大判例

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大阪高等裁判所 昭和27年(ネ)63号 判決

控訴代理人は、原判決を取消す、被控訴人の請求を棄却する、訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とするとの判決を求め、被控訴人は、本件控訴を棄却する、控訴費用は控訴人の負担とするとの判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張は、控訴代理人において「控訴会社の代表者は所謂白地手形の形式のものを訴外堀井庄太郎に預けたのみであつて、未だ流通状態に置いたのでなく振出未完了であるから、控訴会社は何人に対しても手形債務を負担すべき義務がない。仮に右が白地手形としても、その金額の補充については人絹の出物があつた際その売買契約の代金支払のため五万円の範囲内において記入すべき旨の補充権を附与したのであるが、その売買は不成立に終り条件不成就によつて右補充権は消滅に帰したのである。しかるにその後訴外波田政太郎において擅にこれを補充し十万六千円と記入したのであつて、この補充は偽造であるのみならず不法に越権してなされたのであるところ、被控訴人は右事情を知悉している悪意の取得者であるから本件手形金の請求権を有しない」と附陳し、被控訴人において右抗弁事実を否認した外、原判決事実摘示と同一であるから、茲にこれを引用する。

<立証省略>

三、理  由

甲第一号証(約束手形)は、その振出人欄における控訴会社名肩書住所及び代表取締役の氏名押印並に貼用印紙とその消印の部分につき成立に争いなく、その他の部分については原審証人波田政太郎の証言によりその成立を認められるが、右甲第一号証に前掲証人波田政太郎の証言及び当審における控訴会社代表者木村彌寿夫訊問の結果の一部を参酌綜合すれば、控訴会社の代表者である木村彌寿夫は昭和二十六年三月頃堀井庄太郎より人絹銘仙の格安品を斡旋する旨の申出を受けその買付方を依頼したが、その際同人の要求により右取引に関して約束手形用紙の振出人欄に控訴会社の住所及び会社名並に専務取締役木村彌寿夫と記入の上会社印及び代表者印を押捺し、尚所定の印紙を貼付してこれに消印し、その他の部分は全部白地の侭でこれを右堀井に交付した事実、及び訴外波田政太郎は前記堀井庄太郎より右約束手形を手交せられ、その白地の部分に金額十万六千円その他被控訴人主張の如き手形要件の記入をしこれを完成した上、手形受取人として被控訴人に対し裏書譲渡した事実を認めることができ、他に反証がないのであるから、控訴会社は白地の約束手形一通を振出し、被控訴人は訴外波田政太郎によつて補充完成せられた右手形を取得してその所持人となつたものと云わなければならない。

控訴人は、右手形用紙は名刺代りとして訴外堀井庄太郎に手交したのであつて全く紙片に過ぎず、未だ振出行為は存しないのであるから、何等手形債務を負担するものでない旨主張するが、この点に関する前掲木村彌寿夫訊問の結果は前段認定の事実に照し採用し難く、却つて前段認定の如く、商取引に関し手形用紙の振出人欄を完備し、しかも印紙を貼付してこれに消印をも施した上右訴外人に交付した事実自体に徴すれば、控訴会社は白地手形を振出しその補充権も併せて授与したものと認めるのを相当とし、控訴人の右主張は理由がない。次に、控訴人は、右取引がその後不成立となつたため条件不成就によつて前記白地手形の補充権は消滅に帰したから、訴外波田政太郎の補充は偽造であるのみならず当初五万円の範囲内において補充すべき趣旨であつたから右補充は不法に越権してなされたものであるところ、被控訴人においてはこの事実を知悉して取得したと抗弁するけれども、前掲証人波田政太郎の証言によれば、同人が被控訴人に対する債務の弁済に困却していた際前記堀井庄太郎より白地の本件手形を手交せられたのであるが、その白地補充については何等の指示もなく、右波田においても何等の条件又は事情なきものと信じ前示の如く補充した上、支払確保の目的の下にこれを被控訴人に裏書交付した事実、及び被控訴人においては控訴会社等の前記経緯につき何等聞知することなく、完成せる本件手形を右波田より取得した事実を窺うことができ、他に右認定を左右するに足る証拠はないのであるから、本件手形は善意の第三者により補充完成せられ、しかも現所持人たる被控訴人はその取得につき善意にして重大なる過失なきものと断定せざるを得ないのであつて、白地手形の補充権が一旦授与せられた後に当事者間の原因関係によつて消滅に帰し、又はその補充が当事者間の授権範囲を越えてなされたとしても、これを以て善意且つ重大なる過失なき手形所持人たる第三者に対抗し得ないものであること勿論であるから、控訴会社は被控訴人に対し本件手形上の債務を免れることはできない。尤も乙号各証及び前掲木村彌寿夫訊問の結果によれば、前記堀井庄太郎は控訴会社との取引不成立に終つたため控訴会社より本件手形の返還を求められたのに対し、既に焼却したと称して応ぜず、且つ前記波田政太郎も亦本件手形の補充につき控訴会社に対して現在責任を感じ善処したき旨申出ている如くであるが、かかる事実は何等控訴会社の被控訴人に対する前示義務に消長を来すものでなく、この点に関する控訴人の抗弁は採用し得ない。

更に控訴人は、被控訴人が何等取引関係なくして本件手形を訴外波田政太郎より取得したと云うけれども、前段認定の如く右訴外人は被控訴人に対する債務の支払確保のため本件手形を差入れたのであつて、その原因が存在すること明かである。

そして、前掲甲第一号証によれば、被控訴人は本件手形をその支払期日に支払場所において呈示し適法に支払を求めたが拒絶せられたこと明白であるから、控訴会社は被控訴人に対し、その手形金額十万六千円及びこれに対する本訴状送達の翌日であること記録上明かである昭和二十六年七月七日以降右支払済迄年六分の割合による法定の遅延損害金を支払うべき義務あること勿論である。よつて被控訴人の本訴請求は正当として認容すべく、右と同趣旨の原判決は相当であつて本件控訴は理由がないからこれを棄却すべきものとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第九五条、第八九条を適用し、主文の通り判決する。

(裁判官 三吉信隆 萩原潤三 小野田常太郎)

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