大判例

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大阪高等裁判所 昭和29年(う)1706号 判決

本件控訴理由は記録添付の控訴趣意書の通りであるから、これを引用する。

検事は、原判決は本件強制猥褻の公訴事実に対して無罪の言渡をしたけれども、右は事実の誤認であると主張する。しかして、記録を調査するに本件起訴状によると、被告人両名は飲酒酪酊の上昭和二十五年三月十七日午後十時三十分頃富田林市字北別井の街路で通行中の川崎美代子を認め被告人繁雄は矢庭に同女の肩に手をかけ猥褻な振舞をせんとしたので同女が同所百二十番地泉谷スエ方に逃げ込んだところ両名共に同女を追跡し同家二畳の間で同女を仰向けに押倒した上夫々馬乗りとなり被告人利一は強いて同女の陰部に自己の手を挿入する等の暴行を加え被告人両名夫々猥褻の行為をしたというのである。原審は右公訴事実については犯罪の証明が充分でないと認め無罪の判決を言い渡したところ検事から控訴の申立があり、差戻前の当審で更に審理をした結果「被告人繁雄は右スエ及び同店の客辻野明夫外二名の面前において同家二畳の間の上り端に腰かけている右川崎美代子にその前方から抱きつき同女が仰向けに畳の上に倒れるや更に同女の上に乗りかゝつてゆき、被告人利一も亦被告人繁雄の背後に接着して同女の上に乗りかゝつてゆき以て被告人両名それぞれ公然猥褻の行為をした」ものと認めて、有罪の判決を言い渡したのである。しかしこの判決に対し被告人両名から上告の申立があり、最高裁判所は「本件行為の公然性を認めるに足る事実は何ら記載されていないばかりでなく、起訴状記載の罪名及び罰条に徴しても原判決の認定したような公然猥褻の点は本件において訴因として起訴されなかつたものと解するのが相当である。なお記録を精査してみても、本件において訴因また罰条につき追加変更の手続が適法になされたと認むべき資料はない。して見れば原判決は結局審判の請求を受けない事件について判決をした違法があるものといわなければならない」と説示して右判決を破棄し、当審に差し戻した。そこで差戻後の当審公判において検事は予備的に訴因及び罰条の追加を申立て(一)本件起訴状中罪名及び罰条の部の刑法第百七十六条の外に同法第二百八条(請求書に同法第百八条とあるのは誤記と認める)を加え、(二)予備的に右差戻前の当審の判決と同旨の訴因及び刑法第百七十四条を追加したのである。しかして(一)強制猥褻罪すなわち刑法第百七十六条の罪は「暴行又ハ脅迫ヲ以テ猥褻ノ行為ヲ為」すによつて成立するのであるから、その事実には当然に単純暴行の事実も含まれているものといえる。従つて検事が本件強制猥褻の行為中暴行の事実だけを捉え猥褻の点に触れずに刑法第二百八条違反の罪として処罰を求めても少しも非難せられる理由はない。予備的主張の暴行罪は本件強制猥褻罪の訴因事実に含まれているものといわなければならない。(二)更に検事の公然褻褻罪としての訴因及び罰条の追加について考察するに右両訴因はともに被告人両名が被害者川崎美代子に猥褻の行為をしたというのであつて、その具体的事実は先に引用したように同一である。かような場合には、両訴因は基本的事実関係を同じくするものと解すべきこと固より当然であるから公訴事実の同一性の範囲内に属するものといわなければならない。

よつて当裁判所は更に進んで本件事案の内容を究明するに、被告人繁雄の検察事務官に対する供述調書、傍観者泉谷スエ、同じく傍観者辻野明夫及び被害者川崎美代子の各原審公判の供述、同人等に対する差戻前の当審の各証人尋問調書を綜合すると被告人両名は親戚の棟上げで祝酒を一合余り飲んで共に喫茶店に行くつもりで北別井の街道を歩いていた、それは昭和二十五年三月十七日午後十時半頃であつた、偶々先方から馴染のある女給の川崎美代子(当二十二年)が来るのに出会い被告人繁雄が美代子をからかつているうちに同女がうどん屋の泉谷スエ方に逃げこんだので被告人利一と二人で後から同女を追うて入つた、被告人繁雄は同家二畳の間で美代子の肩に手をかけたりしていたが酒の勢いで美代子に抱きついたら同女が仰向けに倒れたので同被告人はその上に乗つた、被告人利一も繁雄の後から同人の背後に接着して同女の上に乗りかゝつて行つた事実が認められる。右被告人両名の行為が被害者川崎美代子の意思に反していた事実も右証拠によつて明らかである。ところで、刑法第百七十四条乃至第百七十六条にいわゆる猥褻とは徒らに性欲を興奮又は刺戟せしめ、且つ普通人の正常な性的羞恥心を害し善良な性的道義観念に反することをいう(昭和二十七年四月一日最高裁判所第三小法廷判決)のであるが、前段で認定したように、仰向けに倒れている女子の上に二人の男子が前後に相接着して馬乗りになるという行為自体は、普通の性的行為を実行する体勢ではなく、また直ちに性的行為を連想せしめる行為でもない(被告人利一が被害者の陰部に手を入れたとの事実は証明十分でなく、また被告人等の方で自己の衣類をまくるなどして性的行為に着手しようとするような態度を示していた事実もない)。目撃証人泉谷スエ、同辻野明夫の両名も「ほたえている」と思つたと供述している程度である。以上説明のような事情の下における被告人等の行為は飲酒酩酊の上予てから馴染の間柄である被害者川崎美代子に一方的に悪ふざけをしたにすぎないものと認められ、いまだ猥褻行為であると断ずる程度に達しないものと認めるのが相当である。従つて本件事案の証明の程度では強制猥褻または公然猥褻のいずれの罪にも該当しないものというべきである。しかしながら右認定のように、被告人両名が酒の勢で逃げる美代子を追うて飲食店泉谷方に入り同女の意思に反し偶々仰向けに倒れた同女の上に乗りかかつた行為は社会通念によつて可罰性を認められない程度を超え、刑法上の暴行罪を構成するに足るものといわなければならない。しかして右暴行が本件強制猥褻の訴因の範囲内であることは右に説明した通りであるから無罪を言い渡した原判決は破棄を免れないが、当審で直ちに判決できるものと認め刑事訴訟法第三百九十七条第四百条但書を適用して次の通り判決する。

一、罪となるべき事実

被告人両名は飲酒酩酊の上昭和二十五年三月十七日午後十時三十分頃富田林市北別井の街路上で偶々出会つた馴染の喫茶店の女給川崎美代子(当二十二年)をからかい、同女が逃げるのを追うて同所百二十番地飲食店泉谷スエ方に入り同家二畳の間の上り端附近で、被告人繁雄は美代子の前方から抱きつき同女が仰向けに畳の上に倒れたところ更にその上に乗りかゝつてゆき、被告人利一も被告人繁雄の背後に接着して同女の上に乗りかゝつてゆき、それぞれ右美代子に対し暴行を加えたものである。

二、証拠(省略)

三、適条(省略)

(裁判長判事 斎藤朔郎 判事 松本圭三 判事 網田覚一)

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