大阪高等裁判所 昭和30年(ネ)1416号 判決
大和信用金庫
証拠によると、Aが昭和二九年六月二五日被控訴人(被告)の名を記しその名下に被控訴人の印章を押し、B外一名と共同して、控訴人(原告信用金庫)の主張するような約束手形二通を振り出したことが認められる。控訴人はAのした右手形振出行為は被控訴人から附与された代理権限に基くものであると主張するけれども、証拠によると、Aのした、右記名押印は、Aがその友人の父であり、又被控訴人(Aの父)の営業上の知合先であるBから、Bにおいて控訴人から金融を受けるについて手形の共同振出人として被控訴人の名を列らねられたき旨懇請され、これを断りきれずに、被控訴人に無断で、被控訴人がかねて三和銀行高田支店との銀行取引に用いている印章を持ち出し、これを使用してなしたものであつて、被控訴人において何等関知することなく、勿論その印章をAに交付したことは全くなかつたことが認められるから、Aのなした右記名押印による手形振出行為はAが代理権限なくしてなしたものというべく、控訴人の右主張は採用することができない。
次に、控訴人は、被控訴人はその三男であるAに家業の靴下製造販売業務の一部を担当させ物品の販売購入、取引銀行に対する小切手の振出等について代理権限を附与していたものであり、本件約束形二通の振出に当つてはAにおいて、被控訴人の印章を所持しており、且つ右印章と同一のものが振出人名下に押されている被控訴人振出名義の小切手を控訴人に示して被控訴人から手形振出の代理権を附与されていると言明したものであつて、控訴人においてはAに代理権限があると信ずるについて正当の理由があるから、被控訴人はAのなした右記名押印による手形振出行為について責を免れない、と主張するけれども、Aが所持していた被控訴人の印章はAが勝手に持ち出したものであることは、前段認定のとおりであるので、このことから直ちにAに何等かの代理権があるものとなし難く、他にAが被控訴人を代理する何等かの権限を有することを認めうる証拠はない。却つて証拠によると、被控訴人は家業の靴下製造販売業について物品の販売購入は勿論、取引銀行に対する小切手手形の振出等一切の業務を自ら包握処理し、Aに個別的に指示して小切手手形の記載をさせることはあつたが、包括的に小切手手形の振出をAに委したことがなく、Aは単に家族の一員として被控訴人の指示に従つて、家業に従事しているに過ぎず被控訴人を代理する権限までは附与されていなかつたことが認められるから、Aのした右記名押印による手形振出行為について民法第一一〇条に所謂表見代理の成立する余地なきものというべく、従つて控訴人の右主張も採用することができない。よつて控訴人の被控訴人に対する本訴請求は失当として棄却を免れず、原判決は正当。