大判例

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大阪高等裁判所 昭和28年(う)1892号 判決

原判示事実は原判決の挙示する証拠によつてこれを認定するに十分である。また、原判決の採用する各証人の供述は、被告人の自白の補強証拠として十分である。弁護人は、本件のような代替物たる金銭の場合にあつては、受託者が一方において他人の委託金銭を自己の生活費に費消したとしても他方においてこれに代替すべき同数量の金銭を保有しているならば、その受託者は他人のために預つている金銭を不正に費消するという意識を有しないのであるから、被告人が本件の金切鋸歯の売却代金八百円を自己の生活費に費消した事実があつたからと言つてただちにこれをもつて不正領得の意思の実現たる行為があつたと認めることはできない、従つて原判決の罪となるべき事実とその証拠との間にくいちがいがある、と主張するについて案ずるに、代替物であつても、受託者において自由処分を許容されている場合でなければ、これを任意に処分することができないものであるから、委託者から用途を定められて金銭を預り占有する場合において、その委託の趣旨に反してこれを費消するにおいては、横領罪を構成することもちろんである。従つて、債権者から債権の取立を委任された被告人が、債務者から、債務の弁済に充当するため債務者の所有する物品の換価処分を依頼せられ、よつて換価した代金を預り保管中、これを債権者債務者のいずれにも交付せず、勝手に自己の生活費に費消した場合においては、その換価代金たる金銭が、換価と同時に債権者の所有に帰属するか、債権者に交付せられるまで債務者の所有として留保されるは、契約の内容によつて判断しなければならないが、そのいずれにしても、被告人が右の金員を勝手に費消するときは横領罪を構成することは明らかである。たゞ、所論のように、右の換価代金として受領した通貨を他の同額の通貨と代替して保管することは、社会通念上許容されているとみなければならないから、かような場合においては、被告人に不正領得の意思があるとは言えないことになり、横領罪を構成しないけれども、被告人において、右の換価代金を債権者又は債務者のいずれにも交付しない意思をもつて自己のために費消するときは、被告人に不正領得の意思の発現が認められることになり、たとえ金銭のような代替物であつても、横領罪が成立すると認めなければならない。前記の証拠によると、被告人は、高橋善一郎から同人の立花一郎に対する貸金一万円の取立を委任せられ、右の立花一郎に対して督促の結果、同人から債務の一部弁済に充てる趣旨の下に、同人所有の金切鋸歯六ダース入二箱を換価して債権者高橋に交付するよう依頼せられ、代金八百円で売却して右代金を預り保管中、これを前記の高橋及び立花のいずれも交付する意思なくして自己の生活費に費消したことが明らかであるから、被告人は、使途を限定されて預り保管中の金員を委託の趣旨に反して費消横領したことになるのである。従つて原判決には所論のような理由のくいちがいはない。もつとも原判決は、「右金八百円を自己の生活費に費消するため着服横領し」と判示しているけれども、本件は換価後費消するまでの間に領得の犯意を生じたと認定しないで費消横領と認定するを相当とするが、そのいずれにしても犯罪の成否並びに犯情に消長するところがないから判決に影響を及ぼすべき事実の誤認があることにはならない原判決には所論のような違法はないから、論旨は理由がない。

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