大判例

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大阪高等裁判所 昭和27年(ネ)12号 判決

控訴代理人は、原判決を取消す被控訴人の請求を棄却する訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とするとの判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張は、原判決事実摘示と同一であるから、茲にこれを引用する。

<立証省略>

三、理  由

控訴人が昭和二十五年六月二十日被控訴人宛に金額五万円満期は同年同月二十八日支払地大阪市支払場所株式会社帝国銀行西野田支店振出地奈良県なる約束手形一通を振出し、被控訴人がその所持人となつて満期日支払場所に右手形を呈示して支払を求めたが拒絶せられたことは、当事者間に争いがない。

ところで控訴人は、昭和二十五年五月二十四日準禁治産の宣告を受けその後に本件手形を振出したのであるが、保佐人の同意を得なかつたから、本訴において右手形行為を取消すと主張し、成立に争いない乙第一号証の一、二同第二号証及び原審証人西川サトの証言によれば、控訴人は右の日に奈良家庭裁判所葛城支部において浪費者として準禁治産の宣告を受けて同年六月十五日確定しその保佐人に控訴人の妻西川サトが就任した事実、控訴人は同月二十日に本件手形を振出すにつき右保佐人の同意を得なかつた事実を認めることができる。被控訴人は、右は虚偽であつてその仮装するところに過ぎず、現に控訴人は同年十月迄大阪府庁に勤務していたものであると云うけれども、控訴人の右準禁治産宣告が虚偽仮装であることを首肯するに足る証拠は何等存在せず、又後記認定の如く控訴人は同府庁に勤務中準禁治産の宣告を受けたがこれを秘して勤務を継続していたのであるから、かかる事実を以てしては右認定を左右するに足らない。

しかし被控訴人は、控訴人は本件手形振出の当時大阪府庁に勤務し完全なる能力者たることを装いこれを信ぜしめるため詐術を用いたものであるから、取消権を有しないと抗弁するので、その当否を判断するのに、控訴人が昭和二十五年十月迄大阪府庁に勤務していたことは当事者間に争いがなく、そして原審証人中西節男同西川サト、当審証人清水棟三郎の各証言及び原審並当審における被控訴本人訊問の結果に同控訴本人訊問の結果の一部を参酌総合すれば、控訴人は昭和二十三年七月頃より嘱託として他の一般職員と同一の給与待遇の下に大阪府庁統計課に勤務していたところ、同二十四年秋頃被控訴人より依頼せられ同人外一名所有の山林を天理教会に売込む仲介をしたが不成功に終り、被控訴人が支出したその運動費の約半額二十五万円を控訴人において負担することを承認し、右支払のため本件手形外三通の約束手形三通を振出すに至つた事実、控訴人は前記の如く本件手形振出の約一カ月前に準禁治産の宣告を受けこれが確定しているに拘らず、かかる事実を秘して同府庁における勤務を継続し且つ被控訴人が再三右勤務先を来訪したのに対しても何等準禁治産の宣告を受けたが如き言動を示さずして従来通りの交渉をし、被控訴人の請求に応じて同府庁構内において同人に本件手形を振出交付したのであつて、当時控訴人においてはこれがため控訴人の右宣告を全く感知しなかつたのであるが、その後本訴の提起により控訴人はその準禁治産が表面化し已むなく前記の如く退職した事実を認めることができ、右認定に反する前掲控訴本人の供述部分は信用しない、その他前記認定を覆えすに足る証拠はないのであつて、控訴人は単に雇として勤務していたに過ぎないと云うけれども、前段認定の如く控訴人は雇員でなく嘱託として一般職員と差異がなかつたのであるから、控訴人の右主張は採用に値いしない。

以上認定の各事実によつて見れば、準禁治産の宣告を受けた控訴人は、本件手形の振出に当り、右宣告の事実を秘し法令上勤務を許されない公職を保持して被控訴人と交渉し、自己が従前通り完全なる能力者であるが如く装つて同人を誤信させたものであるから、民法第二〇条に所謂詐術を用いた場合に該当するものと解するを相当とする。

従つて控訴人は準禁治産を理由として本件手形の振出行為を取消すことを得ないのであつて、その支払義務を免れることはできない。

よつて控訴人に対し右手形金額五万円及びその満期日後である昭和二十五年七月一日以降完済に至る迄法定の年六分の割合による損害金の支払を求める被控訴人の本訴請求は正当であつて、これを認容すべきものであるから、本件控訴は失当として棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第九五条第八九条を適用し、主文の通り判決する。

(裁判官 三吉信隆 萩原潤三 小野田常太郎)

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