大判例

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大阪高等裁判所 昭和28年(う)2552号 判決

検察官は、本件公訴事実は被告人は黒川工業株式会社労働組合長であるところ昭和二十七年七月十八日同会社々長黒川六造等と団体交渉をした際会社側に対し組合除名者三名の解雇方を迫つたがオープンシヨツプ制度を理由として拒否せられたので被告人において右黒川等に対し「職場では組合員と除名者の対立が激化して非常に危険な状態にある。会社で此の問題を放置しておけば職場に於て故意に硫酸、苛性曹達等の危険な薬品を抛り込んだり、合図なしにモーターのスイツチを入れたり、ギヤーの中に入つているとき蓋を閉めて蒸気をたいたりして危害を加え不測の事態が発生するかも知れん。その様な事態が発生する危険性があるからどうしても除名者を解雇せよ」等申向けて脅迫したというのであつて、原判決は被告人が右言辞を用いた事実を認めているのであるから脅迫罪に該当する。しかるに原判決が右は団体交渉に当つてその権利行使の範囲を逸脱したものとは認められないと説示して無罪の判決をしたのは刑法第三十五条労働組合法第一条第二項の解釈適用を誤つたものであると主張する。

しかし、その主張の理由のないことは原判決説示の通りであつて原判決には所論のような違法はない。

二について。

検察官は、原審で取調べた証拠によれば被告人が右言辞を用いたことが認められ、右言辞は会社財産に損害を加えることを内容とする害悪の告知である。従つて脅迫罪が成立すると主張する。しかして、検察官は原審公判において右言辞中「危害を加え」とは組合長自体が危害を加えるのではなくて組合長以下の者が被除名者に対して危害を加えるという意味であると釈明しているのであるから、本件公訴事実は組合長たる被告人が第三者たる組合員の行為による害悪の起るべき旨告知したことをもつて脅迫罪の成立ありとしていることが明らかである。

しかしながら、第三者の行為に因る害悪の告知によつて脅迫罪が成立するためには被告人において自己が第三者の害悪行為の決意に対し影響を与え得る地位にあることを相手方に知らしめることを要する。(昭和十年十一月二十二日大審院第四刑事部判決)すなわち、被告人が単に第三者の意思のみによる害悪を告知するのではなくて被告人が第三者をして害悪行為を為さしめる旨告知しなければならない。しかるに本件公訴事実の右言辞中には被告人が組合員をして害悪行為を為さしめる旨告知した趣旨はうかがわれないだけではなくむしろ単に組合員による害悪の危険のあるべきことを警告した趣旨を推知するに充分である。記録を精査してみても被告人が組合員を利用して害悪を生ぜしめる地位にあることを相手方に告知した事実を認めるに足る証拠はない。従つて原判決が被告人の右言辞を警告と解し脅迫罪の成立を否定したのは相当である。

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