大阪高等裁判所 昭和28年(う)1561号 判決
弁護人は、原判決は第一事実を認定して入札談合罪に問擬したけれども、入札談合は相当古くから公然と行われているところであるから、談合行為をすべて違法と断ずることはできない。本件落札価格は客観的に公正な価格であるから業者が公正な価格を害したとか、不正の利益を得たとかいうことはできない。また、たとえ談合金の授受があつたとしても落札価格が入札施行者の利益、すなわち入札予定価格に到達すれば本罪の成立を認めるべきではない。殊に被告人は本件入札に際し談合金のみを目的としたものではない。むしろ、得べかりし利益を抛棄したものである。落札者が請負により生ずべき予定利益を落札の祝儀として関係者に分配するのはいわゆる不正の利益ではない。原判決には法令の適用に誤があると主張する。
しかして、原判示第一事実はその挙示する証拠で認められ原審が右事実を刑法第九十六条ノ三第二項に問擬したことは明らかである。しかしながら談合行為は右法条に該当する場合にはすべて処罰の対象となるのであつて、一切の談合が処罰の対象になるものではないことは所論の通りである。たとえ公然と行われていたとしても右法条に該当する以上処罰は免れないのである。
刑法第九十六条ノ三第二項前段に「公正ナル価格」というのは、いわゆる客観的に公正な価格をいうのではなくて公正な自由競争に依つて当該入札において形成せらるべき落札価格をいい、(昭和十九年四月二十八月大審院第三刑事部判決)同項の談合罪は同項所定の目的、すなわち「公正ナル価格ヲ害シ又ハ不正ノ利益ヲ得ル目的」を以て公の機関の行う競売又は入札の適正な執行を妨害する虞ある協定を為すに依つて成立するのである。(昭和十九年九月九日大審院第二刑事部判決)従つて、たとえ所論のように本件落札価格が入札施行者の入札予定価格に達していたとしてもそれだけで直ちに同項前段の公正な価格を害していないとはいえないだけではなく、本件談合行為に不正の利益を得る目的が認められる以上後段談合罪の成立は免れない。右原判示によれば被告人は神戸市のなす土木建築工事の指名競争入札における入札人に指定されていた浜崎興業株式会社の取締役社長であるが、昭和二十四年九月一日同市施行の垂水小学校々舎増築工事の指名入札が行われるに際し、その数日前右会社営業所で右工事の指名競争入札人西口光雄から依頼せられ同人から被告人に金五万円を提供することを条件として同人に落札させることを承認し、同年八月三十日同所で同人から右談合金五万円の支払を受けるのと引換えに入札金額空白の工事入札書を交付して西口に落札せしめた上更に金一万六千円の談合金の交付を受け右入札に際し不正の利益を得る目的で談合したものである。従つて被告人の行為が右条項後段に該当すること明瞭である。論旨は独断にすぎない。