大阪高等裁判所 昭和28年(う)2442号 判決
(イ) 弁護人は、原判示第三の事実は被告人が福井等の依頼により同人等のためにその株金払込として銀行預金に振替え、第四の事実は吉田等の依頼により同人等のために住吉信用組合をして銀行預金に振替えしめる斡旋をしたにすぎないので、預金は現実に動かず帳簿の数字が動いたにすぎない。凡そ金銭の貸付には金銭の授受とその処分権の移転がなければならない。右第三、第四事実にはかような行為も意思もない。原判決は本件は金銭債権を取得せしめているから金銭授受の要件を具えていると解しているが右は事案の真相を把握せぬだけではなく原判決は処分権の付与についての考察を欠いている。株金保管証明書の利用関係が金銭の貸付と同一の経済的効用を有するから貸付に該当するものであれば融通手形も債務免除も金銭の貸付である。しかるに貸金業等の取締に関する法律第二条第二項は手形の割引のみを金銭の貸付とみなしていると主張する。
しかし、貸金業等の取締に関する法律第二条第二項によれば手形の割引、売渡担保、その他これらに類する方法によつてする金銭の交付は第一項の金銭の貸付とみなす、と規定しているのであるから、所論のように金銭の貸付には金銭の交付を必要とするのであつて、金銭の交付があればその処分権の付与があるのが通常である。しかし、金銭の交付があつたというのは、必ずしも現実に金銭を交付した場合だけに限るのでない。本件におけるように銀行預金債権を借主の名義とすることによつて、借主に同額の経済的利益を授与する場合も含むものと解するのが相当である。もつとも、本件の貸付は株金の払込が完了しているように見せかけるためにのみ使用するためのものであるから、他にこれを処分することのないような制限がついているものと認められるが、かかる制限は対内的の制限にすぎないのであつて、対外的には借主がその預金債権の処分権を取得したものと解すべきである。いいかえると、もし借主が右の制限に反して預金債権を他に処分しても、それは無効ではないのであつて、単に制限違反の責を貸主に対し負担するにすぎないのである。故に本件第三、第四の場合においても、法律上は金銭の交付があつたものと解すべきである。弁護人引例の融通手形の交付の場合でも、借主がその融通手形を利用して他から入手した金銭をもつて、貸主が借主に貸付けたものと認められる場合には金銭の貸付があつたものといえる。債務免除の場合には、金銭の交付と同視すべき行為が認められないから、金銭の貸付があつたものといえないこと当然である。
(後略)