大阪高等裁判所 昭和30年(う)1434号 判決
先ず職権を以て案ずるに、原判決摘示事実は要するに、被告人は昭和二十二年五月二日外国人登録令施行の際現に本邦に在留する外国人(朝鮮人)であつたところ、その際同令附則第二項同令第四条所定の登録の申請をなさず、昭和二十七年四月二十八日外国人登録法施行の際にも同法第三条所定の登録証明書の交付の申請をなさずして引続き今日まで本邦に在留しているものである旨を認定した趣旨であつて、これに対し外国人登録法附則第三項により同法による廃止前の外国人登録令の規定(昭和二十四年十二月三日政令第三八一号附則第七項、同政令による改正前の外国人登録令附則第二項第三項同令第十一条第一項第十二条第二号)を適用処断しているのである。そもそも外国人登録令第四条と外国人登録法第三条とは規定の文言が異つてはいるが、いずれも本邦に在留する外国人の公正な管理に資するために、外国人に対し所定の申請義務を課したものであつて、全然別個の義務を規定したものではない。
よつて外国人登録令は廃止せられたけれども右申請義務は外国人登録法が引続き規定したものと解すべきである。
しかして外国人登録令附則第三項に基く申請義務違反の罪が即時犯か継続犯かは議論の別れるところであるが、これを継続犯(最高裁判所昭和二十八年五月十四日第一小法廷判例集七巻五号一〇二六頁)とみる以上原判示の如く外国人登録令施行当時より外国人登録法施行後に亘り引続き右申請義務に違反した所為は一個の犯罪が継続しその途中において法令の改正があつたものというべきである。かくの如く単純一罪が新旧両法に跨りて行はれたときは新法のみを適用すべきもの(最高裁判所昭和二十七年九月二十五日第一小法廷判決、集六巻八号一〇九三頁大審院昭和九年六月二十三日第三刑事部判決、集十三巻八七三頁)であるから、被告人の判示所為に対しては外国人登録法を適用すべきものであつて外国人登録令を適用すべきものではない。(名古屋高裁昭和二十八年十二月十五日第四部判決、集六巻追録一九二九頁)。もし外国人登録令施行当時所定の申請をしなかつた罪には同令のみを適用すべきものであるとの解釈をとるならば、同令は昭和二十七年四月二十八日廃止せられたので同日以後同令に基く申請義務が継続する理由がないから、同日を以て同罪は終了し、公訴時効も同日より進行すべきものであるところ、被告人に対しては時効期間三年を経過した後である昭和三十年五月二十五日本件公訴を提起せられたものであるから、免訴の言渡をなすべき場合である。しかし原判決は前示の如く旧令時代の犯罪のみを認定したものではなくて、旧令より新法に跨る犯罪を判示事実として認定しているのであり、只かかる場合にも旧令のみを適用すべきものとの解釈に基き旧令を適用したものと解せられる。しからば原判決は前段説明のとおり法令の適用を誤つたものでその誤が判決に影響することが明らかであるから、弁護人所論の判断をまつまでもなく、刑事訴訟法第三百九十七条第一項第三百八十条により原判決を破棄する。
しかして同法第四百条但書により判決するに、原判決が証拠により確定した被告人の所為は外国人登録法第十八条第一項第一号第三条第一項に該当するから、懲役刑を選択し、所定刑期範囲内において弁護人の所論を考慮して、被告人を懲役二月に処し、訴訟費用は刑事訴訟法第百八十一条第一項本文により被告人をして負担せしむ。
(裁判長判事 岡利裕 判事 国政真男 判事 石丸弘衛)