大判例

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大阪高等裁判所 昭和28年(う)1401号 判決

罰則にいわゆる爆発物とは、最高裁判所の判例が示すとおり理化学上の爆発現象を惹起するような不安定な平衡状態において、薬品その他の資材が結合せる物体であつて、その爆発作用そのものによつて公共の安全をみだし、又は人の身体財産を害するに足る破壊力を有するものを指称する、と解するのを相当とする(昭和三一年六月二七日最高裁判所大法廷判決、集第一〇巻第六号九二一頁参照)。ところで、右の「理化学上の爆発現象」というのは、鑑定人山本祐徳、浜野元継連名の鑑定報告書の記載によれば、ある物体系の体積が急激迅速に増大する現象をいうのであつて、これには単に、物理的に体積の急増する現象(物理的爆発)もあるが、かかる場合は割合に少く、多くは化学反応を伴うもので、通常理化学上の爆発といえば狭義にとり、物質の分解または化合がきわめて急速に進行し、一時に多量の熱とガスとを発生して、体積の急速な増大を来たす現象(化学的爆発)を指称するけれども、物理的爆発もまた理化学上における爆発の範畴に入るものと解すべきである。従つて「理化学上の爆発物」といえば、右のように物理的または化学的原因により爆発現象を惹起するような不安定な平衡状態において、薬品その他の資材が結合した物体といわなければならない。しかしこの理化学上の爆発物のすべてが罰則にいう爆発物に該当するものではなく、前者は純然たる理化学上の概念であつて、概ね自然科学上の実験、または、観察方法によつて、これを明瞭にし得るところであるが、後者は前者の意義を基礎として、その上に形成される純然たる法的概念であつて、理化学上の爆発現象を発生せしめ得るよう調合装置された物自体の爆発作用による破壊力が、如何なる程度に達した場合に、これを公共の安全をみだし、又は人の身体財産を害するに足るものとなすかは、罰則のもつ目的や、特質等に照して判定さるべきものであるから、この点につき更に審究するに、この罰則は爆発物に関する特別法として一般法たる刑法に対比し、互に相似する犯罪行為を規定する場合にも著しく重い刑罰を定めている外(罰則一条、三条、五条、九条、刑法一一七条、一一三条、二〇一条、一九九条、一〇三条、一〇四条等参照)、或は爆発物を発見した者及び爆発物に関する犯罪を認知した者に対し告知義務違反の罪を認め(罰則七条八条参照)或は罰則一条の罪を犯さんとして脅迫、教唆、煽動、共謀したに止まる場合、若しくはこれが幇助のため爆発物又はその使用に供すべき器具の製造輸入等をする行為をも独立の犯罪とする等(同四条、五条参照)著しく犯罪行為の範囲を拡大規定しているのであるが、この所以につき、前掲最高裁判所の判例は「それは一に爆発物がその爆発作用そのものによつて前段説示するような破壊力を有する顕著な危険物たることに着目したために外ならないからである。」と判示しており、また、右罰則の制定に当つて、その当時当局より発表せられた「爆発物取締罰則説明」によれば、爆発物使用の目的とその使用する物件が爆発物であることにより、社会公共に与える危害の甚大なるを慮り、国家非常の大害を禁遏する必要上厳重に取締るため右罰則の制定を見るに至つたものであるので、これ等によつてみれば、この罰則の対象となる爆発物とは、化学的その他の原因によつて、物自体の爆発作用による直接の破壊力が、極めて高度であつて、公共の安全をみだし又は人の身体財産を損傷するに当り、甚大な危害を与える可能性の大なる顕著な危険物を指称するものと解するのが相当であつて、その破壊力が、未だ社会公共の治安をみだすに足らず、又は人の身体財産を損傷するも軽微で危険性の少ない物は理化学上の爆発物であつても、罰則にいわゆる爆発物には該当しないのである。所論は、罰則にいわゆる爆発物は、その破壊力が高度であることや危険性の大なることを要件とするものでないと主張するのであり、他にも同様の説はあるけれども、上記説明する理由よりして到底賛同し得ないところであり、かく解することによつてのみ本罰則制定の趣旨に背馳せず、他の刑事諸法令との権衡並に機能的調和が保たれ、全法体系中に正当に位置ずけられるのである。

以上説明したところを要約して再言するならば、罰則にいわゆる爆発物とは、(1)理化学上の爆発現象を惹起するような不安定な平衡状態において、薬品その他の資材を調和配合して製出された結合体であり、(2)その結合体がそれ自体の爆発作用によつて直接の破壊力を有する物であり、(3)その破壊力が極めて高度であつて公共の安全をみだし、又は人の身体財産を害するに当り、甚大な危害を与える可能性の大なるものを指称するのである。従つてこの必須要件を欠くもの、たとえば、塩素酸カリウムを主剤として製作されるマツチ軸頭薬の如きは、理化学上の爆発現象を起し得るものではあるけれども、その薬量極めて僅少であり、その爆発に当つても多量の反応熱を生ずることもなく、爆発作用そのものによる直接の破壊力が認められないから罰則にいわゆる爆発物には該らないのである。また、爆発物を製出するに必要な諸資料を全部取集めたときは、これ等を調合して一物件としなくても爆発物の所持とは解せられるが(明治二五年一月一四日大審院刑事部判決参照)、未だそのうちの一部の物が取集められない間は、取集め準備せられたその余の物を指して爆発物ということはできないのである。

二、本件火炎瓶は罰則にいわゆる爆発物に該当するか。

本件火炎瓶の構造性能は、原判決がその挙示する証拠によつて認定判示するとおりである。すなわち、その構造は、ガラス瓶に濃硫酸と揮発油とを入れ、瓶の胴部外側に貼付せられた洋紙と瓶の間に白色結晶性紛末の塩素酸カリウム約一、一瓦乃至約二、五瓦を配合装置し、瓶口にコンク栓を施したものであり、その性能は、これを路面、床板などに投擲して瓶を破壊すると、瓶の外側に配合装置された塩素酸カリウムに内部の濃硫酸が流出して接触化合し、化学反応を起し爆発的に発火し、これが瓶の破壊により同時に撒布された揮発油に引火し、燃焼を起す威力を有するものである。しかし上記挙示の関係証拠によると、右のように塩素酸カリウムと濃硫酸が接触すると、完全な化学的爆発が起るけれども、その爆発は、塩素酸カリウムの量が前記のとおり僅少であるため、その爆発自体による直接の破壊力は殆んど認められず、それは単に揮発油に点火する役目を果すにとどまるものであり、その点火による揮発油の燃焼も、化学的には定常な燃焼であつて、爆燃または爆轟と称する程その進行速度が急激なものでないのである。またこの揮発油の燃焼による火炎が人の身体や財物に接触すれば、火傷、焼燬を生じ、濃硫酸が人体にかかれば、皮膚に腐蝕性火傷(眼球に入れば失明することもある)を与え、木質の財物や植物性繊維製品にかかれば、これ等は脱水炭化を受けて変質するので、その危険性は恐るべきものがあるけれども、これらのことは専ら揮発油の燃焼作用または濃硫酸の腐蝕作用によるものであつて、本件火炎瓶の爆発現象それ自体による直接の破壊力によるものでないことが明認し得るのである。従つて本件火炎瓶が投擲破壊された場合に、揮発油の燃焼や濃硫酸の腐蝕作用によつて或は公共の安全をみだし、又は人の身体財産を害することがあり得るとしても、それは本件火炎瓶の爆発作用それ自体の直接的な破壊力によるものでないから、本件火炎瓶が罰則にいわゆる爆発物に該当しないことは、前段爆発物の意義について詳説したところに照して容易に理解し得るところである。

三、本件ラムネ弾は罰則にいわゆる爆発物に該当するか。

本件ラムネ弾の構造性能は、原判決がその挙示する証拠によつて認定判示するとおりである。すなわち、その構造は、内部口元近くにゴムのパツキングがあり、その口部下辺に硝子の球栓が存在する普通のラムネ硝子瓶に炭化石灰(カーバイト)約三一瓦を入れ、その瓶口に紙の栓を施したものであり、その性能は、これに適量の水を注入することによつて、カーバイトと水が化合して、アセチレンを多量に発生し、瓶を傾斜させるとそのアセチレンの圧力で瓶中の球栓が上昇して、ゴムパツキングの箇所で瓶の口部を密閉するため、その内部で生ずるアセチレンの体積が急激に増大して高圧となり、数秒乃至数十秒の内に爆鳴を発して外殻の瓶を破壊するので、その寸前に素早く瓶を投擲すれば、瓶の破片は周囲に飛散して人の身体、財産を害する威力を有するものである。そこで、(一)右の構造からみるに前掲山本祐徳外一名の鑑定報告書及び同人の鑑定補充報告書によれば、本件ラムネ弾は前記爆発現象を惹起するためには(1)瓶内に投入されたカーバイトの分量が一五瓦以上であつて(2)これに注入される水も適量であり、(3)且つ球栓が栓座に接着して完全に密栓となることを要するものであつて、たとえ瓶内に、投入されたカーバイトの分量が一五瓦以上であつても、これに適量の水が注入されない場合はアセチレンを発生することはなくまた適量の水が注入せられても球栓が栓座に密着しない場合に発生したアセチレンが瓶口より支障なく外部に発散するので、右いずれの場合も爆発現象を惹き起すものではなく、右三要件が完全に具備されて始めて理化学上の爆発現象を惹起し得る結合体となるものである。それ故に、本件ラムネ弾のように普通のラムネ瓶に三一瓦のカーバイトを投入したに過ぎない物は、それに適量の水が注入されない限り、それ自体そのままの状態においては、自然的にも、または衝撃、摩擦等の外力を加えても爆発現象を惹き起すものでないから、たとえ水の入手が極めて容易であり、これを注入して傾斜、または逆転して球栓を栓座に接着させる人為的操作も極めて簡単であるとしても、未だ必須成分である水が注入、または、少くとも手許に準備されていない間は前記爆発物の意義において述べたような不安定な平衡状態における資料の結合体とは云い難いのでこのラムネ弾を以て罰則にいわゆる爆発物に該当するものとなすべきではない。次に(二)右の性能からみるに、原審第二回公判調書中証人辻本義夫の供述記載には、ラムネ弾が爆発すると豆粒大の破片が半径五〇米まで飛散するとあるけれども、前顕山本祐徳外一名の鑑定報告書及び同人の鑑定補充報告書によれば、本件ラムネ弾の破壊力は、実験の結果に徴すると、縦横各五七糎半深さ八九糎の四分板(厚さ約一糎)造りの箱内に投入し箱底から約三〇糎の高さに止まらした場合は、ガラスの破片が木箱の四壁、蓋及び底板に突き刺り、甚だしいのは四分板を貫通する程度でありその破片も余り大きなものがなく、五〇瓦ものは一、二片、二五瓦以上のものは二乃至七片位であり、箱の外で爆発した場合でも、一〇瓦乃至二五瓦の破片がおむね三米乃至五米の範囲に散布する程度で、これが人の身体や財物に近接して爆発すれば、その破片の飛散によつて損傷を与えることが明らかである。しかしこの程度の破壊力では未だ本件ラムネ弾を指して公共の安全をみだし、又は人の身体財産に甚大な損傷を与える可能性の大なる顕著な危険物ということはできない。さすれば本件ラムネ弾はその性能からみるも未だ以て罰則にいわゆる爆発物に該当するものでないことが明らかである。

(裁判長判事 万歳規矩楼 判事 武田清好 判事 小川武夫)

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