大判例

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大阪高等裁判所 昭和29年(う)2212号 判決

検事は、原判決は物品税法第三条の物品の価格は実際の販売価格ではなくて、公定価格のある場合にはその価格によるべきものであるとの解釈の下に本件逋脱税額を認定しているのである。しかしながら右価格は常に現実の取引価格を基準としなければならないものであることはすでに最高裁判所の判例の存するところである(昭和二八年一月八日第一小法廷決定)。従つて右第三条の価格の解釈の誤を前提とする原判決にはこれに基く事実の誤認と量刑の不当があると主張する。

よつて原判決を調査すると原判決が物品税法第三条第一項(昭和二四年一二月二七日法律第二八六号による改正前のもの以下同じ)の「物品ノ価格」を公定価格の意に解して事実の認定と刑の量定をしていることが明らかである。しかして物品税は物品に対して課せられるものであつて(物品税法第一条)、その税率は物品の価格によるべきものと定められ(同法第二条)、右課税標準価格は同法第三条第一項により「製造場ヨリ移出スル時ノ物品ノ価格」と規定され、物品税は製造場より移出せられた物品の価格に応じ製造者から徴収することとなつているのであるが(同法第四条)、右第三条第一項但書によると同法第一条第一項第七十二号に掲げる物品に限り右価格は小売業者の販売価格とし、物品税は現実に販売せられた物品の価格に応じて小売業者より徴収することに定められているのである。

すなわち右第三条第一項はその但書に該当する物品については特に現実に販売せられた価格をもつて右物品の価格と定めているのであるから右「製造場ヨリ移出スル時ノ物品ノ価格」は検事所論のように常に現実の取引価格であるとはいえないことが明文上も明らかなことである。しかも本件書記用インキの価格を公定した昭和二十二年十月二十一日物価庁告示第八百八十六号(三)及び昭和二十三年十月二十九日同庁告示第千八十号(四)所定の販売条件によると「この表の統制額は物品税を含んでいる」と定められ、当該物品の適正な税金が右製造業者販売価格の統制額の中に加算されているのである。従つて統制額のある本件のような物品については右統制額以上に現実に取引された場合においても製造者は右所定の税金を納付すれば足り、その範囲内で逋脱の責任を負わなければならないけれども、右所定物品税以上に逋税行為のあるべきいわれはないのである。蓋し物品税は物品に対して課せられるものであつて製造者の利得に対して課せられるものでないからである。しかして、もし製造者が統制額を超えて取引して不当な利得をしたとしてもその所得金額については所得を対象とした他の税金が課せられるのであるから製造者の不当な利得を見逃すことにはならないのである。記録について調査してみると原判決は先ず本件インキの製造業者販売価格の統制額を移出価格として算出し、右は物品税を包含しているのでこれを控除して課税標準価格を算定した上所定の物品税を計算し、被告会社がすでに納入した税額を差し引いて本件逋脱税額を算定しているのである。原判決には所論のような解釈上の誤はない。従つて右所論を前提とする検事の主張はすべて理由がない。(但し原判決には後述の計算上の誤はある。)

なお、検事は昭和二十八年一月八日最高裁判所第一小法廷決定を本件に援用している。しかして同決定によると物品税法第三条第一項の物品の価格は現実の取引価格を課税の基準とすべきものと思料すると説示していることは検事所論の通りであるけれども、同決定(判例集に登載せられていない)は上告趣意書に記載された上告の申立の理由が、明かに上告の理由に該当しないことを理由として上告を棄却しているに過ぎないものであつて、その傍論として述べていることについては何等の理由をも明示していないので、その点を判例として尊重できない。

(裁判長判事 斎藤朔郎 判事 網田覚一 判事 小泉敏次)

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