが明らかであるし、従つて右申立を不適法として却下すべきにかかわらず、理由がないとして却下した原審判は違法といわなければならない。

そうだとすれば家事審判法第十九条に則り、原審判を取り消し、本件扶養に関する審判の申立を不適法として却下すべきものである。よつて主文のとおり決定する。

(裁判長判事 田中正雄 判事 平峯隆 判事 藤井政治)

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