大阪高等裁判所 昭和30年(う)54号 判決
弁護人は、原判決が、判示第一の業務上横領並びに第二の詐欺の事実はそれぞれ包括一罪と認めるべきであるにかかわらず、これを各事実ごとに一個の犯罪と認定したのは、事実の誤認であり、且つ判決に理由を附さなかつた違法があると主張するについて案ずるに、犯罪の個数を定める標準として、行為説、結果説(法益説)、意思説等諸説があるけれども、いずれかその一方に偏せず、犯行の日時場所の関係、被害法益及び意思の単複等具体的事情を勘案し、法令の趣旨に適合するよう解釈運用されなければならない。業務上横領罪は、継続して同一の業務に従事する身分を有することを前提としているから、占有状態が同一であり、且つ単一若しくは継続した意思の発動として領得行為が接着して行われた場合には、たとえその具体的行為が数個であつても、これを包括して観察し、一罪と認定するのを相当とする。原判示事実と原判決の挙示する証拠とを照合すれば、被告人は、岸和田市役所吏員として同市商工課に勤務し、同課において、岸和田市内在住の中小企業者の金融を円滑にするため、昭和二十五年六月十日同課の事務の一部として岸和田市中小企業金融互助会を結成した後は、同会の事務担当者として同会の金銭出納等一切の業務に従事していたところ、昭和二十七年十一月頃から昭和二十八年三月頃までの間、前後五十八回にわたり、会員馬野教太郎ほか五十二名から、同会を経由して銀行に払いこむため被告人の手許に一括して預つていた融資返済金を、大阪市内又は岸和田市内等において、自己の遊興費や競輪の資金、その他自己の勝手な用途に流用するため、持ち出して費消横領したというのであつて、原判決の一覧表の一には、融資金返済者の氏名、保管の年月日、返済金額を掲げてあり、判文には一覧表記載の日時頃費消横領したと記載しているけれども、記録上何時何処で幾許の金員を費消したのか、これを確定する資料がない。かような場合においては、業務上占有する状態が同一であり、且つ単一若しくは継続した意思の発動として領得行為が接着して行われたものであるから、これを包括して観察し、一罪と認定するべきである。そして補強証拠の関係において、包括一罪の場合には、これを構成する各行為が存在するけれども、全体として一個の犯罪行為と見られるものであるから、包括せられる数個の行為又は結果の主要部分について補強証拠があれば全体として補強証拠があると解するべきである。本件において、原判決の挙示する証拠を検討すると、右の意味でならば被告人の自白とこれを補強するに足りる証拠とが存在するのであるから、被告人の横領行為を一罪と認定すれば、証拠法則にも合致することになるのである。然るに原判決の趣旨とするところは、各別に横領罪が成立すると判断したものと解するべきであるから、この点において、原判決は事実を誤認したものというべきである。しかし、原判示第二の詐欺については、原判決の認定するように、藤原良三ほか十三名の名義を使用して各別に無効の融資申込書類を作成し、これを有効な融資申込書類の如く装うて株式会社泉州銀行に各提出し、同係員を欺罔してそれぞれ金員を交付させたのであるから、そのたびに独立の詐欺罪が成立すると解するべきである。従つて原判決がこれを併合罪と判断したのは正当である。そして、原判決は、刑法第四十五条前段、第四十七条、第十条により犯情最も重い原判示第二の別紙一覧表の二の14項の詐欺罪の刑に併合罪の加重をしているので、原判示第一の業務上横領罪を、併合罪と解しても一罪と解しても、処断刑並びに犯情にも何らの消長を及ぼさないから、前段説示の事実の誤認は判決に影響を及ぼさないと言うべきである。論旨は結局理由がない。
(裁判長判事 松本圭三 判事 山崎薫 判事 西尾貢一)