大阪高等裁判所 昭和29年(う)247号 判決
原判決は、証拠として一、被告人の当公廷における供述一、周清秀の司法巡査に対する第一回供述調書一、被告人に対する前科照会書を掲げている。そして被告人が本件の中古二輪運搬用自転車一台が賍物であることを知つていたことの証拠としては、被告人の当公廷における供述だけであつて、その内容は、原審第一回公判手続調書中、被告事件に対する陳述として「被告人及弁護人、其の通り相違なく別に陳述する事はありません」という記載と、第一回公判供述調書中、裁判官の「鑑札の事は其の時気が附いたのか」という問に対し「いゝえ、其の男は何日も自転車に乗つているし其の男の物と信じて居りました」という記載があるだけである。すなわち、被告事件についての陳述としては犯罪事実全部を認めているようであるが、その詳細な問答においては認識の点を否認しているのである。かような場合において、原判決のいわゆる「被告人の当公廷における供述」というのは、前者の意味であつて、後者を排除する趣旨であると解するわけにはいかない。右のように前後むじゆんし趣旨いずれにあるか不明の供述をもつて事実認定の証拠としたのは、判決の事実理由と証拠理由との間にくいちがいがある場合にあたると言わねばならない。論旨は理由あり、原判決は破棄を免れない。