大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和29年(う)1460号 判決

所論は本件三〇万円については大阪相互銀行から現実に短期融資として借り受けたものでその払戻についても何らの制限等がなされていないから、商法第四九一条にいわゆる預合にはあたらないと主張するのである。

そこで原判決の挙示する証拠をしらべてみると、(一)桑田猛の司法警察員に対する第一回供述調書には「私は大阪相互銀行神戸支店長であるが、昭和二七年二月二八日午前一〇時頃被告人矢野薫明から扇港相互株式会社設立に要する払込金五〇万円の内三〇万円が二、三日遅れるゆえ内田敏名義の約束手形で三〇万円貸してほしい。その金は私の銀行に預金するからとのことであり、私としては貸し出すのではなく、預金するのであれば別条ないと思い貸した。そのとき手形に裏付があるかと尋ねると、別条ない二、三日中には必ず返すということであつた。当日午後二時頃矢野から払込金保管証明をしてくれとのことで、扇港相互株式会社設立払込事務を当銀行で取扱い払込金五〇万円を保管中であることを証明してやつた。その翌日預金係から、前日約束手形で貸した三〇万円は矢野が払出して銀行に返してくれたとの報告をきいた。つまり三〇万円を矢野に貸したのは、都合二日間で、利息は日歩五銭で三百円貰つたのであり、結局右三〇万円は設立登記をするための金であつたのである。」との記載があり、(二)被告人矢野薫明の司法警察員に対する第三回供述調書によると、「私や内田敏等八人で扇港相互株式会社を設立することになつたが、各人から払込をすぐ受けることが困難であつたので払込金五〇万円は一応私が払込んでおくことになつた。しかし私も二〇万円しかなかつたので、大阪相互銀行神戸支店長桑田猛に頼み、同銀行から昭和二七年二月二八日会社設立のため預金証明を貰う必要上、一時同銀行に預金するため内田の手形で日歩五銭で二、三日間三〇万円を借り、これを扇港相互株式会社社長内田敏名義で預金し即日同銀行から預金証明書を発行して貰い登記手続をした。このようにして預金証明を貰い登記もできたし、三〇万円の必要もなくなつたので翌二九日三〇万円の払戻を受けそのまま同銀行へ返済した。要するに右三〇万円は登記所に対する見せ金のような意味で預金証明書を貰う便宜上一日預金するだけのため借りたわけであり、これらの事情は私からよく話してあるので右桑田支店長はよく知つている筈である。」旨の記載があつて、さらに(三)原審第一回公判調書によると、検察官において「被告人両名は共謀して資本金五〇万円の扇港相互株式会社を設立しようと企て、全く株金払込がないのに払込を仮装するため、右銀行から三〇万円の短期融資を受け手持金二〇万円と共に大阪相互銀行神戸支店に預入れ支店長桑田猛から資本金五〇万円の払込金保管証を作成させ、登記後右三〇万円を返却して預合をした。」旨の商法違反に関する公訴事実を陳述したのに対し、被告人等において「全部間違なく認めます」と述べ原審弁護人Nもまた右の点については「被告人の陳述どおりである」旨陳述しているのである。これらの諸資料と、その余の原判決挙示の証拠により認められるように、右銀行が手形による三〇万円の貸付をするにあたり、日歩五銭の割合による二日分の利息三〇〇円の割引料を取得しただけで、手形の裏書もなければ物的担保もとらない等、銀行として回収確保について何らの首肯するに足る措置をとつていない事実とを総合すると、被告人等は扇港相互株式会社の設立を計画したが、設立登記をするについては登記所に提出すべき銀行の払込金保管証明書が必要であるところから、右銀行神戸支店長桑田猛に依頼した結果、証明書発行の日だけ預金があれば証明書の発行を受けることの了解を得、その目的で二日間だけ三〇万円を借受け、同銀行における右会社発起人総代内田猛名義口座の預金とし、払込金保管証明書の交付を受け、ついで翌日これが払戻を受け直ちに右借受金の弁済に充当したこと、右借受及別口預金については、二日分の割引金三〇〇円以外は全然金銭の現実の授受はなく、単に帳簿上の操作のみによることの了解のもとになされたものであり、従つて右銀行としては払込金保管事務を取扱う銀行の立場として預託を受けたものではなく、全く払込仮装手段としてのみの目的で単に帳簿上の操作を行つたに過ぎないものであることがそれぞれ窺われ、原判決の認定するところも畢竟その趣旨にほかならないものと解すべく、認録を精査しても原判決の認定が誤つているとの心証をひくに足るものなく、もとより所論の事実関係にあるものとは認めることができない。そして前記のような事実関係にある以上、被告人等の所為はまさに商法第四九一条にいわゆる「払込を仮装するための預合」行為に該当するものと解するのが相当であるから論旨はその理由がない。

(裁判長判事 荻野益三郎 判事 梶田幸治 判事 井関照夫)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!