大阪高等裁判所 昭和29年(ネ)818号 判決 1954年12月24日
京都市上京区小川通寺の内上る二丁目禪昌院町六三一番地
育子こと
控訴人
平沢ハナ子
右訴訟代理人弁護士
小林為太郎
被控訴人
国
右代表者法務大臣
花村四郎
右指定代理人
星智孝
葛野俊一
朝山崇
右当事者間の損害賠償請求控訴事件について当裁判所は次のとおり判決する。
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人は、「原判決を取り消す、被控訴人は控訴人に対し金二十五万円を支払え、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」という判決を求め、被控訴代理人は、主文と同じ判決を求めた。
当事者双方の事実上の陳述及び証拠関係は、控訴代理人において、甲第一四号証、同第一五号証の一乃至七を提出し、原審証人吉川稔、当審証人平沢ハルこと平沢はな、同平沢政治郎の各証言並びに当審における控訴人本人尋問の結果を援用し、被控訴代理人において右甲第一四号証及び同第一五号各証の成立を認めると述べたほか、原判決の事実摘示と同じであるから、それを引用する。
理由
控訴人は、訴外合資会社平沢商店に対する国税滞納処分として、京都市上京税務署勤務大蔵事務官訴外芦田貞一が同署長訴外富田辰次の命により昭和二六年一〇月二五日に差押え且右富田署長が同年一一月一五日に公売したマツダ五〇年型自動三輪車(京第六六五三号)は右訴外会社の所有ではなくして控訴人の所有に属するものであると主張するので、按ずるに、なるほど成立に争のない甲第三乃至第一二号証によると、右自動三輪車の登録名義は控訴人の名義になつており、且つ訴外会社の財産目録等にはその財産として記載されていないことが明らかであるけれども右訴外合資会社平沢商店は酒類、醤油等の販売を業とし、その代表社員は控訴人の夫訴外平沢政治郎であり、控訴人は同会社の有限責任社員であること、本件自動三輪車の購入代金はすべて訴外平沢政治郎の銀行当座預金口座より支出されていること、右訴外会社の銀行取引はすべて右政治郎の銀行当座預金口座によつてなされていること、本件自動三輪車登録の際使用目的を訴外会社の営業用として届出で、実際上もこれを訴外会社の営業用に使用していたこと、控訴人と訴外会社との間に右自動三輪車の賃貸借若しは使用貸借等の契約関係を結んでいなかつたこと、訴外会社において右自動三輪車の修繕費、油代を負担支払つていたことは当事者間に争がなく、訴外会社は控訴人の夫を代表社員として家族、親族のみで組織されたいわゆる個人会社であり、控訴人は他に職業を有せず専ら夫をたすけて訴外会社の営業に関与し殊に夫病中は夫に代つて会社の営業を事実上切り廻していたことは原審における証人奥村清太郎、同岡本イト、同平沢喜久三の各証言及び控訴人本人尋問の結果に徴してこれをうかがうことができるのであつて、これらの事実をかれこれ綜合すると、本件滞納処分当時本件自動三輪車は、形式上はともかく実際上は、訴外会社の所有に属し、控訴人の個人所有に属していなかつたものと認めるのが相当である。
右認定に反する原審証人山代春彦、同岡本イトの各証言、原審並びに当審における証人平沢ハルこと平沢はな、同平沢政治郎の各証言及び控訴人本人尋問の結果はにわかに信用しがたいところであり、他に右認定を左右するに足る証拠がない。
そうだとすると、本件自動三輪車が控訴人の所有に属することを前提として被告に対し所有権侵害に基く損害賠償を求める控訴人の本訴請求は爾余の判断をまつまでもなく失当であることが明らかであり、これと同趣旨の判定をした原判決は相当であるから民訴三八四条、九五条、八九条を適用して主文のとおり判決をする。
(裁判長判事 林平八郎 判事 竹中義郎 判事 入江菊之助)