大阪高等裁判所 昭和27年(う)734号 判決
しかし、原判決挙示の証拠を綜合すると判示事実は優に認められ、殊に被告人が当初から株式場物の授受を目的とせず集団取引において行われていた約定の日から十五日目に現物の授受をする所謂特約物取引の名を藉つて、約定の日と約十五日目の当日との株価の騰落による差金の授受を目的としていたことは、原判決引用の原田亀二郞の検察官に対する供述調書(検甲第六号の二)藤井末蔵に対する裁判官の証人尋問調書(検甲第五号の三)及び証人加納富治の証言により明かなように、当時株式取引所が終戦直前から引続き鎖閉せられ株式の清算取引が公認されていなかつたため、京都の各証券業者は半ば公然と現物の授受を目的としない差金のみを授受する方法を行つていたのであるが、被告人も亦部下外務員を通じ客にこの方法をすすめていた事実と被告人が判示のように現に最後まで現物の授受をしないで期日には何回もいわゆる転売買戻の方法を繰り返し継続していた事実に徴し明確に看取されるのである。所論は本件取引は現株を授受する立前で初められたのであるが、期限に買手の手許が不如意のため実行できなかつたにすぎないと云うけれども、それならば何故に最初に到来した期日に転売のみに止め、最後的に手仕舞すべき筈であるのに更に買戻を建たのであるか、そして又相当多額の買注文を発する程の客が何回も到達する期日ごとに常に手許不如意であつたとは到底考えられないのであつて所論は証拠の裏付けのない単なる弁解にすぎないと認めるの外はない。この転売買戻は最終の手仕舞を延長する方法であるが現物の授受を目的としない取引においては、到来する十五日目ごとに期日において株価の騰落による差金の計算をしてその得喪を決定するのであるから、乗換の都度一個の賭博行為が完成するものと解するを相当とする。それゆえにこれと同趣旨の下に被告人に係る賭博行為の回数を認定した原判決にはいささかの事実誤認もあることはなく、常習賭博罪は習癖的に数個の賭博行為を反覆するによつて成立するものであるから、原判決が本件賭博行為の性質、種類、方法、賭博を為す期間回数その他の事情を参酌し被告人にその習癖の成立を推断したのはもとより正当である。論旨は理由がない。
第二点について。
(ハ)しかし昭和二十三年四月十三日法律第二十五号証券取引法は旧取引所法第三十二条の五と同様その第二百一条において「有価証券市場によらないで、有価証券市場における相場により差金の授受を目的とする行為をした者は、これを一年以下の懲役又は三万円以下の罰金に処する。但し刑法第百八十六条の規定の適用を妨げない」と規定している。それゆえに、この条項は本件犯罪行為当時施行されていたのであるが、株式取引については終戦直前から引続き、わが国内の株式取引所は鎖閉されていたため、いわゆる「有価証券市場における相場」なるもなく、従てこの条項が発動される余地がなかつたにすぎないのである。ところで賭博とは偶然の事情により財物の得喪を決する行為を云い、株式相場は事前においては通例不確定であつて、その高下騰落は射倖的条件に支配されるもの、すなわち偶然の事情により決せられるものであるから、本条所定の行為はその本質は賭博行為であることは論をまたない。すなわち、本条は賭博行為中特殊の場合に干する制裁法規であつて、自ら刑法第百八十五条の適用を除外するにすぎないのである。
それゆえに本件のように「有価証券市場における相場」ではなく、いわゆる集団市場の相場を標準として差金の授受を目的とする行為は刑法第百八十五条に該当し、その行為常習に出る者については同法第百八十六条が適用されるのは理の当然である。論旨は理由がない。