大阪高等裁判所 昭和27年(う)2078号 判決
所論の要旨は原判決が本件各事実を包括一罪として認定したのは十分審理を尽さず事実を誤認したのでありその結果法令の適用を誤り刑法第四十五条前段併合罪の規定を適用せず延いて量刑著しく軽きに失し破棄を免れない旨主張するのである。そこで原判決をみるとその事実摘示において「被告会社は肩書本店所在地で料理飲食店を営むもの、被告人野崎一郎は昭和二十四年四月四日右会社創立当時より昭和二十六年二月十一日まで同会社の代表取締役を勤め現に同会社の平取締役であるが被告人野崎一郎は同会社の業務に関し法定の除外事由がないのに右営業所で客の注文に応じその飲料に供する目的で昭和二十四年九月頃から同年十二月三十日頃まで(この終期の点は本件起訴状記載の公訴事実によれば十月三十日頃とあるからもし右原判決摘示が誤記でないとすれば起訴事実を逸脱して事実を審判した誤があり又原判決挙示の証拠によつても右原判示の如き終期は認められないからこの点原判決に事実誤認があることになる)の間に岡田某外二名から政府の免許を受けない者の製造した焼酎合計十一石五斗七升、濁酒合計二石六斗六升を買受け且つ昭和二十五年六月十九日頃から同年七月二十一日頃までの間同様焼酎合計九斗六升九合及濁酒合計七斗二升五合を所持していたものである」と判示し酒税法第六十二条第一項第三号、第五十三条等を適用し包括一罪として処断して刑法第四十五条等併合罪の規定の適用をしなかつたことが明かである。だが酒税法第五十三条は免許を受けない者の製造した酒類を所持し譲渡し又は譲受けることを各別に独立して禁止しておるのであつてもともと右譲受けと所持の各行為は別個の処罰対象たるべきものでありただ譲受けた酒類そのものを所持するというような具体的特別な事実関係の際に譲受けと所持の間に手段結果の関係ありとして処断上の一罪とし、若しくは譲受け或は所持の包括一罪と認めるのを相当とする場合があるに過ぎないのである。ところが右原判示においてはその認定する買受け譲受けた酒類そのものにつき且つこれを所持したというような特殊な事実関係にあるかどうかの点は日々客に酒類を販売しておる被告会社の営業内容判示買受け期間と所持期間との間に相当日時の隔りがあること等に徴し甚だ疑わしいのであつて、右の事実関係を明確に審理確定しない限りたやすく原判示の如く買受け且つ所持の所為を譲受け又は所持のいずれかの包括一罪として認定することは到底できないところである。
更に原判示事実別段の譲受所為について考察するとその酒類買受け先は岡田某外二名からであつて、各人別々の機会において買受けられたことが明かであり、又記録に徴すればこれが買受けに当つても日によつてその数量が必ずしも一定していなかつたことや代金決済も一日分を単位として数日間に支払われていたように窺えること等からみれば原判示の全期間を通じ買受けなる所為が単一犯意の発現に基く多数の一連行為を包括し一回だけ不正酒類譲受け犯罪構成要件を充足したに過ぎないものとなすべきでなく、むしろ一日分の取引毎に独立して犯意の顕現があり右犯罪を完成したとなし併合罪の規定を適用するのを相当とするやに認められるのである。なお被告会社が料理飲食店を営み一般営業方針として客の求めに応じて安価な酒類を販売せんとする意図が常にあつたにせよこれがため直ちに現実、具体的に酒類を買受ける所為が常に継続的集合的とみなされ包括一罪たる訳合のものでなく要は具体的取引形態如何によつて社会通念に従いそのいずれかに決すべき問題である。例えば或者から一定数量の酒類を買受ける契約の下に多数回に亘つてその譲渡を受けたとか契約上一定期間を限り数回に酒類の供給を受けたとかいうが如き事実であれば数回の譲受行為があつたとしてもこれを継続集合的な性質のあるものとして包括一罪を以て論ずることができるのであるが未だ原判決の摘示する事実及び証拠だけではその認定する酒類買受の所為を右のような性質を帯有するものとして包括して観察するに十分でないのであつて各取引における契約の実体内容をなお仔細に審理する必要がある。次に又原判示事実後段の所持の所為についてみるに原判決の掲記するその酒類の合計数量は挙示の証拠に照せば判示期間中の一日分の所持数量を単位としてこれを集計したものであることが明かであるがこれは一日毎に被告会社において客に販売し日々その所持が消滅していつた関係にあらずやと記録上疑わしめるものがあるのであつてもしそうだとすれば特別の事情のない限り一日毎に所持が消え去る反面新しい独立した所持の犯罪が成立するものと認め併合罪を以て処断するのが相当と解せられる。従つて原審が右所持消滅事実の有無について十分の審理を尽さず何等の説明なくしてたやすく所持についても包括一罪と断定したのは違法と云わざるを得ない。
以上原判決には審理不尽のため延いて事実認定を誤り法令の適用を誤るに至つた疑が存しこの違法は判決に影響を及ぼすことが明かであるから爾余の論旨について判断するまでもなく破棄を免れないのであつて右に関する論旨は理由がある。