大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和30年(ネ)1470号 判決 1959年11月28日

控訴人 原田俊吉

被控訴人 若林清一 外二名

主文

被控訴人木村両名に対する本件控訴を棄却する。

原判決中被控訴人若林清一に関する部分を取り消す。

被控訴人若林清一は控訴人に対し別紙目録第一記載の家屋及び同第二記載の土地につき昭和二八年三月二一日の代物弁済を原因とする所有権移転登記手続をせよ。

控訴人と被控訴人木村両名との間に生じた控訴費用は控訴人の負担とし、控訴人と被控訴人若林清一との間に生じた訴訟費用は第一、二審とも被控訴人若林清一の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人若林清一に対し、被控訴人木村亮は、別紙目録第一記載の家屋(以下本件家屋という。)につき、被控訴人木村埜武恵は、同目録第二記載の土地(以下本件土地という。)につき、それぞれ譲渡契約を原因とする所有権移転登記手続をせよ。被控訴人若林清一は主文第三項と同旨の登記手続をせよ。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴人木村両名代理人は、主文第一項と同旨及び控訴費用は控訴人の負担とするとの判決を求めたが、被控訴人若林清一は当審における口頭弁論期日に出頭せず答弁書を提出しなかつた。

当事者双方の主張は、

控訴代理人において、

本件家屋は、被控訴人木村亮の、本件土地は、被控訴人木村埜武恵の各所有物件であつたところ、被控訴人木村両名は、昭和二八年一月中旬頃被控訴人若林清一から金員を借り受け、その債務の履行を担保するため、同日右土地家屋を同被控訴人に信託的譲渡をし、内外とも所有権を移転し、その後は被控訴人若林清一がこれを所有するに至つた。控訴人は被控訴人若林清一に原判決の請求の原因(二)記載のとおり金員を貸与し、同被控訴人は、右債務の担保として本件土地家屋を控訴人に再担保に供し、右いずれかの債務の弁済を一度でも怠つたときは、当然代物弁済として譲渡する旨契約した。しかるに、被控訴人若林清一は最も早く昭和二八年三月二〇日に約定の弁済期の到来した一九万八、〇〇〇円の債務の弁済をしなかつたので、同日控訴人は右物件の所有権を取得した。仮に右担保契約が停止条件付代物弁済契約でなく、代物弁済の予約であるとしても、控訴人は、被控訴人若林清一が右のように債務の弁済をしなかつたので、同月二一日同被控訴人に対し貸付金合計六七万八〇〇〇円の債務に対する代物弁済として前記土地家屋の所有権を取得する旨代物弁済予約完結の意思表示をし完全にその所有権を取得した。控訴人は、右土地家屋の所有権を取得したので、被控訴人若林清一に対しその移転登記手続を求めたがこれに応じなかつたばかりでなく、同被控訴人は、現在登記簿上の所有名義人である被控訴人木村両名に対しその移転登記手続を求めない。そこで、控訴人は、被控訴人木村両名に対し自己の所有権移転登記請求権保全のため被控訴人若林清一に代位して本件土地家屋の所有権移転登記手続を被控訴人若林清一にすることを請求するとともに、被控訴人若林清一に対し同人がその所有権移転登記を得たときは直ちに控訴人に対し、昭和二八年三月二一日の代物弁済を原因としてその所有権移転登記手続をすることを求める。

被控訴人若林清一の被控訴人木村両名に対する債権は未だ消滅していない。仮に被控訴人若林清一の主張のように昭和二八年一月末日、被控訴人木村両名主張のように同年七月九日右債権が消滅したとしても、両者間に本件土地家屋につき所有権を移転すべき債権債務の関係を生ずるにとどまり、直ちに被控訴人らの間及び被控訴人若林清一と控訴人との間の物権関係に変動を生ずるものではない。

被控訴人木村両名は、被控訴人若林清一に対し本件土地家屋の所有権を債権担保の目的で信託的に譲渡したのであるから、被控訴人若林清一との合意により担保権を消滅させることはできる。しかしながら、被控訴人若林清一は、被控訴人木村両名が被控訴人若林清一に対し負担し又は負担することのあるべき債務の限度でなく、被控訴人若林清一が金融業の資金を控訴人から借り受けることにより負担することのあるべき債務につき、被控訴人木村両名の承諾を得て右物件に対する担保権を控訴人に再担保に供したのである。従つて、被控訴人木村両名は、被控訴人若林清一に対し負担する債務以外に被控訴人若林清一が控訴人から融資を受けて負担する債務につき物上担保を提供したこととなるから、被控訴人木村両名の被控訴人若林清一に対する債務の弁済により、控訴人の取得した権利を消滅させることはできない。又控訴人は前記のように再担保、代物弁済契約により昭和二八年三月二一日本件土地家屋の所有権を取得し、被控訴人らは同日以後その所有権を失つたのであるから、被控訴人らの間における担保権消滅の合意により、第三者である控訴人の権利を侵害することはできないし、たとえ右合意が被控訴人若林清一の権利放棄と解せられるとしても、その放棄は第三者である控訴人に対抗することはできない。と述べ、

被控訴人木村両名代理人において、

被控訴人木村両名は、被控訴人若林清一から一〇万円を借り受け、同被控訴人に本件土地家屋に対する権利証、委任状、印鑑証明書を交付した。右書類の交付は、被控訴人若林清一に対する債務履行を担保するためのものと解せられるが、右は、被控訴人木村両名が担保のため右物件の所有権を被控訴人若林清一に移転するものではなく、単に債務の完済に至るまで被控訴人木村両名がそれぞれその所有の右土地家屋を第三者に譲渡し、又は抵当権を設定する等の行為をすることができないようにし、被控訴人若林清一の債権を確保するためのもの、すなわち被控訴人木村両名の処分を禁止するための単純な担保契約にすぎず、控訴人主張のような譲渡担保契約ではない。

仮に被控訴人木村両名が控訴人主張のとおり本件土地家屋を譲渡担保とし、被控訴人若林清一が控訴人に更に譲渡担保に供したとしても、控訴人はその権利を被控訴人木村両名に対抗することはできない。すなわち、被控訴人若林清一は、右土地家屋に対する権利は担保の目的のためのものにすぎないのに、更に控訴人に対する債権の担保としたのであるから、民法第三七五条第三七六条の規定の趣旨から同法第三七六条第一項の類推適用があるところ、転担保の通知なくかつ被控訴人木村両名は転担保につき承諾をしたこともないから、控訴人は右被控訴人らに右権利を対抗することができない。

控訴人は、右のように転担保権を被控訴人木村両名に対抗できないのであるから、右被控訴人らは、被控訴人若林清一に対し前記債務の弁済をすることができるし、弁済したことを控訴人に対抗することができる。そして、被控訴人若林清一と被控訴人木村両名との間の担保契約が代物弁済に関する担保契約であるとしても、それは、停止条件付代物弁済契約ではなく、代物弁済の一方の予約と解すべきところ、被控訴人若林清一は、被控訴人木村両名に対し代物弁済予約完結の意思表示をしないで、かえつて被控訴人木村両名に弁済を求めた。被控訴人木村亮は、昭和二八年七月九日被控訴人若林清一に対し前記債務の元利金を完済し、被控訴人若林清一は被控訴人ら間の譲渡担保契約を消滅させ、本件土地家屋の所有権を被控訴人木村両名にそれぞれ返還した。その間被控訴人木村両名と被控訴人若林清一との間の譲渡担保契約につき右物件の所有権移転登記を経由しておらず、登記名義は依然被控訴人木村両名であつたから、控訴人がその主張のとおり被控訴人若林清一から右土地家屋を再担保として譲り受けたとしても、その所有権移転登記を経由していないから、控訴人はその所有権を被控訴人木村両名に対抗することができない。従つて、控訴人は、被控訴人木村両名に対し、被控訴人若林清一に代位して本件土地家屋につき譲渡担保に基く所有権移転登記手続を請求することはできない。

控訴人は、被控訴人木村両名が被控訴人若林清一の控訴人に対する債務につき本件土地家屋を物上担保として提供したと主張しその趣旨が被控訴人木村両名が右債務を担保するため物上保証人となつた旨の主張であるとすれば、右主張は、訴の変更に当りしかも請求の基礎に変更があり、かつ第二審において被控訴人木村亮本人尋問のあつた後提出され著しく訴訟手続を遅滞させるものであるから、右訴の変更は許されない。仮に許されるとしても、被控訴人木村両名は、控訴人主張のような物上保証をしたことはない。

と述べた外、原判決の事実記載と同一であるから、これを引用する。

当事者双方の証拠の提出援用認否は、

控訴代理人において、甲第七、第八号証を提出し、当審証人亀田貢の証言、当審における控訴人本人尋問の結果を援用し、被控訴人木村両名代理人において、当審における被控訴人木村亮本人尋問の結果を援用し、甲第七、第八号証の成立を認めると述べた外、原判決の事実記載と同一であるから、これを引用する。

理由

成立に争のない甲第一、第二号証の各一、二、控訴人と被控訴人木村両名との間で成立に争がなく、被控訴人若林清一に対する関係では当審における被控訴人木村亮本人尋問の結果により成立の認められる甲第三号証の一ないし四、第四号証の一ないし三、第五、第六号証の各一、二、第七、八号証、原審及び当審における被控訴人木村亮本人尋問の結果により成立の認められる乙第一号証、原審証人西川良雄、森本庄次郎、原審及び当審証人亀田貢の各証言、原審及び当審における控訴人と被控訴人木村亮(後記信用しない部分を除く。)各本人尋問の結果、弁論の全趣旨を総合すると、次の一ないし四の事実を認めることができる。

一、本件家屋は、被控訴人木村亮の所有で昭和二〇年一二月一七日以降その名義で登記され、本件土地は被控訴人木村埜武恵の所有で、昭和二七年四月二二日以降その名義で登記され、現在に至つている。

二、被控訴人若林清一は、昭和二八年一月中旬頃被控訴人木村両名と木村修知を連帯債務者として一〇万円を弁済期を定めず利息一ケ月七分の約定で貸与し(右一〇万円の貸借があつたことは被控訴人らの認めるところである。)、右債務を担保する目的で被控訴人若林に対し、被控訴人木村亮はその所有の本件家屋を譲渡担保として譲渡し、外部関係は勿論内部関係においても所有権を移転するが、弁済とともに所有権は当然復帰することを約し、その権利証(甲第三号証の一)、買受人の記載のない不動産売渡証書(同号証の二)、登記申請用の委任状(同号証の三)各一通、印鑑証明書三通(同号証の四、第五号証の一、二)を交付し、被控訴人木村埜武恵はその所有の本件土地を譲渡担保として同様の約旨で譲渡し、その権利証(甲第四号証の一)、登記申請用の委任状(同号証の二)各一通、印鑑証明書三通(同号証の三、第六号証の一、二)を交付したが(右書類の交付があつたことは各当事者間に争がない。)、その所有権移転登記手続を経由しなかつた。

三、被控訴人若林清一は、昭和二八年一月中旬頃控訴人に対し本件土地家屋を担保として金員を貸与されたいと依頼し、控訴人は右物件の担保価値があると考え一〇〇万円を限度として貸与することを承諾し、(1) 、同月二〇日一九万八〇〇〇円を弁済期同年三月二〇日、(2) 、同年一月二〇日一八万円を弁済期同年四月末日、(3) 、同年一月二九日三〇万円を弁済期同年七月末日とし、右いずれかの弁済期日にその弁済を怠つたときは、当然本件土地家屋の所有権を取得する約定で貸与し、被控訴人若林清一は、控訴人に対し被控訴人木村両名から交付を受けた前記権利証、委任状及び印鑑証明書を交付した(被控訴人若林清一が控訴人から右金員を右弁済期日の約定で借り受け、右書類を控訴人に交付したことは、同被控訴人の認めるところである。)。

四、被控訴人若林清一は、前記(1) の貸金の弁済期日である昭和二八年三月二〇日に(1) の債務の弁済をしなかつたので、代物弁済の効力を生じたがその登記はなされなかつた。

原審及び当審における被控訴人木村亮本人尋問の結果中右認定に反する部分は前掲の証拠と対比して信用することができない。

右一ないし四の認定事実から考えると、被控訴人若林清一は、昭和二八年一月中旬頃被控訴人木村両名に対する一〇万円の債権に対する譲渡担保として、被控訴人木村亮から本件家屋の、被控訴人木村埜武恵から本件土地の所有権を外部関係は勿論内部関係においても取得し、控訴人は、被控訴人若林清一が前記(1) の債務をその弁済期に履行しなかつたため、控訴人と被控訴人若林清一との間の停止条件付代物弁済契約の条件が成就し、同被控訴人に対する債権六七万八〇〇〇円とその利息に対する代物弁済として昭和二八年三月二一日本件土地家屋の所有権を取得したものというべきである。

被控訴人木村両名は、被控訴人若林清一に対し本件家屋及び土地をそれぞれ譲渡担保に供したことはなく、権利証、委任状及び印鑑証明書を交付したのは、単に被控訴人木村両名が右物件を処分することができないようにするためであると主張するが、右主張にそう当審における被控訴人木村亮本人尋問の結果は、前掲の証拠と対比して信用できないし、他に前記認定をくつがえして右被控訴人らの主張事実を認めるに足る証拠はない。次に被控訴人木村両名は、同被控訴人と被控訴人若林清一との間の担保契約は売渡担保でも停止条件付代物弁済契約でもなく、代物弁済の一方の予約であると主張するが、右主張事実を認めて前記認定をくつがえすに足る証拠はないから、代物弁済の一方の予約があつたことを前提とする被控訴人木村両名の主張は採用できない。

前掲の乙第一号証、原審における被控訴人木村亮本人尋問の結果により成立の認められる乙第二、第三号証の各一、二(乙第二、第三号証の各二については控訴人と被控訴人木村両名との間で成立に争がない。)。原審証人森本庄次郎の証言、原審及び当審における被控訴人木村亮本人尋問の結果、弁論の全趣旨を総合すると、被控訴人木村亮は、被控訴人若林清一に対し前記借受金の利息を支払つていたが、昭和二八年六月頃被控訴人若林清一から子供が入院したので右債務を弁済してもらいたいと請求されたので、まず一万七六〇〇円を、次いで同年七月九日頃一〇万円を弁済して元利金を完済し、被控訴人若林清一から借用証書(乙第一号証)、委任状(乙第二、第三号証の各一)、印鑑証明書(乙第二、第三号証の各二)等当時同被控訴人の所持していたすべての書類の返還を受けたことを認めることができる。既に認定したところにより明らかなように、被控訴人木村両名と被控訴人若林清一との間の本件土地家屋に関する譲渡担保契約は、被控訴人木村両名の債務の弁済を確保するためにしたものであり、弁済期までに弁済があつたときは当然所有権は被控訴人木村両名に復帰する約旨であり、右債務は期限の定のないものであるから、債権者である被控訴人若林清一の請求により履行期が到来し、被控訴人木村両名が債務を弁済したことにより、本件家屋の所有権は被控訴人木村亮に、本件土地の所有権は被控訴人木村埜武恵に当然復帰したものである。

控訴人は、被控訴人木村両名が被控訴人若林清一に対する債務を弁済しても、両者間に本件土地家屋につき所有権を移転すべき債権債務の関係を生ずるにとどまり被控訴人らの間及び被控訴人若林清一と控訴人との間の物権関係に変動を生ずるものではないと主張するが、被控訴人木村両名が被控訴人若林清一に弁済をし債務が消滅したときは、前認定のように本件土地家屋の所有権は当然被控訴人木村両名にそれぞれ当然復帰し、単に所有権を移転すべき債権債務の関係を生ずるにとどまるものでなく、右所有権が被控訴人木村両名にそれぞれ復帰する結果、被控訴人若林清一が本件土地家屋を控訴人に譲渡担保に供しその移転登記がされない間に更にこれを二重に処分したと同様の法律関係を生じ、対抗要件をいずれが具備するかにより、控訴人の右物件に対する所有権にも影響を及ぼすこともあり得るのであるから、控訴人の右主張を採用することができない。

控訴人は、被控訴人木村両名は被控訴人若林清一が金融業の資金を控訴人から借り受けることにより負担することのあるべき債務につき本件土地家屋を再担保に供することを承諾し、右債務につき物上担保を提供したこととなるから、被控訴人若林清一に対する債務の弁済により、控訴人の取得した権利を消滅させることはできないと主張するが、被控訴人木村両名が控訴人主張の債務につき被控訴人若林清一が再担保に供することを承諾し物上担保を提供したことを認めるに足る証拠はなく(被控訴人木村両名は、右両名が物上担保を提供したとの控訴人の主張は、訴の変更に当ると主張するが、右主張は要するに被控訴人木村両名が被控訴人若林清一に対する債務を弁済することにより、本件土地家屋につき控訴人の取得した権利を消滅させることができないことを主張し、その理由として被控訴人木村両名が再担保に供することを承諾し、物上担保を提供したこととなるからであるとしているのであつて、単に攻撃方法として主張しているにすぎないから、訴の変更があつたということはできない。)、既に認定したところにより明らかなように、被控訴人木村両名は被控訴人若林清一に適法に弁済をすることができるのであるから、控訴人の右主張は採用できない。

控訴人は、被控訴人若林清一との再担保契約により昭和二八年三月二一日本件土地家屋の所有権を取得し、被控訴人らは同日以後その所有権を失つたのであるから、被控訴人らの間における担保権消滅の合意により第三者である控訴人の権利を侵害することはできない。右合意が被控訴人若林清一の権利放棄と解せられるとしても、その放棄は第三者である控訴人に対抗することができないと主張するので考える。既に認定したところにより明らかなように、被控訴人木村両名は被控訴人若林清一に対し譲渡担保により本件土地家屋の所有権を譲渡したがその所有権移転登記はされず、被控訴人若林清一は控訴人に対する債務の担保として右土地家屋につき停止条件付代物弁済契約をし、昭和二八年三月二一日右条件成就により控訴人がその所有権を取得したがその登記を経由しない内同年七月九日被控訴人木村亮が被控訴人若林清一に対する債務を完済した。右事実によると、被控訴人若林清一は代物弁済により控訴人に本件土地家屋の所有権を移転したが、その登記を経由しない間に被控訴人木村亮から債務の弁済を受けて被控訴人木村両名にそれぞれ本件土地家屋の所有権を移転したのであつて、二重に所有権を譲渡したのと同一の効果を生ずるものと解すべきである。そして、被控訴人木村亮は本件家屋につき、被控訴人木村埜武恵は本件土地につき終始所有者として登記されていたのであるから、右被控訴人両名は、被控訴人若林清一に対する債務の弁済による所有権回復につき登記を受けたと同様の法律上の地位にあるものというべく、これに反して控訴人は、本件土地家屋につき所有権取得登記を経由していないから、被控訴人木村両名に対しその所有権取得を対抗できないものと解するのを相当とする。他方既に認定したところにより明らかなように、被控訴人若林清一はその子供の入院費等の必要上被控訴人木村亮に弁済を求め、同被控訴人はこれに応じて弁済したのであつて、右弁済及び弁済に伴う本件土地家屋の所有権を復帰させる行為は何ら信義則に反するものではなく、被控訴人木村両名は、当然の義務の履行と所有権回復のための権利を行使をしたにすぎない。従つて、その結果控訴人がその取得した権利を保全することができないとしても、そのことだけで被控訴人木村亮の弁済、被控訴人木村両名の本件土地家屋の所有権回復による所有権取得が控訴人に対抗できないということはできない。控訴人の右主張は採用することができない。

既に認定したところにより明らかなように、被控訴人木村亮が昭和二八年七月九日頃被控訴人若林清一に対し債務を完済し、本件土地家屋の所有権が被控訴人木村両名にそれぞれ復帰した以上、右家屋につき被控訴人木村亮に対する、右土地につき被控訴人木村埜武恵に対する被控訴人若林清一の所有権移転登記請求権も当然消滅したというべきである。右登記請求権が存在することを前提とし、被控訴人若林清一に代位して被控訴人木村両名に対し被控訴人若林清一名義に所有権移転登記手続を求める控訴人の請求は、失当として棄却されるべきである。

次に被控訴人若林清一に対する請求につき考えるに、既に認定したところにより明らかなように、同被控訴人は控訴人から六七万八〇〇〇円を借り受け、その担保として本件土地家屋につき停止条件付代物弁済契約をし、昭和二八年三月二一日停止条件成就により、右土地家屋につき右債務に対する代物弁済の効果を生ずるに至つたものであるから、被控訴人若林清一は、右代物弁済を原因として控訴人に対し本件土地家屋につき所有権移転登記手続をする義務がある。もつとも、現在本件家屋は被控訴人木村亮の、本件土地は被控訴人木村埜武恵の名義にそれぞれ登記されており、被控訴人若林清一の所有名義に登記されていないが、このことは、被控訴人若林清一の登記義務の存在そのものを妨げるものではない。そうすると、控訴人が被控訴人若林清一に対し、本件土地家屋につき昭和二八年三月二一日の代物弁済を原因とする所有権移転登記手続を求める請求は、正当として認容されるべきである。

被控訴人木村両名に関する部分につき、以上と同趣旨の原判決の部分は相当であつて、この部分に対する本件控訴は理由がないが、被控訴人若林清一に関する部分につき以上と異る原判決の部分は失当であるから、これを取り消し、同被控訴人に対する控訴人の本訴請求を認容し、民訴法第三八四条第三八六条第九六条第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 熊野啓五郎 岡野幸之助 山内敏彦)

目録

第一、大阪市城東区古市大道三丁目二五番地上

家屋番号同町第一〇番の一〇

一、木造瓦葺二階建居宅一棟

建坪 二七坪一合一勺

二階坪 二四坪六合四勺

同所

家屋番号同町第二四番

一、木造瓦葺平家建居宅一棟

建坪 四〇坪七合三勺

第二、大阪市城東区古市大道三丁目二五番地

一、宅地 九二坪八合九勺

同町二五番地の一七

一、宅地 四五坪三合九勺

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例