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大阪高等裁判所 昭和28年(う)477号 判決 1953年6月08日

主文

本件控訴を棄却する

理由

本件控訴の趣意は、本判決書末尾添附弁護人三宅岩之助作成の控訴趣意書記載のとおりである。

控訴趣意第一点について、

弁護人は、被告人の拡声機による放送は異常に大きな音と称する程度ではないにかかわらず、原判決がこれを軽犯罪法第一条第十四号に問擬したのは事実を誤認したものである、と主張するについて案ずるに、原判決が証拠として掲げる原審証人長谷川孝一、同沢田寛一、同小堀錬之助、同古川義光、同古川とら、同杉本実美の各供述を綜合すると、被告人は、豊岡市内の店舗において、録音機(テープレコーダー)に拡声機を取りつけ、近隣はもとより約二キロメートルをへだてる部落にまで達する異常に大きな高音で放送し、近隣の者に対し、電話による通話、客との商談、医師の診察その他の業務遂行に障害を与え、一般住民の神経を不断に剌し、迷惑をかけたことを認め得られる。豊岡市のような商店住家の混在する地方都市において、前記のような高音で録音放送をすることが、軽犯罪法第一条第十四号にいわゆる「ラジオなどの音を異常に大きく出した」ことに該当することは明白である。記録を精査しても原判決に事実誤認の点はない。

同第二点について、

本件記録及び原裁判所において取り調べた証拠を精査し、本件違反行為の動機、態様被告人の生活環境その他諸般の事情を考慮すると、被告人は、豊岡市大開通においてタンスその他家具類の販売業を営む者であるが、原判示の期間中、録音機に拡声機を取りつけ、連日午前八、九時頃から午後八、九時頃まで連続的に屋外に向け、自家の商業宣伝をはじめ、流行歌、素人のど自慢実況から、順宮が御婚儀に際し自家のタンスを買いに来られたというような無稽の事がらに至る雑多の内容を、異常に大きな高音で放送して、静穏を害し近隣に迷惑をかけるので、豊岡市警察職員は、住民の投書や訴えにより、被告人に対し直接又はその家族や従業員を通じて前後十二回にわたつて警告制止したが、被告人は反省の色なく、高音放送を継続し、その後数回にわたる警察職員からの出頭の求めにも応じなかつたことが明らかである。表現の自由は憲法の保障するところであつて、国民は商業宣伝の自由を有するけれども、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負うておるのである、弁護人は、被告人は大都市における宣伝放送を見学して来てこの程度の高音は大都市では通常行われているから違法ではないと確信していたと主張するけれども、拡声機による録音放送であつても放送地附近の状況と、放送内容、音量やその高低、放送時間等をにらみ合わせ、公共の福祉の範囲を逸脱しないようにしなければならないのであつて、自己の利益の追及に専念して共同生活者の利益を顧慮しないのは非常な誤りである。大都市の商業地域における商業放送においても近隣に迷惑を及ぼさないよう戒心すべきであるのに、商店住家の混在する地方都市において連続的に前記のような高音放送をして静穏を害し、近隣に迷惑をかけることはたとえ営業の宣伝放送であつても公共の福祉に反し違法であることもちろんであり、しかも前後十二回にわたつて警察職員の警告を受けたのであるから、被告人において違法の認識は十分にありながら反省しなかつたものと認めるほかはない。その犯情に照らし、原審が被告人を拘留十日に処したのは不当に重いとは言えない。論旨は理由がない。

よつて、刑事訴訟法第三百九十六条に従い主文のとおり判決する。

(裁判長判事 瀬谷信義 判事 山崎薰 西尾貢一)

<以下省略>

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