大判例

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大阪高等裁判所 昭和31年(う)1103号 判決

論旨は、原判決は証拠にするべからざるものを証拠とし、又証拠の証明力に対する判断を誤つた結果、事実を誤認していると主張するのであるが、原判示事実はその挙示する証拠による証明十分である。右の証拠によると、被告人杉田実は大阪市南区西清水町四十三番地及び同町四十四番地の一に宅地百七十坪を所有し、守田米一は該地上に木造二階建建物三棟(延建坪合計二百七十一坪、室数約四十室)を所有し同建物を守田ビルの名称で貸室貸事務所用に利用し、その敷地の右土地を占有していたが右両者の間に紛争を生じ、同被告人は右建物の収去及び右土地の明渡の訴訟を起し、係属中であつたのであるが、この紛争を自己に有利に解決しようとして、原判示のように貸室の賃借人にいやがらせをし、追出す方法を講じていたが、昭和二十八年十二月下旬その目的達成のために、同月二十五日クリスマスの祝宴に名を借り同ビル内に居住せしめている被告人木下昭二、同関根俊且外多数のルンペン(浮浪者)をして昼間から同ビル内で飲酒させ放歌喧騒させていやがらせをさせようと企て被告人杉田実自ら被告人山本久男及び自己の使用事務員池田藤一に対し、又同人等を介して被告人木下昭二、同関根俊且に対し順次その情を明かして協力を求め、ここに右五名共謀の上、同月二十五日午前十時頃から同日午後三時頃までの間前記守田ビル二階において、被告人木下昭二、同関根俊且が情を知らない同ビル内居住の浮浪者十数名と共に、飲酒酩酊の上、被告人杉田実より交付を受けていた銅鑼を乱打し、放歌喧騒しながら同ビル二階廊下を徘徊し、嘔吐した汚物をまき散し、同ビルに来訪した外来者等を殴打せんばかりに喧嘩を吹きかけ更に同ビル二階に存する計理士佐伯隆の在室執務する同人の事務所、大阪金属株式会社取締役藤原茂の在室執務する同会社事務所及び鎌田写真機械修理工作所従業員鎌田清一郞の在室執務する同工作所作業場に乱入し喧嘩を吹きかける態度をとり、以て威力を用いて業務を妨害した事実を認めることができる。

ところで、所論(一)は被告人等の検察官に対する供述調書の証拠能力を否定するけれども、記録によると被告人関根俊且、同木下昭二は当初右守田ビルに対し昭和二十八年十二月二十九日行われたとする放火予備罪の被疑事実により昭和二十九年三月二十日勾留せられ取調を受け、その放火予備の動機取調の進行過程において同ビル同各室の賃借人をして常時使用することの不快さ及び困難さを味わせる、いわゆるいやがらせの各種の手段の一としての本件公訴にかかる事実が発覚し昭和二十九年四月八日起訴せられ威力業務妨害罪により改めて令状請求され勾留せられたものであつて、放火予備も本件威力業務妨害も一連のいわゆるいやがらせ手段のあらわれであるから、その起訴不起訴を決定する必要上前者の事実を基礎とする勾留中に後者の事実を取調べるのは当然の措置であつて、所論のように不当な勾留期間の延長であるとする非難は当らないし、本件事案の複雑干係者の多数等の点からみて、勾留後二十数日後の被告人等の検察官に対する供述を目して、不当に長く拘禁された後の自白とする所論は首肯し難い。又所論被疑事実の告知は勾留の要件であつて、勾留中の被疑者に対しその者の犯罪事実に関する取調中に他の犯罪事実を自供する場合にその犯罪事実を被疑事実として告知することは無意味であり、訴訟法の要求するところではなく、所論のように当初供述拒否権を告知されている以上、十分な防禦権を行使する機会を与えられていなかつたものともいえないのである。ところで、被告人木下昭二は昭和二十九年四月八日起訴されたもので、同被告人の検察官に対する同年四月二十二日附の供述調書は明らかに起訴後の取調作成にかかるものであることは所論の指摘するとおりである。そして公訴提起後捜査官が被告人を取調べることの適否については刑事訴訟法第百九十八条の規定をめぐり消極、積極の両説が対立している。消極説は同条が「被疑者の取調」と規定し被告人は含まれないとする文理解釈と現行刑事訴訟法が旧刑事訴訟法と異り特に被告人の当事者としての地位を強化している当事者対等主義の建前を根拠として、公訴提起後は捜査官が被告人を当該公訴事実について取調をすることは許されないものとし、その供述調書の証拠能力を否定するのである。しかし、同法第百九十七条により明らかなとおり捜査官の任意捜査については別段の制限はなく、公訴提起後についても公訴維持のため当該公訴事実について捜査を継続することができる建前をとつているのであるから、「被疑者」の文字にかかわる必要はなく、公訴提起後においては被告人の当事者たる地位にかんがみ、捜査官が当該事実について被告人を取調べることはなるべくさけなければならないことは当然であるが、当事者主義が厳守活用され、当事者が対当の地位において活動すべき本舞台はいうまでもなく公判手続においてであるから、公訴提起後第一回公判期日前において捜査官が被告人を取調べ供述調書を作成することは違法でないものと考える。そして、原審第一回公判が開廷されたのは昭和二十九年六月二日であるから前記検察官調書の証拠能力がないとの主張は当らない。それゆえに被告人等の検察官に対する供述調書の証拠能力を各種の理由から否定する所論(一)は採用の限りではない。

(裁判長判事 松本圭三 判事 山崎薫 判事 辻彦一)

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