大判例

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大阪高等裁判所 昭和28年(う)1452号 判決

傷害罪が成立するには、暴行を加える意思があつて暴行を加えよつて傷害の結果が発生することを要する。そしてその暴行とは、人の身体に対する不法な一切の攻撃方法を言うのであるから、人の身体に対し不法な攻撃を加える意思がない場合には、たとえその相手方に傷害の結果が発生しても傷害罪とはならない。原判決の挙示する証拠に被告人の司法警察員に対する供述調書当審証人荻野正弘、同岩佐正に対する各証人尋問調書及び当審における検証調書の各記載を綜合すると、被告人は昭和二十八年五月四日午後十一時半頃、窃盗の目的で荻野義昭方居宅の裏勝手口から土間に侵入したところを、外出先から帰つて来た右義昭の弟正弘が発見し、被告人を現行犯人として逮捕しようとして被告人の胸ぐらをつかんだので、被告人は逮捕を免れようとして「家庭の事情もあり、子供もあることだから、勘忍してくれ」とあやまりながら逃げようとしたが、右荻野正弘が被告人の胸ぐらをつかんで離さなかつたので、同家裏勝手口から約七米の間同家庭先及び露路を後退し、竹籔に突き当つて、被告人が尻もちをつき、又起き上つてから、露路と畑との境の竹垣につまづいて、被告人と正弘との二人が同時に畑地内に顛倒し正弘が上になつて被告人を押えつけ、殴つたり蹴つたりしているところへ、岩佐正が応援にかけつけて被告人の首を締め、そこへ近隣の荻野某が来て、三人がかりで被告人を縛りあげたものであつて、荻野正弘の負傷は、同人が畑地内に顛倒した時にできたものであることを認め得られる。これに対し、原判決の事実認定によると、被告人は荻野正弘から「組みつかれたので逮捕を免れようとして組みつかれたまゝ右義昭方北側道路上を引きずり行き、自己と共に同人を附近畑地内に顛倒せしめ、因つて同人に対し、全治約二十日間を要する左前胸部打撲傷等を負わせた」というのであつて、被告人の暴行としては、荻野正弘に組みつかれたまゝ引きずつて行つて、自分とともに畑地内に顛倒させたということになるのであるが、事実は、被告人が陳謝しながら逃げようとして後退したのを、荻野が被告人の胸ぐらをつかんで離さなかつたため引きずられた結果になり、竹垣につまづいて同時に倒れたものであつて、被告人において、荻野の身体に対し不法の攻撃を加える意思があつたものとは認めがたいのである。記録中「格闘」とか「もみあう」等の用語が散見するけれども、これは単なる観念上の表現であつて、被告人に暴行の犯意のあつたことを認定する資料とするわけにはいかない。そうすると荻野正弘の身体に負傷の結果を生じたことは間違ないが、被告人に対して傷害罪の刑責を負わせることはできない。原判決はこの点において事実の認定を誤つており、その誤認が判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、論旨は理由あり、原判決は破棄を免れない。

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