大判例

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大阪高等裁判所 昭和29年(う)1838号 判決

原判示事実は、原判決の挙示する証拠によつてこれを認めるに十分である。弁護人は、本件の被害物品は、市場の出口の道路の傍に放置してあつたもので被害者の所持を離れた占有離脱物であるから、これを持ち帰つても窃盗罪とはならない、と主張するについて案ずるに、人がその所有物を道路上に置いて一時その場所を去つた場合において、所有者がその存在を認識しており、かつこれを抛棄する意思でなかつたときはその物は所有者の支配内を離脱したものでないから、他人がこれを不法にその支配内に移したときには、その行為は窃盗罪に該当するのである。原判決の援用する証拠によると、本件の被害者中谷安枝は、鶴橋市場において、塩さばほか食品類十一点を購入して竹籠に入れ上から風呂敷をかぶせ、これを原判示近鉄鶴橋駅東口ガード下附近の道路ばたに置き、他の店に預けてあつた品物を取りに行つて引き返して来るまでの間に、被告人は、その竹籠及び在中物を、領得の意思をもつて、現場から約一町はなれた共同便所の横に持つて行き、被告人の持つていた竹籠に詰めかえて同所から出て来たところで逮捕されたことを認め得られる。すなわち、被害者は、右物品の存在を認識しとくにその場に置いて一時そこを立ち去つたに過ぎないから、同人は右の物に対する所持を失つていないと言うべく被告人もその現場の状況から見て所有者の支配内を離脱したものと考えたとは認められないのである。従つて、被告人の行為が窃盗罪に該当することは明らかである。次に、弁護人は、被告人が逮捕されたときには判示の物品は被告人の実力支配に入つていないから本件は未遂罪である、と主張するけれども、被告人が右に説明したような経過の下に右の物品を自己の支配内に移したことは明白である。論旨はいずれも理由がない。

(裁判長判事 松本圭三 判事 山崎薫 判事 西尾貢一)

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