大阪高等裁判所 昭和30年(ネ)916号 判決 1957年9月28日
控訴人 田中楢次郎
日生ゴム株式会社
被控訴人 葛城税務署長
訴訟代理人 木村 傑 外三名
主文
本件控訴はこれを棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴人及び参加人訴訟代理人は「原判決を取消す。被控訴人が控訴人に対してなした昭和二四年度相続税金一四二、六四〇円の、賦課処分の無効であることを確認する。被控訴人が控訴人名義にかかる大和高田局二七二番の電話加入権につき昭和二八年六月二九日なした差押処分並びに昭和二九年一月二〇日なした公売処分を取消す。訟訴費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方代理人の主張、証拠の提出、認否、援用は次に記載するほか、原判決摘示事実と同一であるからここにこれを引用する。
控訴代理人は原判決事実二の(四)に「原告は昭和二十四年三月末原告の長男訴外田中繁美、次男訴外田中茂及び長女訴外田中弘子に近畿日本鉄道株式(以下単に近鉄株と略称する)を八百株宛二千四百株を売渡したことはあるが之を贈与したことはない」とあるを「控訴人は昭和二四年三月一五日控訴人の長男茂に近鉄旧株一、二三〇株、同長女弘子に同一、〇〇〇株を売渡したことはあるが、これを贈与したことはない」と訂正し、右訴外三名につき、昭和二四年七月一日近鉄第九新株の割当があり、当時その株式につき一株金五〇円全額払込のあつたことは認めると陳述し、被控訴代理人は本案前の訴却下を求める部分を撤回し、控訴人は昭和二四年三月一五日訴外茂に近鉄株三三〇株、同月三一日同弘子に同一、〇〇〇株を又同繁美、茂、弘子に同人等が町年七月一日割当を受けた近鉄第七新株各八〇〇株の払込金一株金五〇冊相当金員を贈与した。右繁美、茂の各名義である日生ゴム株式会社の株式が五〇〇株宛であることは争わないと述べ、証拠<省略>
理由
被控訴人が控訴人に対し昭和二五年八月一〇日附で相続税金一四二、六四〇円の賦課処分をしたこと、右処分について控訴人に対し納税告知書が送達されたこと、被控訴人が右相続税の滞納処分として昭和二八年六月二九日控訴人名義の大和高田局二七二番の電話加入権を差押え、次いで昭和二九年一月二〇日控訴人に対し右電話加入権を公売に付すべき旨通知をしたことは当事者間に争いがない。
控訴代理人は被控訴人が昭和二五年八月頃右納税告知書を破棄し、もつて右相続税賦課処分を取消し、若しくは撤回したと主張するが、この点に関する控訴人の原審(第一、二回)並びに当審における本人訊問の結果は措信し難く他にこれを認めるに足る証拠はなく、反つて原審証人今福三郎(第一、二回)当審証人広川雅俊の証言によると、控訴人はその主張の頃右納税告知書を葛城税務署に持参したが、同署係員においてこれを受取りたこともなく又元よりてれを破棄したような事実がない、ことが認められるので、右主張は理由がない。
控訴人は右賦課処分については、決定通知書の送達は受けていないと主張するが、成立に争のない乙第三〇、三一号証の各一、二原審証人今福三郎(一、二回)の証言、右証言(第二回)により真正に成立したものと認められる乙第一七、一八号証の各一、二によると右賦課処分当時葛城税務署における相続税(贈与税)の課税事務は納税義務者につき課税価格が決定すると、直税課において贈与税台帳へ記載し、その決定通知書を作成し、これを封筒に差入れ、右台帳とともに総務課管理係へ回送し、同係において納税告知書を作成した上右封筒に同封し、同課文書発送係に回送し同係において封筒から内容の書類を引出し、宛名、書類を確めた上、文書発送件名簿に月日、記番号、宛名、発送する書類を書き入れ、ここより郵便局の手を経て納税義務者之発送して行われていること並びに葛城税務署備付の一人別徴収薄には控訴人に対する納税告知書な昭和二五年八月二〇日発送した旨の記載があることが認められる。従つて納税告知書が控訴人に送達されていること当事者間争いのない本件においては決定通知書もこれと同封して控訴人に送達されたものと認めるを相当とすべく、控訴人の原審(第一、二回)並びに当審における本人訊問の結果中右認定に反する部分は措信し難く、他に右認定を覆すに足る証拠はない。
控訴人は昭和二五年八月以前において遺産相続の事実はないと主張するが控訴人が昭和二四年三月一五日次男茂に近鉄株三三〇株、長女弘子に同一、〇〇〇株を譲渡したこと並びに控訴人の長男田中繁美、右茂、弘子が同年七月一日近鉄第九新株八〇〇株宛の割当を受けたことは当車者間に争いがない。然るところ、控訴人は右株式の取得及び新株の払込は右訴外人等が自己資金で賄つたものであつて、控訴人が同人等に右株式そのもの、又はその取得資金及び新株払込金相当額を贈与したものではないと主張するのであるが成立に争いのない乙第七乃至一四号証、第八乃至一〇号証の各一、控訴人の印影部分は成立に争いがないのでその余の部分も真正に成立したものと認められる乙第一六号証原審証人今福三郎(第一、二回)、同田中繁美、同田中茂の各証言、原審における控訴人の本人訊問の結果(第一、二回)の各一部右証人今福三郎(第一回)の証言により真正に成立したものと認められる乙第二号証を綜合すると、右訴外人等はそれぞれ原告の長男、次男長女であつて右株式取得当時いづれも学生であり、控訴人と生計を一にしてその扶養を受け、資産所得ともに見るべきものがないのに反し、控訴人は相当の財産を所有し、右株式そのもの又は株式取得資金及び新株払込金はいづれも控訴人が、支出していることが認められるので、右訴外人等の右株式取得はいづれも控訴人の同人等に対する株式そのもの又はその取得及び払込資金の贈与によるものであると認めるを相当とする。原審証人田中繁美、同田中茂の各証言、控訴人の原審(第一、二回)並びに当審における本人尋問の結果中右認定に反する部分は措信できず、他に右認定を覆すに足る証拠はない。
そして本件課税処分は相続税法に規定された財産贈与を対象とする贈与税の賦課処分であつて、相続に因る相続税の賦課処分でないこと明らかであるから控訴人の右主張は失当である。
控訴人は、控訴人が右認定のような贈与をしたとしても、受贈者が贈与税の納付義務者となるは格別、控訴人が義務者となるものでないと主張するが、前記贈与当時の相続税法(昭和二二年法律第八七号)第一条によれは、財産を贈与した個人は相続税法に従つて贈与税を納める義務があること明らかであり、本件課税はかかる贈与税に外ならないから控訴人の右主張は理由がない。
しかるところ、相続税法における贈与財産の価額は、贈与の時における時価によるべく、成立に争いのない乙第二三号証によると近鉄株の仲値は三月一五日金一一九円、同三一日金一一一円であつたことが認められるので、近鉄割当新株の払込金を一株金五〇円として(この点当事者間に争いない)計算すれば、右贈与価額は金二七〇、二七〇円となる。被控訴人は、控訴人にはこの外訴外繁美、茂に対する日生ゴム株五〇〇株の払込資金各二五、〇〇〇円の贈与があると主張するのみで、右訴外人等は単に右株式の株主名義人に過ぎないとの控訴人の主張に対しあえて、被控訴人の主張を明らかにする証拠を提出しないのであるが、一方原審証人今福三郎の証言(第二回)により真正に成立したものと認められる乙第一七号証の一、二によると被控訴人は控訴人の昭和二四年度贈与価額を金四八〇、〇〇〇円とし、これを基本として控訴人主張のような相続税(贈与税)を算出したことが認められ、前記認定との間には相当の隔りのあることが認められるが、右隔りは右日生ゴム一、〇〇〇株の払込資金の出処を明らかにすることにより全部又は一部補足せられることもあるべく又かりに此点を明らかにすることができず、本件賦課処分における瑕疵となり終るものとしても、かかる瑕疵は明白、重大なものとして右処分を無効とするに至らず、その救済は専ら右処分の取消又は変更を求める訴によつてなされるものと解するを以て、控訴人の本訴請求中賦課処分の無効確認を求める部分及びこれを前提とする差押処分並びに公売処分の取消を求める部分はいづれも理由なく、これを失当として棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第三八四条第八九条第九三条、第九四条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 田中正雄 松本昌三 乾久治)