大阪高等裁判所 昭和28年(う)439号 判決
弁護人は、本件起訴状には検察官の科刑意見の記載がある。右は審理に先だつて裁判官に予断を抱かせる内容を有するものであり、かかる許す法令の根拠もない。
右起訴状は刑事訴訟法第二百五十六条第六項に違反し本件公訴提起はその手続が無効である。従つて本件公訴は棄却せらるべきであると主張する。
しかして、本件起訴状に検察官の科刑意見として罰金五万円押収物件沒収の記載のあることはまさに所論の通りであるが、右起訴状によれば本件は公訴提起と同時に省略式命令をも併せ請求したものであることが明らかである。省略式命令の請求は被疑者が省略式手続によることについて異議がないときに限り、(刑事訴訟法第四百六十一条第二項)簡易裁判所に対しその管轄に属する事件につき公判手続を省略して省略式命令で罰金又は科刑に処せられたき旨の公訴に附帯する検察官の請求を指すのである。従つて刑事訴訟法が刑罰法令の適正な適用実現にある以上検察官が法律の適用について省略式命令請求書に意見を記載することは当然の責務であると言わねばならない。(刑事訴訟法第二百九十三条第一項参照)しかして、刑罰法令は刑罰の種類及び分量を抽象的に規定しているにすぎないのであるから公判手続を省略して省略式手続でその具体的な適用実現を請求する検察官は具体的刑罰の種類及び分量に関する意見をも右請求書に記載するのが当然であつて、かかる意見即ち科刑意見が法律の適用についての意見である。裁判所は毫も右省略式命令の請求に拘束せられないし、(刑事訴訟法第四百六十三条)被告人も自由に正式裁判の請求をすることができるのである。(同法第四百六十五条)しかも正式裁判においては省略式命令をした裁判官は当該事件の裁判から除斥せられるのである。(同法第二十条)されば右科刑意見の附記は正当であつて少しの違法もない。刑事訴訟法第二百五十六条第六項に違反する余地もない。所論は検察官の責務、省略式命令の性質を正解しない独断論である。