大阪高等裁判所 昭和29年(ネ)113号 判決
被控訴人は控訴人に対し金二、〇〇〇、〇〇〇円及びこれに対する昭和二七年七月一八日から完済まで年六分の金員を支払わなければならない。
訴訟費用は第一、第二審を通じて控訴人と被控訴人との間に生じた分は被控訴人の負担とし、控訴人と被控訴人補助参加人との間に生じた分は被控訴人補助参加人の負担とする。
この判決は控訴人において金六〇〇、〇〇〇円の担保を供するときは、仮りに執行することができる。
二、事 実
控訴代理人は原判決を取り消す。被控訴人は控訴人に対し金二、〇〇〇、〇〇〇円、およびこれに対する昭和二七年七月一八日から完済まで年六分の金員を支払わなければならない。訴訟費用は第一、第二審とも被控訴人の負担とする旨の判決、ならびに仮執行の宣言を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上の陳述、証拠の提出、認否、援用は控訴代理人において被控訴人の代理人として本件手形に保証をした被控訴人会社の桜井支店長であつた堀江文雄に右手形保証をなすについて被控訴人を代理する権限がなかつたとしても、これにもとづく抗弁は単なる人的抗弁に過ぎず、本件手形を控訴人に譲渡した米国人バヌーバーは善意で右手形を取得し、前記人的抗弁を以て対抗をうけることのない完全な手形上の権利を取得したものであつて、右バヌーバーから右手形の譲渡を受けた控訴人も亦完全な手形上の権利を取得し、控訴人において右抗弁事実を知つて手形を取得したとしても、完全なる手形上の権利者であることに変りがないと述べ<立証省略>、被控訴代理人において被控訴人の代理人として本件手形に保証した被控訴人会社桜井支店長堀江文雄には、手形保証をなすについて被控訴人を代理する権限がなかつたもので、右無権代理行為にもとづく抗弁はいわゆる物的抗弁であつて右事実を知つて本件手形を取得したすべてのものに対し主張しうべく、控訴人の主張は失当である。なお控訴人が被控訴人会社桜井支店長堀江文雄において本件手形保証をなすについて真実手形保証をなす意思のなかつたことを知つて右手形を取得したことは控訴人の認めて争わないところである(控訴人提出の昭和二九年一〇月六日附準備書面参照)から右自白を援用すると述べ<立証省略>た外、原判決事実摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する。
三、理 由
甲第一号証(記録中D甲第一号と称するもの)中満期支払拒絶に関する補箋の記載部分の成立に争なく、手形保証に関する補箋の記載部分については被控訴人会社桜井支店長堀江文雄名下の印影および契印の成立に争がないので、同記載部分は一応全部真正に成立したものと推定し、その余の部分については原審における証人坂本逸、伊藤貞市の各証言、原告本人の供述、当審における控訴本人(本件を併合審理した当庁昭和二九年(ネ)第一一七号事件の控訴人)小川一義の供述により真正に成立したものと認められるので、右甲第一号証に右各証言ならびに供述を綜合すると、小川一義(通称雅庸)は昭和二七年五月一九日金額二〇〇万円満期同年七月一七日その他手形記載要件控訴人主張の如き約束手形一通を受取人白地にて振出し、その頃同人のため松本紡績株式会社から綿糸の買付を斡旋していた三晃繊維工業株式会社に対し右買付代金の支払に充てるため預けたところ、右売買が不調に終り、三晃繊維株式会社において小川一義に返還すべき右手形をその後株式会社小田栄吉商店に白地裏書により譲渡し、次いで同商店から昭和二七年六月二三日頃白地を補充しないで手形の引渡により米国人バヌーバーに譲渡し、更に同人から手形の引渡により被訴人が右手形の譲渡を受けて、その白地部分を補充し、現に控訴人が右手形の所持人であること、および本件手形の振出人である小川一義は被控訴人会社桜井支店との間に当座預金取引があつた外同支店長堀江文雄から自己の振出した約束手形に手形保証を受けたこともあつた関係上、本件手形外十数通の手形によつて物資を買い受け或は他から金融を受けたときは、その半額を同支店に預金する約定の下に本件手形外十数通の手形に手形保証を為すことを懇請した結果、被控訴人会社桜井支店長堀江文雄において被控訴人の代理人として昭和二七年五月一六日振出人小川一義のため右手形に手形保証をなしたことが認められ、原審証人堀江文雄、寺島孝、森正已の各証言中右認定に牴触する部分は信用しがたく他に右認定をくつがえすに足る証拠がない。
被控訴人は先ず被控訴人会社桜井支店長堀江文雄において小川一義の懇請により同人の取引について見本として呈示した上直ちに返還する約定の下に右手形保証を為したもので、真実手形保証をなすの意思なく、手形保証としての効力がないと主張するが、右手形保証に関する補箋には単に手形金の支払を保証する旨の文言が記載せられ、右の如き約定の下に手形保証のなされたことを知ることができないばかりでなく、真実手形保証のなされたことは前段認定のとおりであり、仮りに右の如き約定の下に手形保証がなされたものとするも、右は悪意の手形取得者に対する人的抗弁となるに過ぎず、而も控訴人において右事実を知つて手形を取得したことについて、被控訴人は控訴人の自白を援用するも、控訴人提出の昭和二九年一〇月七日附準備書面の記載によるも、かかる事実の自白があつたものとは認められず、その他右事実を認むべき証拠が何もないので、被控訴人において右事由を以て控訴人に対抗することができず、右主張はその理由がない。
被控訴人は次に被控訴人会社桜井支店長堀江文雄には本件手形保証をなすについて被控訴人を代理する権限がなく、控訴人は右事実を知つて本件手形を取得したものであり、仮りに右事実を知らなかつたとするも重大な過失によつて知らなかつたものであるから、控訴人に対し被控訴人に手形保証の責任がないと主張するに対し、控訴人は右事実を否認し、堀江文雄は被控訴人会社桜井支店長であり、同支店の営業の主任者であることを示す名称を附した使用人であつて、いわゆる表見支配人であり、右支店の営業に関する限り支配人と同一の権限を有するものと看做すべきで、仮令これを制限したとしても善意の第三者である控訴人に対抗しえないものである。仮に被控訴人会社桜井支店長堀江文雄に本件手形保証をなすについて被控訴人を代理する権限がなかつたとしても、これにもとづく抗弁は単なる人的抗弁に過ぎず、善意で本件手形を取得したバヌーバーから右手形の譲渡を受けた控訴人において仮令右事実を知つて手形を取得したとしても完全なる手形上の権利者であることに変りがないと主張するので考えるに、本件手形保証は被控訴人会社の桜井支店長であつた堀江文雄において被控訴人の代理人として振出人小川一義のため為したものであることは前記認定のとおりであるから、堀江文雄は表見支配人として被控訴人に代り被訴人会社桜井支店の営業に関する一切の裁判外の行為を為す権限を有するものとみなすべく、また前記認定の如き事情の下になされた本件手形保証の如きは一般に同支店の営業に関する行為に包含せられるものと解するを相当とし、被控訴人においてその行則によつて同支店長に対し手形保証を含む一切の保証をなすことを禁止したとするも、右代理権の制限を以て善意の第三者に対抗しえないものと解すべきところ、本件手形上受取人と記載せられた三晃繊維株式会社は勿論同会社から白地裏書により右手形を譲受けた株式会社小田栄吉商店が右代理権の制限を知つて右手形を取得したことを認むべき証拠は何もなく、被控訴人のような相互銀行の支店長だからといつて、手形保証をなす権限のないことが一般取引界の実情に照らし明白だとはいいがたく、また被控訴人において昭和二七年五月二八日日本経済新聞紙上に堀江文雄の本件手形保証行為はその権限外の行為で無効である旨を公告したとしても、すべての経済関係者が右新聞を購読すべき筋合のものでなく、かつ購読していたとしてもすべての記事に注意すべきものでもないから、右公告をしたことによつて右代理権の制限を知らなかつたことに重大な過失があるものともなしがたいので、被控訴人は同人等に対し右制限を以て対抗しえないものといわなければならない。尤も本件手形上受取人と記載せられた三晃繊維工業株式会社は振出人小川一義から右手形を預つたもので手形上の権利を取得しえないものではあるが、同人から白地裏書により右手形の譲渡を受けた株式会社小田栄吉商店においてその前者である三晃繊維工業株式会社が手形上無権利者であることについて悪意または重大な過失によつて手形を取得したことの主張立証のない本件にあつては同商店が最初に本件手形上の権利を取得したものであり、右代理権の制限あることを知らないで右手形を取得した同商店に対し被控訴人において本件手形保証責任を免れえないものというべく、そうだとすれば爾後本件手形を適法に取得するものは株式会社小田栄吉商店の権利を承継するものであつて、右代理権の制限につき善意たると悪意たるとを問わず、本件手形保証の有効なることを主張し、手形保証人たる被控訴人に対しその保証債務の履行を請求しうるものと解するを相当とする(大正一四年三月一二日言渡大正一三年(オ)第六〇一号大審院判決参照)。控訴人が本件手形所持人として満期支払場所に支払のため右手形を呈示しその支払を拒絶せられたことは被控訴人の認めて争わないところであるから、被控訴人は控訴人に対し右手形金二、〇〇〇、〇〇〇円およびこれに対する満期の翌日たる昭和二七年七月一八日から完済まで手形法所定の年六分の利息金の支払をなすべき義務あるもので、これが履行を求める控訴人の請求は正当として認容し、これに反する原判決は失当として取消し、訴訟費用の負担につき民訴法第九六条、第八九条、第九四条、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 吉村正道 大田外一 金田宇佐夫)